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「子どもの夢を応援したい!」自宅から生まれた取り組みが全国展開の大規模イベントに成長

文●杉山幸恵

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「こども万博」の取り組みを小さな町に、そして世界各国へと広げていきたい

 2024年、手塚さんはメタバース関連技術を専門とする「Meta Osaka」に入社する。デジタルやeスポーツなどを通して、地方自治体が抱える課題の解決や経済活性化にも貢献する会社だ。

 「実は以前より複数の企業から『こども万博を一緒に』とお声をいただいていて。そのなかでも『Meta Osaka』の代表取締役である毛利さんには、特別に『一緒にやりたい』と思える明確な理由があったんです。

 毛利さんは実績やメディア効果ではなく、『こういう活動こそ残さなければ』と、その本質的な価値を見てくれました。想いだけで大きくなった取り組みで、まだ形が整っていない分壊れやすいが、だからこそ守る意味があると。

 そして私が子どもに膝をついて話す姿に感動したと言ってくださり。私が人脈を持っているとか、何かすごいことを語っているとかではなく、その姿勢を理解してくれたことが何よりうれしかったです。

 もう一つの理由は、自分がデジタルに弱く、直接会えない子どもたちに何もできないことへの限界を感じていたこと。『Meta Osaka』なら、病院や家にいる子どもにもワクワクを届けられるんだと、私にとって未知の分野でしたが挑戦したいと思ったんです」

「EXPO2025大阪・関西万博」公式プログラムで「メタバース・XR・AIアワード&防災万博」に登壇した時の様子

 2025年4月には取締役に就任した手塚さん。「こども万博」の時期に合わせ、働き方を調整できる環境と裁量を得たことで、さらに新たな取り組みも進めている。

 人口4000人ほどの北海道・平取町では、実行委員会を地元住民と組んで「こども万博」を開催。高齢者が多い地域ながらファミリー世帯2000人を集客し、地域に前向きな空気が生まれた。こういった取り組みを単発で終わらせないよう、デジタルでのオンライン企画や交流空間も構築中だ。

 「取締役になったことで、『こども万博』だけでなく、より広域の取り組みに展開できるようになり、さらにテクノロジーとリアルを組み合わせ、自治体への包括的な提案も可能になりました。現在は、『こども万博』を軸に新地域との連携や、子どもたちの〝その後〟につながるコミュニティづくりを推進しています」

「こども万博in平取」での記念写真

 「こども万博」の事業としての環境が整った今、イベントそのものの開催数は減らしつつ、より質を高める二本柱で進めている。ひとつは大規模開催の体験の深さと教育的効果の向上。もうひとつは「こども万博mini」のような小規模開催で地方創生を実現すること。平取町の例のように、子どもの夢や熱量が大人を刺激し、街に活気を取り戻すきっかけをつくっていきたいという。

 「ほかに新しいチャレンジとして海外開催を考えています。海外に行きたくても行けない子どもたちが、自分の努力で日本代表として海外を経験できる場をつくる。海外の若者をスタッフとして迎え、文化交流を促し、さらにはその後も継続的につながりを深められるように発展させたいです」

 そんな手塚さんが「こども万博」で大切にしていることはただ一つ、「常に子どもたちの声を聞くこと」。ビジネスの話や大人同士で相談をする際、当然のことながらその場に子どもがいないことが多い。つい大人目線の〝子どもに必要なこと〟に寄ってしまいがちだ。

 「本当に必要なのは、子どもが中心であるかどうか。だから私は、常に子どもたちに『これおもしろい?』『やってみたい?』『どんなのが欲しい?』と問い続けることが重要です。

 大人がよかれと思ったことでも、子どもたちの本音とは違うことがあります。だからこそ、リアルな声を聞き、彼らが本当にワクワクするものを一緒に作ることを何より大切にしています」

 現在、手塚さんの夫と3人の子どもはマレーシアで暮らしている。「EXPO2025大阪・関西万博」の終了を見届けたのちに合流し、「こども万博」の海外開催に向けて本格始動する予定だ。

 「私は家族を〝最小単位のチーム〟として考えていて、今は〝地球で遊ぶ〟をテーマに、お互いのやりたいことや挑戦を全力で応援し合える関係を続けたいと思っています。子どもが大きくなった時にも、これまでの人脈や経験を活かしてつなぎ、支える存在でありたいです」

 自身の子どもだけでなく、日本中の、そして世界中の〝子どもの夢を応援する〟ために全力投球している手塚さん。そんな彼女にとって、夢を追いかけるためには貪欲になることが大切だと教えてくれた。

 「〝一つを取ったら一つが犠牲になる〟という考え方は整理しやすいですが、一方でできないことも増えてしまいます。〝どちらかを選ぶ〟より、〝全部やる方法を考える〟ほうが楽しいし、できることも増えます。今は〝そぎ落とす〟考え方が主流だとも聞きますが、私は逆に『全部やってみよう』と子どもたちにも伝えています。

 結果的に全部はできなくても、10個のうち5個できれば、最初から1個に絞るよりずっと多い。〝二兎を追う者は一兎をも得ず〟というよりは、〝全てを追いかけて取るものを全部取っていこう〟という考え方です。

 わたし自身、看護師一本だったら挑戦の機会は限られていましたが、今は看護の経験も活かしながら、やりたいことを全部つなげて実現できています。これがライフシフトして一番よかったことです」

 なにもかも失いかけた学生時代、手を差し伸べてくれた理事長の言葉を胸に、ここまで駆け抜けてきた手塚さん。まだまださらなる成長を目指し、そして子どもたちの輝かしい未来のために、これからもひた走っていくに違いない。最後に「これからライフシフトを目指したい、でも今一歩が踏み出せない」という女性に、こんなメッセージをもらった。

 「まず〝できない〟と思うのではなく、〝どうやったらできるか〟を考えることです。これは、私が子どもたちにも伝えていることと同じです。

 多くの女性は、結婚や出産を機に仕事を諦めたり、逆に仕事を続けたいから子どもを諦めたりと、何かを選ぶときに『どちらかを切り捨てるしかない』と思い込みがちです。でも、まずはそれが本当に物理的に不可能かを考えてみてください。

 今この瞬間にアメリカに行くとか、時空を超えるといった現実的に無理なことは別ですが、それ以外なら方法はきっとあります。やり方を考えてみて『そこまでは頑張れない』と思うなら、それは〝できない〟のではなく〝やらない〟という自分の選択です。

 本当にやりたいことなら、叶える道は必ずあります。諦めたくて諦めるならいいですが、諦めたくないのに諦めているなら、『全部叶えるためにはどうしたらいいか』を一度考えてみてください。

 壁になっているのは、意外と自分の思い込みであることが多いものです。たとえば『出産したらチームから外される』と思うなら、まずはそのチームと話し合い、自分のやりたい役割や相手の不安を共有し、お互いに困らないバックアップ体制を一緒に作ればいいのです。

 大事なのは諦めないこと。できなくなるリスクはありますが、その時のためのバックアップ体制を作っておくことが大切です。最初から諦めるのは、自分で諦めを選んでいるのと同じです。『こうだったらいいのに』と愚痴を言うのは、結局自分に不満をぶつけているのと変わりません。

 本気で変えたいなら、動けばいい。ただそれだけです。私はすべてを失った状態からここまで来ました。学歴も財産も人脈も特別なものがないところから始めています。今もこれといったスキルは持っていません。でも、足りない部分を補ってくれる仲間と出会えたから、ここまで来られました。

 やりたいことと助けてほしいことをちゃんと口にすれば、きっと前に進むヒントは見つかります。一歩踏み出す勇気を持って、まずは動いてみてください」

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