〜これからの人生を前向きに考えるヒント①〜

心理学者・山口 創先生に聞く「ミドル世代はなぜモヤモヤするの?」

文●源詩帆  編集/山野井春絵

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 「なんとなく気分が晴れない」「理由はわからないけれど、ずっとモヤモヤしている」。ミドル世代(40、50代)は、将来への漠然とした不安や身体の変化、更年期、キャリアの行き止まり感など、これまでとは質の違う悩みに直面しやすい時期。

 心理学者の山口創先生に、ミドル世代の心理学的特徴や、リアルなお悩みに対するヒントを伺いました。このコラムが、心がふっと軽くなる、小さなきっかけになれば幸いです。(シリーズ1/3)

ミドル世代は『価値観の転換期』

 心理学者ユングは「中年期」を40歳位から始まると考え、40歳までを「日が昇る時期」、40歳以降を「日が沈んでいく時期」と表現しました。

 「日が沈む」と聞くとネガティブに感じるかもしれませんが、実はそうではありません。確かに体力の衰えは感じますが、これまでの人生で培った経験や考え方を活かして、より充実した生き方への移行期なんです。

 20〜30代のように目標達成のためにがむしゃらに動く時期は過ぎ、40代以降は、家族との時間に幸せを感じるなど、価値観が自然と変化していきます。この過程で、「このままでいいのか」というモヤモヤを感じるかもしれません。今までの生き方と、これからの生き方の間で揺れ動いているんですね。

 また、心理学者エリクソンは中年期の特徴を「世代性」と呼びました。子育て、部下の指導、親の介護など、様々な世代と関わりながら成長する時期です。

 つまりミドル世代は、若い頃とは違う価値観を持てるようになる大切な時間。変化を受け入れ、新しい価値観にシフトしていくことで、人生をより豊かに過ごせるようになります。モヤモヤは、その変化の過程で誰もが感じる自然な感情なのです。

ミドル世代の漠然とした不安、放っておいても大丈夫?

 とはいえやはり日が沈んでいくのを感じる世代。漠然とした焦りや不安を感じる毎日は、居心地が悪いものですよね。

 私自身も例外ではありません。60代が近づく中で、定年を意識し始めています。この先、自分の研究はどこまで成し遂げられるだろうか、誰かが引き継いでくれるだろうかと、今考えても答えが出ない漠然とした悩みを抱えています。ただ、「こういった悩みは誰にとっても永遠のテーマ。今焦る必要はない」と、あえて不安から距離をとるよう心がけています。

 しかし、誰もが不安からうまく距離をとることができるわけではありません。もちろん悩みの種類や大きさ、期間にもよりますが、何かわかりやすい大きなストレスや出来事だけではなく、漠然とした不安に晒され続けることでも、うつ病になることがあるんです。

 この時期は更年期や体調の変化など、親しい友人でも状況が異なるため、共感を得にくいと感じがちです。「自分は恵まれているから」と遠慮してしまう人も多いでしょう。

 しかし、そういう時にこそ「誰かに不安を打ち明ける」ことが重要です。勇気を出して信頼できる人や専門家に話してみてください。案外同じような悩みを抱えていたり、思わぬ解決策が見つかったりすることがあります。漠然とした悩みこそ、一人で抱え込まず共有することで、心が軽くなるものです。

漠然とした不安で孤独を感じ、モヤモヤします...」50代女性のリアルな悩みに回答

【50代女性Hさんのお悩み】
 キャリア、健康、お金...将来への漠然とした不安を抱えています。子育ても落ち着き、新しい仕事の情報収集のためにSNSを開くと、キラキラした投稿に目がいってしまい焦ります。何かに取り組んでも他人と比べて空回りしているように感じ、不安が募る悪循環です。この時期の社会との向き合い方や、気持ちの整理の仕方を教えてください。

【山口先生の回答】
 Hさんのお悩み、とてもよくわかります。実は、SNSの利用時間が長い人ほど、うつや不安が高まるという研究データがあります。人とつながっているはずなのに孤独を感じるのは、他人と自分を比べて、自分の幸福を他人の基準で測ってしまうから。SNSとは程よい距離を保ちましょう。

 また、漠然とした悩みのように「考えても解決しない不安」に意識を向け続けていると、いつまでもストレスは解消されません。もちろん、すぐに解決できる簡単なタスクはどんどん終わらせたら楽になりますが、悩んでも解決しないことも多い。

 そこでお勧めしたいのが「マインドフルネス」です。これは、今この瞬間に意識を向けて、ありのままを受け入れる練習法。難しく聞こえるかもしれませんが、簡単にいうと「今、ここ」に集中することで漠然とした不安から距離を取る瞑想のような方法です。

 「没頭できる趣味」でも同じような効果が期待できます。ポイントは、情報収集や仕事につながることではなく、純粋に「やりたい」と思えることを選ぶこと。ランニング、ヨガ、絵画、編み物、楽器演奏、映画鑑賞など、なんでもいいので、自分にあったものを取り入れてみてください。

 自分が心から楽しめることに打ち込む時間があれば、心が満たされ、焦りも和らぎます。「これをやっている時が一番幸せ」と思えるものを見つけることで、社会や悩みと程よい距離が取れるようになりますよ。

 ミドル世代は価値観の転換期。他人と比べるのではなく、自分だけの幸せを見つける時期なんです。ぜひ、自分のための時間を大切にしてくださいね。「幸せ」については次回詳しくお話しします。

モヤモヤから抜け出し、自分らしく生きるヒント

 大切なのは、「今、ここ」に意識を向け、漠然とした不安から適度な距離を取ることです。そして、時には信頼できる人に悩みを打ち明けてみることも大切です。こうした小さな行動の積み重ねが、心を守る盾になるのかもしれません。

 次回は「ミドル世代の健康と幸せ」について、山口先生にさらに深くお話を伺っていきます。

Profile:山口 創

心理学者。桜美林大学リベラルアーツ学群教授。1967年静岡県生まれ。早稲田大学大学院人間科学研究科博士課程修了。専攻は健康心理学・身体心理学。主に「皮膚」や「タッチ(触れること)」について研究し、さらには幸せホルモン、オキシトシンの分泌メカニズムを科学的に検証している。子育て、看護・介護、セラピストなど様々な分野で研究や講演活動を行っている。著書に『手の治癒力』(草思社)、『子供の「脳」は肌にある』(光文社)などがある。

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