まだ間に合う!女性が50歳から考えたい老後のお金のこと①

改善?改悪?年金制度改正法でこれからの老後はどう変わる?

文●杉山幸恵

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 日本は先進国のなかでもマネーリテラシーが低いとされている。事実、自身の年金のことや老後のお金のことなど、不安に感じつつまだ先のことだと放置している人も少なくないはず。でも、老後はある日突然やって来る。だからこそ、50歳になったら「なんとなく不安」で終わらせてはいけないのだ。今なにを知り、なにを準備しておくかで老後の安心感は大きく変わるから。そんな人に向けて、3回にわたって〝お金の不安〟を〝備えや守り、攻めの行動〟に変えるヒントをお届け。元教師でありファイナンシャルプランナー、現在は「おかんのお金守るチャンネル」を運営する秋山ひろさんに、わかりやすく説明してもらった。

YouTubeチャンネルでは年金の制度解説をはじめ、50代以上の暮らしを整える情報、税金・社会保険料の節約術など、お金にまつわるさまざまなことを配信。漫画の解説もついたメールマガジンも好評だ

マクロ経済スライドによる年金の目減りが、老後の安定した生活を脅かす

 自身の母親が定年退職をし、年金生活に入るのをきっかけにお金のことを学び始めた秋山さん。その制度の難解さ、そして知らないと損をすることが多いことに驚いたのがきっかけだという。その後、ファイナンシャルプランナーの資格も取得し、YouTubeチャンネルでは息子の立場からおかんに伝えるという形で、損をしないためのお金の知識を親切丁寧に説明している。

 そんな秋山さんに教えてもらう、知らなかったでは済まされない!今なら間に合う老後のお金のこと。1回目となる今回は、2025年の年金制度改正法について取り上げる。まず大前提として年金額は年々、目減りしているという。

 「実際には年金額は年々少しずつ増加しています。たとえば、2024年度には国民年金の満額は年81万6000円でしたが、2025年度には83万円台に引き上げられました。しかし、同時に進んでいるのが、物価の上昇、つまりインフレ。結果として手元に入ってくる金額が増えても、足りなくなってしまうという〝実質的な目減り〟が起きています。これはマクロ経済スライドという制度の影響によるものです。

簡単に言えば〝年金制度を持続させるための調整メカニズム〟。年金が将来的に破綻しないよう、物価や賃金の変動に応じて、年金支給額の増加ペースをあえて抑制する仕組みです。

 これまではマクロ経済スライドが厚生年金に適用される期間が2026年に終わるとされていましたが、今回の改正では、その適用期間が延長されることに。2057年までと見込まれていましたが、現時点では年2030年度の終了を目指すことで一致しています。つまりは年金の目減りリスクが今後も長く続くということですね」

 こうした変化が今後の暮らしにじわじわと影響していくことを考えると、やはり今から老後のお金についてしっかりと考えておくことが必要といえるだろう。次に50歳女性の会社員、パート主婦、個人事業主という3つの立場において、今回の年金制度改正法がどのように影響していくのか、それぞれで深掘りしていく。

よくも悪くも老後まで働きやすい社会へと変化。今から土台をつくることが大切

 「まずは会社員についてから。注目すべきは、基礎年金の水準を底上げすることが決定したということ。背景には、先ほどお話ししたマクロ経済スライドによる年金の実質的な目減り。特に、長年、非正規で働いてきた方や、キャリアが不安定だった就職氷河期世代にとっては深刻な問題で、これ以上減らすと、老後の生活が立ちゆかなくなるという声も。

 そこで、基礎年金を一定水準まで引き上げる方向になったと。ただし、その財源をどこにするのか確定していないなど課題も多く、今後の動向に注意が必要です」

 この改正を今のところ「希望が持てる」変更のひとつだと、秋山さんは考える。そして次もある意味、朗報だという。自分で老後資金をつくる手段の一つであるiDeCo(個人型確定拠出年金)の改正で、加入期間が65歳未満から70歳未満まで延長が決定したのだ。

 「さらに掛け金の上限額も大幅に引き上げられました。これまで企業年金に加入している人は、掛けられる金額が月12000円でした。これが、iDeCoと企業年金を合わせて62000円まで引き上げられます」 ※企業型DCやDBの掛金によっては、iDeCoの掛金がそれ以下になる場合や併用できない場合もあります

 その一方で〝改悪〟というべき変更点もある。退職所得控除の条件変更だ。

 「これまでは、退職金とiDeCoの一時金を5年以上空けて受け取れば、税金面で優遇が受けられる仕組みでした。ところが2026年からは、この空ける期間が10年に延長されることに。そうすると定年後すぐにiDeCoを一時金で受け取ると、税負担が大きくなる可能性も…。受け取り方やタイミング、掛け金をしっかりシミュレーションしておくことが大切です」

 iDeCoの掛け金が大きい場合は税金が高額になる可能性もあるので、月々分割で受け取る年金方式も検討するなど、今後のライフプランに合わせて柔軟に設計していく必要がありそうだ。

 このiDeCoの加入期間延長もそうだが、今回の制度改正において、政府が明確に打ち出しているメッセージがある。それは「なるべく長く働いてください」ということ。事実、長く働けるような制度づくりが着々と行われている。

 その一つが在職老齢年金の見直しだ。これは年金をもらいながら働いている人、とりわけ収入が多い人にとって有利な話なので、ひょっとしたら関係ないという人も多いかもしれない。

 「これまでの在職老齢年金の制度では、年金と給与の合計が一定額を超えると、年金がカットされていました。たとえば2025年時点では月51万円が上限。それを超えると支給額が減額される仕組みでした。2026年4月からはこの上限が62万円に引き上げられ、さらに将来的にはこの上限そのものを撤廃していこうという動きも出ています。

 高収入のシニア世代にはありがたい話ですが、厚生労働省年金局が発表したデータによれば、影響を受けるのは年金受給者のうち約14%、人数でいうと17万人程度とされています。多くの人にとっては直接の恩恵はないかもしれませんが、〝働いたら損する〟という心理的ハードルが少し下がる、そんな改正といえそうです」

 さらに65歳を過ぎても一定期間働き続けていれば、年金支給額は毎年見直され、アップするという在職定時改定の導入も。こうした制度は、健康で意欲のある人にとっては〝追い風〟といえるかもしれない。働き続けることで、年金の支給額が増える。つまり、収入を増やしながら年金も育てられる、というわけだ。

 「50歳の会社員が今始めるべきは65歳、できれば70歳まで働ける準備をしておくことです。職場の制度や自分の健康面、スキルを含め、10年かけて〝長く働ける土台〟をつくることが、老後の安心につながっていきます。そして、損をしないために、これらの年金の制度もきちんと把握して、備えること。それが50歳からの賢い選択です」

パート主婦が最も影響を受ける⁉ 知らないと損をする2つの大きな変化とは

 今回の年金制度の改正によって、最も影響を受けやすいのがパート主婦層だとされている。専業主婦や短時間勤務を選んできた女性にとって、これまでとは異なる〝働き方の選択〟を迫られる時代はもう目の前だ。

 「すでにご存じの方も多いかもしれませんが、多くのパート主婦の方が意識していた106万円の壁が消えます。これまで年収を抑えることで、社会保険に加入せずに済む働き方を選んできた方も少なくありません。一部では〝これを機に厚生年金がつくのはいいこと〟という見方もありますが、目先の手取り減少や働き控えへの影響は無視できません」

 これまでは従業員51人以上の企業に限定されていた社会保険加入義務が、今後さらに拡大される見込みもあるという。106万円の壁が消え、厚生年金がつくとはいえ、社会保険料を払うことで15%ほどの収入減となる。これを避けるための方法が2つあるそうだ。

 「ひとつは当てはまる方は少ないと思いますが、学生であるということ。主婦の方でも学生であれば要件にあてはまりません。もうひとつは週の労働時間を20時間未満に抑えるということ。社会保険の加入には1社で週20時間以上という労働要件があるため、A社で19.5時間、B社で19.5時間という働き方ならセーフとなります」

 「パートなのに社会保険料を払わないといけないなら、もっと働いておこう」と考える人もいれば、「収入を抑えて加入を避けよう」と考える人も。いずれにしても今後、主婦としての働き方を見直す時期がきているといえる。

 「もうひとつ50代の方には影響はないですが36歳以下の方には、2028年4月以降に実施予定である遺族年金の改正も大きな注目ポイントです。これまで、たとえば夫に先立たれた場合、一定の条件を満たせば妻は一生涯にわたって遺族年金を受け取ることができました。ところが2025年以降、子どもがいない、または子どもが高校を卒業済みの1989年度生まれ以降の女性に対しては、この遺族年金が〝5年有期〟に変更される見込みです。

 夫の年収にもよりますが月8〜11万円程度、場合によってはそれ以上もらえる遺族年金が、5年限定になってしまうと、総額で数百万円〜2000万円もの差が出ることもあります。これに限ったことではなく、いずれ〝当たり前にもらえるはず〟と思っていたお金がもらえなくなる時代が確実に来るということを、今から知っておくことが重要です」

 パート主婦や専業主婦にとって、2025年以降の年金制度の変化は、目先の生活だけでなく、将来の生活設計にも大きく影響することは間違いない。もはや〝扶養の範囲で働けば安心〟という時代ではなくなりつつあり、これからは〝自分の年金は自分でつくる〟という視点が必要不可欠。今こそ働き方を見直すタイミングと言えるだろう。

個人事業主は現状、目立つ影響なし?でも、今後の動き次第では見逃せない変化もある

 2025年の年金制度改正を受けて、個人事業主の立場では「目立った変更は少ないのでは」と秋山さん。しかしながら、退職金もなく、公的に受け取るのは基礎年金だけという老後を見据えておくことは大切だ。

 「自営業やフリーランスが活用できる公的制度のひとつにiDeCoがありますが、今回の改正で掛け金の上限が月額6.8万円から7.5万円へ引き上げられました。月あたり約7000円の上乗せなので、あまり大きな変化ではありませんね」

 掛け金が全額所得控除になるiDeCoは個人事業主にとって強い味方。節税+老後資金の両方を目的とするなら、活用するメリットは十二分にある。また、会社員としての注目ポイントとしてあげた基礎年金の底上げについては、個人事業主にもかかわりが深い。

 「これには厚生年金を財源として一部使う案も浮上しており、これが実現すれば基礎年金しか加入していない個人事業主にとっては、ある意味恩恵を得る話かもしれません。

 また、2024年に行われた財政検証(年金の健康診断のようなもの)で噂となったのが、国民年金の支払い期間を現行の40年から45年に延ばすという案。結局、今回の年金改正では具体的な議論は行われていませんが、十分可能性があるかと思います。

 もし、これが実現すれば、60歳で支払いが終わるところが65歳まで支払わなければならないということになり、多くの個人事業主にとっては負担増となりますね。

 今回の改正案では個人事業主にとって大きな動きはありませんでしたが、一つ言えるのは〝生涯現役〟であり続けるために今から準備をしておくことが大切ということですね。もうすでに〝何歳まで仕事を続けるか〟ではなく、〝何歳まで働ける状態を保てるか〟が問われる時代になってきているのではないでしょうか」

Profile:秋山ひろ

あきやま・ひろ/1984年富山県生まれ。富山大学大学院を修了、国語科教員として10年以上勤務した教えるプロ。ただし、お金の知識が無さすぎて税金対策はゼロ、投資での失敗とマネーリテラシーは皆無だったという過去を持つ。自身の母親が年金を受けとるのをきっかけに、年金制度や社会保障について学び始め、FP資格を取得。現在はYouTubeをメインに「おかんのお金を守る」ための情報を発信中。

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