クライアント連携や社内業務にも 「課題として考えられるようになった」の成果
オフショア開発に加え、クライアントとのやりとりにもBacklogが活用されることもある。久米氏は、「大手のお客さまの場合、基本はメールでお願いしますということもあります。スプレッドシートの利用をお願いしても稟議が通りにくいので難しい。でも、Backlogであれば、ゲストとして弊社のプロジェクトに招待するだけなので、OKが出ることがあります」と久米氏は語る。
エンジニアの増本隆佑氏は、「新機能のリクエストが来るとき、今まではチャットで来た内容をBacklogに転記していたのですが、それを見たお客さまが自分でBacklogに登録し、優先順位まで付けてくれるようになりました」と語る。プロジェクト全体の透明性が高く、違う組織と意思疎通するための、心理的安全性を醸成できるのがBacklogだ。
メールでのやり取りや複数社とのコミュニケーションに課題を感じているクライアントだと、Backlog利用のハードルは低いという。「大きなプロジェクトだと、開発会社同士で連携する必要があります。こうした環境では、別の開発会社がどのような考え方で、どのような課題管理をしているかがわかる方が圧倒的にスムーズです。Backlogを利用すると、情報が見える化されている分、コンセンサスが取りやすいです」と久米氏は語る。
仙波氏は年間でタスクが明確になっている官公庁案件でBacklogのメリットを見いだしている。「4月に1年間のタスクやスケジュール、担当者をすべて入れておき、プロジェクトを進めます。3月に報告書を出すときは、いつなにをやったのか全部履歴に残っているので便利です」(仙波氏)。
また、アイムービックでは社内業務でもBacklogが活用されている。総務や経理に依頼する旅費精算や支払い依頼、NDA書類の作成、資格管理などもBacklog上での依頼・申請が必須になっているのだ。システムのリンクを貼り、Backlogで課題化することで、担当者や進捗、期日などを見える化でき、そして履歴として残せる点が大きい。「Backlogは非エンジニアでも使いやすいため、総務の方が主導して利活用を進めてくれています」(久米氏)。チームワークマネジメントで重要な主体性、リーダーシップの発揮に、Backlogの使いやすさが貢献している。
チャットツールでカバーできないコミュニケーションもBacklogなら実現できる。小阪氏は、「今まで総務や経理の方に依頼をチャットで投げていたのですが、その依頼の進捗がわからなくなるんです。依頼にBacklogを使うようになってからは、課題の進捗がわかるようになりました。社内のさまざまな作業を「課題」として考えられるようになったという点で、Backlogの導入は大きいですね」と語る。今では自身が担当するISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)のプロジェクトでもBacklogを活用し、抜け漏れのない課題管理を実現している。
自らBacklogを拡張 今後はプロジェクト立ち上げの自動化へ
進捗管理のみならず、久米氏は、プロジェクトのドキュメントもBacklogの「Wiki」や「ドキュメント」で管理している。設計書、議事録、仕様書、スケジュールなどを細かく文書化。BacklogのGit連携機能も使っており、ドキュメントにはそのリンクも登録されている。「Wikiとドキュメントは性格が違う。Wikiはログインの仕方などのマニュアルのようなもの、ドキュメントは階層構造で管理していきたいもので、使い分けています」(久米氏)とのことだ。
もちろん、成功ばかりではなかった。「最初のうちはほぼ個人のToDoの管理だけで、あまり浸透しませんでした。でも、チームも大きくなり、各人がプロジェクトにアサインされるようになったことで、全社的に利用されるようになった」(久米氏)。ただ、タスクを管理するのみならず、目的や役割が明確で、リーダーシップが必要なチームワークマネジメントにBacklogが向いているという点は明確だったわけだ。
現在、アイムービックがチャレンジしているのは、BacklogのAPIを活用した処理の自動化だ。「プロジェクトの立ち上げや設計書の展開を自動的にやりたいので、API連携を模索しています。設計書やドキュメントの作成も、LLMを活用できたらいいなと思い、いろいろいじっています」と久米氏は語る。
開発中の社内ツールからボタンを押すと、すでにプロジェクトのテンプレートが自動生成されるようになっており、迅速にプロジェクト構築ができるようになっている。「課題管理って、やはりどんな課題を作るかというところで工数がかかります。それをAIにある程度任せて、人手で修正できるようにすれば、経験の浅いPMでもスタートはかなり楽になるはず。使うためのハードルが下がると使う人も増えると思います」と久米氏は語る。Backlogの標準機能だけでなく、APIで自ら拡張しているところが、さすがエンジニアの会社。今後、アイムービックは、Backlogをどこまで“使い切る”のか楽しみだ。
チームワークマネジメントの視点
90分近くに渡る取材。聞けば聞くほどBacklogの使い方は秀逸だった。メインテーマだったオフショア開発はもちろん、クライアントとのやりとり、社内業務での利活用など、コミュニケーションとタスクをセットにして、業務の軋轢をなくしていった様が見て取れた。
個人的に印象的だったのは小阪氏が語った「いろんなものを課題として捉えるようになった」というコメントだ。おそらくメールやチャットでやりとりしている限り、そのテキストは単なる情報交換に過ぎない。しかし、そのやりとりの中で、課題化すべき内容は必ずあり、われわれはそれらを見逃している。Backlogに課題として登録し、担当者やスケジュールを設けることで、業務上やるべきことに昇華する。これを各人が遂行することで、チームワークマネジメントで重要な目的の共有や役割の明確化、リーダーシップの発揮などにつながり、業務のクオリティやスピードは確実に上がっていくことになる。
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