前へ 1 2 次へ

第18回 チームワークマネジメント実践者に聞く

四国のシステム会社に学ぶチームワークマネジメント

言語や文化の違いより、プロジェクト管理スキル オフショア開発で感じた大事なこと

文● 大谷イビサ 編集●ASCII 写真●曽根田元

提供: ヌーラボ

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

クライアント連携や社内業務にも 「課題として考えられるようになった」の成果

 オフショア開発に加え、クライアントとのやりとりにもBacklogが活用されることもある。久米氏は、「大手のお客さまの場合、基本はメールでお願いしますということもあります。スプレッドシートの利用をお願いしても稟議が通りにくいので難しい。でも、Backlogであれば、ゲストとして弊社のプロジェクトに招待するだけなので、OKが出ることがあります」と久米氏は語る。

 エンジニアの増本隆佑氏は、「新機能のリクエストが来るとき、今まではチャットで来た内容をBacklogに転記していたのですが、それを見たお客さまが自分でBacklogに登録し、優先順位まで付けてくれるようになりました」と語る。プロジェクト全体の透明性が高く、違う組織と意思疎通するための、心理的安全性を醸成できるのがBacklogだ。

 メールでのやり取りや複数社とのコミュニケーションに課題を感じているクライアントだと、Backlog利用のハードルは低いという。「大きなプロジェクトだと、開発会社同士で連携する必要があります。こうした環境では、別の開発会社がどのような考え方で、どのような課題管理をしているかがわかる方が圧倒的にスムーズです。Backlogを利用すると、情報が見える化されている分、コンセンサスが取りやすいです」と久米氏は語る。

 仙波氏は年間でタスクが明確になっている官公庁案件でBacklogのメリットを見いだしている。「4月に1年間のタスクやスケジュール、担当者をすべて入れておき、プロジェクトを進めます。3月に報告書を出すときは、いつなにをやったのか全部履歴に残っているので便利です」(仙波氏)。

 また、アイムービックでは社内業務でもBacklogが活用されている。総務や経理に依頼する旅費精算や支払い依頼、NDA書類の作成、資格管理などもBacklog上での依頼・申請が必須になっているのだ。システムのリンクを貼り、Backlogで課題化することで、担当者や進捗、期日などを見える化でき、そして履歴として残せる点が大きい。「Backlogは非エンジニアでも使いやすいため、総務の方が主導して利活用を進めてくれています」(久米氏)。チームワークマネジメントで重要な主体性、リーダーシップの発揮に、Backlogの使いやすさが貢献している。

 チャットツールでカバーできないコミュニケーションもBacklogなら実現できる。小阪氏は、「今まで総務や経理の方に依頼をチャットで投げていたのですが、その依頼の進捗がわからなくなるんです。依頼にBacklogを使うようになってからは、課題の進捗がわかるようになりました。社内のさまざまな作業を「課題」として考えられるようになったという点で、Backlogの導入は大きいですね」と語る。今では自身が担当するISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)のプロジェクトでもBacklogを活用し、抜け漏れのない課題管理を実現している。

自らBacklogを拡張 今後はプロジェクト立ち上げの自動化へ

 進捗管理のみならず、久米氏は、プロジェクトのドキュメントもBacklogの「Wiki」や「ドキュメント」で管理している。設計書、議事録、仕様書、スケジュールなどを細かく文書化。BacklogのGit連携機能も使っており、ドキュメントにはそのリンクも登録されている。「Wikiとドキュメントは性格が違う。Wikiはログインの仕方などのマニュアルのようなもの、ドキュメントは階層構造で管理していきたいもので、使い分けています」(久米氏)とのことだ。

 もちろん、成功ばかりではなかった。「最初のうちはほぼ個人のToDoの管理だけで、あまり浸透しませんでした。でも、チームも大きくなり、各人がプロジェクトにアサインされるようになったことで、全社的に利用されるようになった」(久米氏)。ただ、タスクを管理するのみならず、目的や役割が明確で、リーダーシップが必要なチームワークマネジメントにBacklogが向いているという点は明確だったわけだ。

 現在、アイムービックがチャレンジしているのは、BacklogのAPIを活用した処理の自動化だ。「プロジェクトの立ち上げや設計書の展開を自動的にやりたいので、API連携を模索しています。設計書やドキュメントの作成も、LLMを活用できたらいいなと思い、いろいろいじっています」と久米氏は語る。

 開発中の社内ツールからボタンを押すと、すでにプロジェクトのテンプレートが自動生成されるようになっており、迅速にプロジェクト構築ができるようになっている。「課題管理って、やはりどんな課題を作るかというところで工数がかかります。それをAIにある程度任せて、人手で修正できるようにすれば、経験の浅いPMでもスタートはかなり楽になるはず。使うためのハードルが下がると使う人も増えると思います」と久米氏は語る。Backlogの標準機能だけでなく、APIで自ら拡張しているところが、さすがエンジニアの会社。今後、アイムービックは、Backlogをどこまで“使い切る”のか楽しみだ。

チームワークマネジメントの視点

90分近くに渡る取材。聞けば聞くほどBacklogの使い方は秀逸だった。メインテーマだったオフショア開発はもちろん、クライアントとのやりとり、社内業務での利活用など、コミュニケーションとタスクをセットにして、業務の軋轢をなくしていった様が見て取れた。

個人的に印象的だったのは小阪氏が語った「いろんなものを課題として捉えるようになった」というコメントだ。おそらくメールやチャットでやりとりしている限り、そのテキストは単なる情報交換に過ぎない。しかし、そのやりとりの中で、課題化すべき内容は必ずあり、われわれはそれらを見逃している。Backlogに課題として登録し、担当者やスケジュールを設けることで、業務上やるべきことに昇華する。これを各人が遂行することで、チームワークマネジメントで重要な目的の共有や役割の明確化、リーダーシップの発揮などにつながり、業務のクオリティやスピードは確実に上がっていくことになる。

前へ 1 2 次へ

過去記事アーカイブ

2025年
01月
02月
03月
04月
05月
06月
07月
08月
09月
10月
11月
12月
2024年
04月
06月
07月
08月
09月
10月
11月
12月
2020年
01月
08月
09月
2019年
10月
2018年
05月
07月