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業務を変えるkintoneユーザー事例 第270回

「うんざりするような業務」を圧倒的に楽にするために

アプリ使ってもらうハードルってこんなに高かった? そもそもDXの手前だった医療商社がkintoneカスタマイズに挑戦

2025年07月17日 09時00分更新

文● 大谷イビサ 編集●ASCII

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 「kintoneで簡単にアプリを作る」のではなく、「kintoneで業務を簡単にする」。アプリを利用するユーザーが全然増えない状況でDX担当が気がついた発想の転換。使いたいアプリを作るため、あえてカスタマイズの道へ。

 岡山の医療商社カワニシでDXを担う二人のkintoneジャーニーは、DXのさらに手前にある「ITを受け入れる」というフェーズからのスタートだった。ヒントは社内を歩き回ることで得た社員の愚痴とクレーム。そして「使ってもらえる」アプリとは?

カワニシ 業務改革推進担当 岩木雄一氏

ヒアリングには愚痴の連続 作ったアプリは「屍」へ

 岡山から来たカワニシの岩木雄一氏と高森凌氏のコンビは、昨年J1に昇格した「ファジアーノ岡山」のビブスをまとって登場。「その気にさせる」というタイトルでセッションをスタートさせた。

 2004年創業のカワニシだが、その歴史は古く、「川西器械店」を始めた1921年にさかのぼる。現在は複数のグループ会社で「オルバヘルスケア」のブランドで、医療機器や材料の販売、レンタル、リース、保守点検を提供している。今回登壇した53歳の岩木氏と27歳の高森氏の2人が、業務改革推進担当として社内のDXを切り盛りしている。

 カワニシは、総合商社、循環器、整形、眼科、サイエンスなど約2100社の仕入れ先から医療機器を仕入れ、得意先となる6000もの医療機関に卸している。特徴的なのは、両方とも独特の商慣習がある業界。「だから、われわれは仕入れ先と得意先のルールの板挟みになります」と岩木氏は語る。そして、両者の板挟みとなる営業は、今まで千手観音のような工夫で今の医療を支えているという。

仕入れ先と得意先のルールの板挟み

 kintone導入が持ちかけられたのも、営業からの相談、当時、岩木氏は業務改革担当になったばかりで、kintoneもよく知らず、「お好きにどうぞ」という状態だった。しかし、kintoneは導入されたが、サンプルの日報アプリだらけ。全然使えない状態になったところで、岩木氏のところにkintone活用が丸投げされてくる。

 なんとかアプリ化を進めようと、まずはヒアリングの毎日。ただ、システム導入が早かったこともあり、システムが多すぎるという課題があった。岩木氏の社歴が長いこともあり、社員も話をしてくれるのだが、出てくるのは「愚痴」の連続。なんとか案を出してもらおうとしても、どうやってもシステムにならなそうな「貧相な発想」や「奇抜な発想」だったという。

ヒアリングは愚痴の連続だった

 岩木氏も実際にkintoneを触ってみたが、実際はExcelを置き換えただけ。Excelをkintoneに置き換えただけでは、入力の手間がかかるため、自由度は下がるだけ。それでも岩木氏は、プラグイン等も試して、1年で50本近くアプリを作ったが、現場では全然使ってもらえない。アプリはどんどん「屍」と化していったという。

社員に使ってもらうまでのハードルが高すぎた だからカスタマイズ

 そんな岩木さんはふと思いついた。「うんざりするような業務が圧倒的に楽になったらkintoneは絶対に使ってもらえる」と。そして、「kintoneで簡単にアプリ作る」のではなく、「kintoneで業務を簡単にする」という発想に変えた。

 こうなると、選択肢は「使いたいと思うものを作る」しかない。こうしてたどり着いたのが、アールスリーのkintoneカスタマイズツール「gusuku Customine」の採用だ。gusuku Customineでは画面上で「やること」と「条件」を設定し、kintoneアプリに登録すれば、自動的にプログラムが生成されるというものだ。

 岩木氏は、「カスタマイズというと最終手段なイメージがある。でも、われわれは最初に使ってもらうハードルがものすごく高かった。だから、このハードルをカスタマイズで乗り越えることにした」と語る。このあたりから高森氏がアプリ作成に参加してくる。

 そして、ターゲットとなるうんざり業務の1つとして挙げられたのは、長年続けてきた売上返品指示書の作成だ。まず納品書を探して、売上データを検索。金額を売上返品指示書にペーストし、これを印刷して、朱ペンで重要事項を追記。ここまで来て、初めて事務方に渡せる書類になるという。高森氏曰く「1工程で30分程度かかっていました」とのこと。

カワニシ 業務改革推進担当 高森凌氏

 しかし、kintoneの売上返品指示書を使えば、チェックしてワンクリックすれば伝票が出力される。実現するまでには改修に改修を重ね、最後Customineの導入で劇的に使い勝手が良くなった例だ。

 ここまでいいものができると、社員に見せたくなる。実際に1日に10人近くに見せたところ、「kintoneすご!」「こんなのできちゃうんですね!」と好評。それでも、アプリは使われなかった。「こんな便利な機能があるのに使われていない。そりゃ気絶しますよね」と高森氏は振り返る。

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