業務を変えるkintoneユーザー事例 第267回
広島県福山市のバス・タクシー会社が挑んだ仕組み構築とkintone
給与20%増で家や子供が現実に 平均年齢64歳だったバス・タクシー会社の成長話は夢しかなかった
2025年06月30日 09時00分更新
「案件情報だけ入れてるかだダメなのでは?」救世主はささやく
「もうこれは限界だ」。そう感じた漆川氏は、どこかで見つけてきたkintoneに望みを託すことにした。仕事の情報をすべてkintoneに統合することにしたという。
まずは案件情報をkintoneに登録した。入力に際しては、プラグインのカレンダープラス(ラジカルブリッジ)を用いることで、カレンダー形式で最新の案件がわかるようになった。「私が感動したのは、スマホから簡単に確認できること。当時は案件が紙台帳だったので、会社に戻るか、電話で確認するしかなかった」と漆川氏は語る。
「これは素晴らしいものを作った!」と漆川氏は自己満足していたが、実はこれを入れてもまったく解決しなかった。案件情報は入っていたが、人の勤怠情報や車両の車検情報などは一切入っていない。「整備しようと思ったら車がない」「仕事があるのにドライバーが出勤していない」などの事態が発生。二重三重の管理により、情報が現場に対して均一に伝わらない状況が生まれてしまったのだ。もちろん、管理部は紙に頼った転記作業を延々と続けている。
そんな2年前に救世主として現れたのが子育て中のパート勤務として入社した萩原さんだ。萩原さんは「案件情報だけ入れてるからダメなのでは? ドライバーから見ても、整備士から見ても、管理部から見ても、同じ情報が1つの箱から見られる。しかもスピーディに見られる体制を作りましょう」と提案してくれた。
「めちゃくちゃいいじゃない!」ということで、一も二もなく提案に乗る漆川氏。しかも、「仕組みが複雑なので、カスタマイズしましょう」と地元広島のkintoneパートナーであるビットリバーまで見つけてきたという萩原さんはすごすぎる。漆川氏は、まだまだ70歳台がいる社内を前提に「とにかくシンプルなものを作りたい」とリクエストし、ビットリバーとともにkintoneをカスタマイズしていった。
「シンプル」ってめちゃくちゃ難しい 裏では自動制御と業務フローの見直し
こうしてできたニコニコ観光のkintoneシステム。ビットリバーのカナルウェブを用いて、勤怠をLINEとkintoneで実現。8割を占めるドライバーはLINEで勤怠を行ない、これをkintoneに取り込む。高齢者でも見やすいように字はとにかく大きくしたという。また、kintoneの中には車両の整備情報やバス・タクシーの予約情報も合わせて登録。ドライバーからも、整備士からも、管理部から見ても、業務の情報がわかりやすく見えるようになった。
完成までにかかった時間は約1年。入力漏れや不備、レコードの削除などが起こるたびに改善を重ね、試行錯誤してきた1年だった。平均年齢の高い従業員を対象に教育せず、とにかくわかりやすいシステムを手がけてきた。開発パートナーのビットリバーに対しては、わかりにくい業務をいかにわかりやすく伝えるかに腐心したという。
しかし、「シンプルってめちゃくちゃ難しい」と漆川氏は語る。ビットリバーとの連携で、直感的なUIでありながら、裏ではさまざまな自動入力・自動制御の仕組み、業務フローの見直しを行ない、ようやく完成にこぎ着けた。
LINEを知らない従業員に対しては「お孫さんと写真のやりとりができるんよ」と教え、今では全従業員がLINEで勤怠管理できるようになったという。また、社長の判断で紙はすべて捨てた。「人間は適用能力が高いので、その環境になれば、最初は大変ですが、慣れてきます。それでも紙を使いたいという人には謝りました」と漆川氏は語る。
kintoneは事業を成長させるための武器でもあり、伴走パートナーにも
今年、ニコニコ観光の平均給与は昨年比で20%も上がった。なかには月収30万円が50万円になった従業員もいるという。「今までのうちの従業員ではなかったのですが、『社長、家建てようと思うんですよ』『社長、うち子供が産まれるんです』という声も聞けるようになりました。入社した当時、こんな声が聞けるとは思えませんでした。大変うれしかったです」と漆川氏は振り返る。
kintoneを組み込んだ業務の仕組み化はニコニコ観光のビジネスを大きく引き上げた。売上は昨年対比で20%増。ドライバーも35名から倍増以上の73名となった。しかも管理メンバーは変わらず9名のままで、倍に増えたドライバーの業務を管理できているという。
とあるパートの勤怠管理者は、今まで紙の書類の転記、Excelの修正、三重管理の調整といった作業に追われていたが、kintone化によって作業は8割減。代わりに売上につながるツアー企画に専念しているという。「kintoneは私たちにとって大変大きな武器になっています。無駄な作業を排除し、本来やるべき仕事に集中できるようになった」と漆川氏は語る。
今後は新事業所の設立や新事業の拡大を予定している。社内もkintoneの浸透が進み、「クレーム管理や事故管理をkintoneでやろう」という声も持ち上がるようになった。給与計算や新事業所との連携も行なっていくという。
まとめとして漆川氏は、「萩原さんのような専任メンバーが必要」「システムを作るには、教育ではなく、シンプルな仕組み化が重要」とコメント。「kintoneは事業を成長させるための武器でもあり、伴走パートナーにもなってくれます。これからもkintoneといっしょに成長していきたいです」と語り、会場から大きな拍手を浴びた。

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