業務を変えるkintoneユーザー事例 第267回
広島県福山市のバス・タクシー会社が挑んだ仕組み構築とkintone
給与20%増で家や子供が現実に 平均年齢64歳だったバス・タクシー会社の成長話は夢しかなかった
2025年06月30日 09時00分更新
「もうこれは限界だ」。平均年齢64歳のバス・タクシー会社の社長は頭を抱えていた。若手ドライバーを増やし、稼げる仕組みとして打った施策で現場は大混乱に。
kintone hive 2024 hiroshimaの2番手として登壇したニコニコ観光の漆川俊彦氏が見せてくれたのは、そんなレガシーな会社の成長物語。きっかけはkintoneと救世主、そして1年間付き合ってくれたパートナーだ。
初出社の日、70歳台のドライバーが取っ組み合いの大げんか
kintone hive 2025 hiroshimaの2番手はニコニコ観光 代表取締役社長 漆川俊彦氏。「真の従業員ファースト」をテーマに、kintoneで従業員一人一人の力を最大限に発揮できる環境を実現した話を披露した。バス、タクシー、送迎の3部門をまたいだ案件管理、kintoneとLINEをひも付けた勤怠管理をkintoneで実現したという。
広島県の福山市に本社を置くニコニコ観光は貸し切りバス、タクシー、旅行、送迎委託、レンタカーなどの事業を展開している。従業員は86名。今回登壇した漆川氏も、地元広島県の福山市出身。大学卒業後、人材紹介の業界でサラリーマンをしていたが、とあるきっかけで今から8年前に血縁でもなんでもないニコニコ観光の社長に就任する。
初めてニコニコ観光に出社した8年前の4月。当時のニコニコ観光の従業員は45名で、平均年齢は64歳。「右を向いても、左を見ても年上ばかり。36歳の私は最年少でした」と漆川氏は振り返る。
会社の雰囲気もどよーんとしており、就業規則は20年間変わらず。「社屋は2階建てなのですが、2階では猫がたくさん子猫を産んでいました。出社当日、70歳と74歳のドライバーがつかみ合いの大げんかをしていました。これはとんでもないところに来たと思いました」(漆川氏)。しかし、岡山に住んでいた家族はすでに福山に引っ越しており、後には引けない状況。意を決して、まずは課題の整理からスタートした。
稼げる仕組みを作るための3つの施策 でも現場は大混乱に
タクシー・バス業界の課題は、ドライバーの人手不足と高齢化。ニコニコ観光もご多分に漏れず、この課題に直面していた。給料も低く、24時間365日のシフト勤務で稼げる環境がまったく整っていなかったという。さらに同社はほとんど高齢ドライバーで、年金をもらいながら仕事をしているという体制。「まあ年金があるからいいやということで、向上心も乏しかった。でも、稼げる仕組みがあれば、若い人も集まってくると思った」という漆川氏は、3つの施策を打つ。
1つ目の施策は、送迎部門の立ち上げだ。タクシーやバスの事業は、繁閑の差が激しく、不安定な仕事。そこで定量的に安定的な仕事を得るため、送迎部門を立ち上げることにした。
2つ目の施策は、従業員の多能工化だ。従来、同社はバスのドライバーはバスだけ、タクシーのドライバーはタクシーだけだったため、お客さまの依頼があっても案件の取りこぼしが多発していたという。そこで、一人のドライバーがバス、タクシー、送迎のどこにも対応できるようにしていった。
3つ目の施策は、完全希望休制度だ。通常バス・タクシーの会社は24時間365日体制で業務を行なっており、会社がシフトを決めて、従業員に通達するという業務形態を採用する。若い人は「休みたいときに休みたい」「ワークライフバランスを実現したい」といった声が多いため、完全希望休制度を導入したという。
3つの施策を進めることで、「真の従業員ファースト」を実現できると思っていた漆川氏。ところが現場は大混乱に陥り、特に管理部はめちゃくちゃになった。
たとえば完全希望休制度を導入すると、毎月希望する休みを登録し、それをシフトに反映するという形になる。しかし、従来使っていたバスやタクシーのシステムはこうした事態を想定しておらず、二重三重の転記は当たり前だった。「完全希望休制度や多能工化に対応するシステムはなかなか見つからない。お金を出せばあるのかもしれないが、そんなお金もない」と漆川氏は振り返る。
管理部が毎日行なっていたのは、紙で提出された勤務表をシステムに入力するという作業。勤怠登録も修正を紙の申請で受付け、案件がまとめられたExcelと照らし合わせ、目視でマッチング。書類も非常に見えにくかったという。見える化しようということで、ホワイトボードとマグネットを使ってみたが、貼り忘れ、抜け漏れが多発。もはや仕事が回らない状態に陥ってしまった。

この連載の記事
-
第300回
デジタル
業務改善とは「人の弱さと向き合う」こと だからkintoneの利用は“あきらめた” -
第299回
デジタル
悪夢のExcel多重入力と決裁スタンプラリー システム刷新の反発は“ライブ改善”で乗り越えた -
第298回
デジタル
PCに行列ができる、旧態依然な業務にサヨナラを kintoneで年2546時間の残業を削った日本海ガス -
第297回
デジタル
モンスターExcelもそのままkintoneアプリ化 老舗企業を整トーン(頓)した「小田トーン」の実力 -
第296回
デジタル
わずか3名で5万6000人へのkintone展開 「作る」から「変える」マインド変革が突破口に -
第295回
デジタル
全職員の6割がkintoneを利用する関西外国語大学 背景に待ったなしの大学DX -
第294回
デジタル
シェア100%の重圧を跳ね除けろ 味の素ファインテクノの業務改善は、kintoneで加速した -
第293回
デジタル
業務改善はクライミング kintoneで壁を登った元気女子の感情ジェットコースター -
第292回
デジタル
“なんとなく”の現場改善、もうやめません? kintone運用6年で辿りついた自動化と可視化 -
第291回
デジタル
kintone導入、失敗しませんでした 先駆者がいたので、kintone留学や伴走支援まで用意され、至れり尽くせり -
第290回
デジタル
kintoneを使ってもらうことはあきらめた でも、年間1500時間も業務時間は減った - この連載の一覧へ








