第2回 シン・IoTの教室:ビジネスに活きる つながるモノの世界

PCやサーバーのシステムとは違う「IoTならでは」の工夫も必要

デバイスだけなら「ただのモノ」 IoTシステムは“3つの要素”で成り立つ

大塚昭彦/TECH.ASCII.jp

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 「IoT」という言葉を聞くと、多くの人はまず何らかの「デバイス」を連想するのではないでしょうか。身の回りにあるスマートロックやクラウドカメラ、コネクテッドカーでも、あるいは工場のIoT生産機器でも農場のIoTセンサーでも、すべて目の前に“モノ”として存在するからです。

 ただし、IoTはそうした「デバイス」だけで実現できるものではありません。第1回の記事で説明しましたが、IoTデバイスは「インターネットにつながる」という特徴を生かして、モノ単体では実現できない付加価値を生み出します。

 そのため、IoTのシステムには「デバイス」だけでなく、「アプリケーション」「ネットワーク」という技術要素も必ず含まれることになります。

アプリケーション:デバイスとクラウドの適切な“役割分担”が必要

 IoTの付加価値を生み出すうえで、重要な役割を果たすのが「アプリケーション」です。クラウド上のサーバーでIoTアプリケーション(サービス)が稼働しており、そこに接続されたIoTデバイスからデータを収集して分析したり、IoTデバイスに操作指示(制御信号)を送ったりします。

 IoTデバイスにもコンピューター(プロセッサーやメモリ)が載っていて、プログラムも動作していますが、デバイス側では最低限の処理だけを行い、複雑で高度な処理はクラウド側のアプリケーションに任せるという構成が一般的です。なぜでしょうか? その理由はいくつかあります。

(1)IoTデバイスの処理能力やメモリ、消費電力に限界がある
⇒ 小型、低価格、低消費電力(バッテリ駆動など)のIoTデバイスでは、複雑で高度なデータ処理は困難です。
(2)多数のIoTデバイスを一元的に管理/データ集約できる
⇒ デバイスに1台ずつ接続して操作をしたり、データを収集したりする必要がありません。
(3)機能拡張/機能追加/アップデートが容易にできる
⇒ 出荷後に、多数のIoTデバイスのソフトウェアを更新するのは困難ですが、クラウド上のアプリケーションならばいつでも簡単にアップデートできます。

 ちなみに、IoTサービスの中には、スマートフォンアプリを提供しているものもあります。ここでも考え方は同じで、スマートフォン側のアプリケーション処理はなるべく軽くして(たとえばユーザーインタフェースの提供のみ、など)、複雑で高度な処理はクラウド側で行うケースがほとんどです。

 IoTサービスを考えるうえでは、こうした“役割分担”を理解して、適切に設計しなければなりません。設計を間違えると、たとえば「アプリケーションの使い勝手が悪い」「サービスへの機能追加ができない」「IoTデバイスやスマートフォンのバッテリ消費が早い」といった問題を抱えてしまうことになります。

ネットワーク:IoTの用途に応じて要件に合ったネットワークを選ぶ

 IoTシステムでもうひとつ重要な技術要素が「ネットワーク」です。IoTデバイス=“インターネットにつながるモノ”なので、もちろんネットワーク接続は必須ですが、ここでもIoTならではの、用途に応じて検討すべきことがあります。

(1)ネットワーク環境が整っていない場所でも使われる
⇒ IoTデバイスは、Wi-Fiや有線LANが整備されていない場所(屋外や倉庫など)に設置されることがあります。
(2)IoTデバイスは「常時接続」とは限らない
⇒ 常に(高い頻度で)通信をし続けると電力を消費するため、バッテリ駆動のIoTデバイスでは一定時間ごとにまとめて通信するものもあります。
(3)IoTデバイスは「大容量通信」とは限らない
⇒ センサーIoTデバイスなどでは、わずかな(小容量の)データを継続的に送信したい、というニーズもあります。

 (1)では、Wi-Fiや有線LANの代わりに、LTE/5Gのモバイル通信ネットワーク、Bluetooth、IoT専用の無線通信(Sigfoxなど)が使われます。どれを使うのかは(2)や(3)のニーズ(必要な通信容量、消費電力)に合わせて選択することになります。また、LTE/5Gの回線(SIM)も、IoT向けの低容量/低速/低価格プランなどが選択可能です。

 なお、アプリケーションの側も、IoTデバイスの通信がPCやサーバーなどとは異なることを理解したうえで、データ通信の方法を検討/設計する必要があります。特に(2)の「常時接続とは限らない」点は大きな違いであり、たとえば一定時間ごとにまとめて送信されるデータをエラーなく確実に受け取り、元々の時系列に沿って処理する、といった仕組みをアプリケーションに実装するケースもあります。

■IoT活用事例集「and SORACOM」より
 ・宮崎のブランド豚「観音池ポーク」を支えるIoT すべては豚の健康のために
 ・残量検知デバイスでエンジンオイル販売を変えたFUKUDAとSORACOM

 今回見てきたとおり、IoTシステムは「デバイス+アプリケーション+ネットワーク」で成り立つものであり、それぞれ用途と制約を検討しながら設計/構築していく必要があります。とは言え、現在ではIoT専用のハードウェア/アプリケーション部品(モジュール)やネットワークサービスも多く登場しており、これらを組み合わせれば、ゼロから作り上げるよりもはるかに簡単にIoTシステムが開発できます。

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