”ネガティブな会社員”から総フォロワー4万人のグルメインフルエンサーへ。SNS時代の新しい働き方

文●源詩帆  編集/山野井春絵

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 グルメインフルエンサーのかなぞうさん。もとは内気な性格で、会社員時代にはパワハラや過労を経験。そんなかなぞうさんの支えは“食べること”だった。密かに始めたグルメアカウントは瞬く間に成長。その後転機が訪れて退職し、現在はフリーランスとしてSNS運用やマーケティング分野で活躍している。誰でも簡単に発信ができるSNS時代に、かなぞうさんはどのようにしてフォロワーを増やすことができたのか。その歩みと発信に込めた思いを聞いた。
 

グルメインフルエンサーのかなぞうさん。会社員からSNSとPRの世界へ。フリーランスとして、自分らしい働き方を切り拓いている。

スイーツは「芸術品」。美しさを求め、1投稿に1日以上かけるこだわり


特に反響の大きかった2枚。味わいだけでなく、見た目の美しさも丁寧に切り取る。

 かなぞうさんの投稿からは、どれもストレートにおいしさが伝わってくる。愛するスイーツが最も美しく撮れるよう自己流で撮影技術を磨いてきた。さらにSNSに投稿したときの全体のバランスにもこだわり、投稿順を決めるためにテスト用アカウントで何度も試しながら世界観を崩さぬよう調整を重ねている。

 「幼い頃から食べることが大好きで、”食”のことで頭がいっぱいでした。特に大人になってからスイーツは『芸術品だ』と感じ、さまざまな角度から写真や動画を撮っています。カフェでの時間が唯一無二の癒しの時間です」

 1つの投稿に、1日以上費やすこともあるかなぞうさん。それほど時間と労力をかけても、期待したような反響が得られず、他のインフルエンサーと自分を比べてしまった時もあるという。

 「私はもともと異常なほどのネガティブ思考の持ち主。学生時代は精神的にもかなり不安定で月の3分の2を泣いて過ごしていたこともあります。そんな自分が大嫌いでした。社会人になってからもパワハラに遭い、正直『このまま消えてなくなれたら』と毎日考えてしまう時期もありました」

 しかし「食」が自分を支え、心から夢中になれるものだと気づけたことで、少しずつ前向きに物事をとらえられるようになった。

 「周りと比べて落ち込みそうな時は、『ありがとう』と感謝の気持ちを口に出すようにしています。自分がやるべきことは何か、どこに向かいたいのか、何を伝えたいのか問い直すということを繰り返しているうちに、少しずつ精神的にも強くなりました」

”情熱”を選び、退職。フリーランスの道へ

撮影時には店内の雰囲気や魅力が最も伝わるよう、光の角度やレイアウトにこだわり、納得ができるまで何度も撮り直すという。


  2022年3月。かなぞうさんは役員秘書として働きながら、Instagramにカフェやスイーツの情報を載せはじめた。

 「食の中でも特にスイーツが大好きで、アカウント開設当初は学生時代から撮り溜めた写真を自己満で載せていました。秘書になってからは会食の店舗決めや、手土産を用意することも多く、日常的にカフェとスイーツの情報収集をすることができました。

 ひっそりとスタートさせたアカウントでしたが、徐々にフォローや“いいね”、コメントをいただけるように。心の底から嬉しくて、今でも鮮明に覚えています。不特定多数の方とコミュニケーションをとることは苦手で、対面だと言いたいことがうまく伝えられないタイプでしたが、テキストなら本当の自分を表現することができると思い、フォロワーさんとのやりとりが、私にとって大事な時間になりました」

 アカウント開設から1年が経ち、フォロワーは2,000人を超えた。その頃、転機が訪れる。

 「当時勤めていた会社の都合で退職を考えるきっかけがありました。そんな折、ある飲食店の店長さんとお話をする機会があり、売り上げのことなどかなり深い相談をしてくれたんですね。その時に、一瞬でアイデアが浮かび、情熱を持ってSNS活用のアドバイスをする自分がいたんです。

 ネガティブで『毎日を生きるのがやっと』という精神状態の過去の自分がいたからこそ、仕事に対する情熱を感じられる日が来るなんて考えたこともなかった。そんな自分に驚きました。もちろん、不安はあったけれど、今感じたこの情熱を信じたいと決心しました」

 退職後、SNSを主軸としたフリーランスとして企業のPR動画作成やSNS運用代行、マーケティング会社の広報などを担いながら自身のアカウントも運営している。会社員時代と同等の収入を得られるようにもなった。情熱を注げるものに時間のすべてを使えるようになり、人生が好転。この道を選択したことに誇りを感じているという。

SNS上での交流は1日3時間超。甲斐あって、3年で総フォロワー数4万人に

関西在住のフォロワーと東京で対面。SNSで生まれたつながりが、リアルな交流を通じて、より一層深まっていく。

 

 Instagramをはじめ、TikTok、Threadsなど複数のSNSアカウントを運用するかなぞうさん。アカウント開設から3年が経った現在、総フォロワー数は4万人を超える。SNS運営を行う上でのマイルールについて話を聞いた。

 「フォローや『いいね』、コメントをしていただけることがすごくうれしくて。わざわざ私のために貴重な時間をかけて言葉を届けてくださるからこそ、私からも感謝を伝えたくて、約3年間、いただいたコメント全てに返事をしてきました。

 また返信だけではなく、その方のアカウントを訪問し、投稿に必ずコメントを残すようにしています。例えば、50名の方がコメントをくれた場合は、2倍の100工程があり、今では毎朝2〜3時間ほど、コメントのやり取りにあてています」

 グルメ系SNSには、提供された写真素材を元に運用されているアカウントも多い中、かなぞうさんには絶対に曲げられないもう一つのマイルールがある。

 「この仕事の魅力の一つに、時間や場所を選ばず、またスマホやPCがあればどこでも続けられることがあります。だからこそ、遠方のカフェからPRのご依頼をいただいた際にも、どんなに遠くても必ず現地を訪れ、自分の目と舌で感じたことしか書かないと決めています。もちろん、多くの時間と労力がかかります。でもそうすることで、私が体験した感動をよりリアルにフォロワーさんに届けることができるんです。

 それは当たり前のことのように思えますが、投稿への反響やフォロワー数に意識を向けすぎてしまうと、過剰な表現になり何が本当で何が嘘かわからなくなってしまう。自分の目と舌を信じ『本心しか書かない』ことは、フォロワーさんのためだけではなく、自分にとってもSNSを健康的に利用するための大事なマイルールです」

 かなぞうさんはそのマイルールを続けたことで気づいたことがあるという。

「よく『SNSは怖い』という印象を持たれますし、実際に危険な要素はあると思います。使い方には十分気をつけなければいけません。でもだからこそ、対面で友人に会う時と同じように真心を持ってフォロワーさんと交流することで、より人の温かさを感じられるようになりました。

 ありのままの自分を表現できるようになったこと、そしてそれが仕事になったことで、投稿は自分自身そのものなのだと気づきました」

「食」に救われたからこそ、発信を続けたい

名古屋での着付けや、奈良のカフェで味わった生菓子と抹茶。地方を巡る中で、日本文化の奥深さに触れるたびに心惹かれていくという。

 「SNSは自分自身そのもの」だと語るかなぞうさんは、SNS上だけではなく対面でも人脈を広げている。

 「日本全国の方と繋がることができるようになり、実際にお会いする機会にも恵まれています。日本の食・伝統文化や地方の素敵なカフェを教えていただくことも増えました。私が知らなかっただけで、日本には感動するほど美しいものがたくさんあることに気づかされ、それをより多くの人に届け、後世にも残していきたいと思うようになりました。

 そうした思いを形にするため、日本全国を巡り、感動を届けられるような発信を通じて、お店や各県に貢献していくことが私の目標です。地域ごとの文化や魅力を、より多くの人に伝えていきたい」

 そんな想いを持つかなぞうさんは、SNSを通じて届けたいメッセージがあるという。

 「私のような人間でも、年齢に関係なく変わることができたのは、紛れもなくフォロワーさんのおかげです。だからこそ、これからも変わらず感謝の気持ちを伝え続けたいです。

 また、私の発信を見たフォロワーさんから『参考になった』『元気をもらえた』『自分も諦めずに今やっていることを続けようと思えた』という言葉をいただいたときは、逆に私自身が元気をもらっていて。

 人生が好転したのは、そんな言葉に何度も救われてきたから。だから少しでも多くの方に恩返しがしたいです。心から情熱を注げるものや、環境があれば、人はいつからでも変わることができると伝えていきたいです」



 

Profile:かなぞう

グルメインフルエンサー
神奈川県出身、東京都在住。趣味で始めたInstagramアカウントが話題を呼び、開設から3年で総フォロワー数は4万人を突破。TikTokなど他SNSも含め、多方面での発信を行っている。2023年に退職し、現在はフリーランスとしてSNS運用代行やPR、動画制作、企業広報など行っている。投稿では、必ず自ら足を運んで得た体験に基づき、リアルな発信に重点をおく。最近では、関東以外のカフェも積極的に巡り、日本各地のフォロワーとの交流を深めている。


かなぞうさんのInstagramはこちら。
かなぞうさんのTikTokはこちら。

 

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