業務を変えるkintoneユーザー事例 第266回
アイシンの開発部門が挑んだ業務プロセスと組織文化の変革
“重い・開かない・壊れる” Excel運用はもう無理 ワンチームで成し遂げたkintone移行
2025年06月13日 11時00分更新
「開くのに10分~20分。保存できずにやり直し。問い合わせや『誰が書き換えたのか』という犯人探しは、みんなのストレスだった」――。約200人が所属する部署で運用していたExcelでの大規模データ管理。根強いExcel文化からどう脱却したのか。
2025年4月15日にZepp Nagoyaで開催された、kintoneユーザーの事例共有イベント「kintone hive nagoya」。ラスト6組目に登壇したアイシンの吉田琴絵氏と三宅彩菜氏は、仲間と共に成し遂げた、部署独自のExcel運用からのkintone移行について語った。
“重い・開かない・壊れる”三拍子揃った部署独自のExcel運用
トヨタグループの中核企業のひとつであるアイシン。従業員数は単独で3万5000人を越える、大手の自動車部品メーカーだ。その中で、約200名が所属する「走行安全第1制御技術部」は、駐車や運転を支援するソフトウェアを開発する部署である。
同部署の開発者は、設計・開発だけに専念しているわけではなく、調達や購買、経理、法務など、さまざまな「サブ業務」も抱えている。特に「購買処理」は、年間2000件以上も発生し、その負担は大きかった。吉田氏と三宅氏が所属する「統括・DXチーム」はその業務をサポートするが、200名の支援をたった3名で回している状況だった。
開発者側もサポート側も何とかしたい購買処理。主に3つの課題を抱えていた。
まずは、「部署独自の運用」の課題だ。購買処理は、基幹システムに入力する前に、「予算入力」「見積依頼」「発注依頼」という3つの工程があり、それぞれを部署独自のExcelで運用していた。1件あたりの金額が大きいために、入力内容のチェックは3回実施するルールだ。それが年間2000件発生する。「根強いExcel文化もあった。Excelに不向きな処理でもExcelを選択しており、“伝統のExcel”(昔から受け継がれてきたExcelファイル)は誰も改良する方法が分からなかった」と吉田氏。
2つ目は、「大規模組織」の課題だ。一部署の都合で、全社で利用する基幹システムの運用を変えることはできない。しかし、購買処理をチェックしないわけにもいかない。そこで、中間の役割を担えるExcelにすがるしかなかった。
最後は、「Excelでの大規模データ管理」の課題だ。特に予算情報のExcelは、各ファイル15シート以上と、とにかく重い。開くのに10~20分かかり、保存できずにやり直しになることもざらにあった。「加えて、独自運用による問い合わせや、『誰が書き換えたのか』という犯人探しは、部署みんなのストレスだった」(吉田氏)
結局、すべての課題にExcelが関わっている。もうこれはExcelの代わりになるものを探すしかないと、展示会で発見したのがkintoneである。
社内調整では上司からの“援護射撃”「ノーコードで開発したい」
kintoneを発見したのが2023年10月。以降、2024年1月に部内承認、2月に情シス部門と調整、3月に180ライセンスを導入するという流れでkintoneの導入は進んだ。
部内承認と情シスとの調整では、上司からのバックアップに助けられたという。吉田氏、三宅氏らの「規模が大きい部署では、Excelはもう無理です…」という悲痛な声に賛同してくれた。
上司は、部内承認では「ダメだったらExcelに戻ればいい」と後押し。情シスから「kintoneは全社標準ではないんですが…」と言われるも、「ノーコードで開発できるkintoneを採用したい!」と一緒になって説得してくれた。SAML認証など、社内のセキュリティチェックもサイボウズの協力のもとで通過し、何とか社内調整は完了した。
その後、取り組んだのが、「基幹システムとの連携」「運用の見直し」「アプリの作成」だ。
前述したExcelのデータは、RPAを使って、全社の基幹システムへと連携していた。この自動連係の仕組みをkintoneでも引き継いだ。一方で、購買処理プロセスについてはゼロから見直しを行い、何度もチェックすることのないシンプルなフローへと変更した。
アプリ作成では、サイボウズの伴走支援も受けながら、各Excelのkintone化を進めた。予算情報Excelは、発注依頼Excelと統合することで、重複入力を削減。「入力時に注意点が多かったのを、『ラベル機能』でサポートすることで、問い合わせを削減できた」と三宅氏。見積依頼Excelのkintone化でも、「アクション機能」によって、予算情報アプリからデータを自動転記するなど、さまざまな工夫を凝らしている。
kintoneの困りごとを一括で管理できる「ご意見箱アプリ」も作成した。「約200名の使い勝手に関する不満や質問、要求をこのアプリで吸収し、kintoneに慣れるきっかけにもなった」と三宅氏。標準機能でできないことは、プラグインを利用したり、RPA開発時の知識を活かして、プログラムを書くことで解決した。

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