業務を変えるkintoneユーザー事例 第263回
秋田の斉藤光学製作所は、バックオフィスを未来の基盤に変える
停滞するkintoneプロジェクト 製造業の3代目社長がチームに伝えたこと
2025年05月26日 10時30分更新
「アナログからデジタルへの置き換え」を単に落とし込んでも、DXはつまずいてしまう ―― 事業承継する会社を、何とかしようと始めた業務効率化。一人では上手くいかず、チームとパートナーの力でやっと動きだすも、後一歩のところで頓挫。斉藤光学製作所はどうしたのか。
2025年5月13日、サイボウズは、kintoneユーザーの事例イベントである「kintone hive sendai」を開催した。仙台での開催は2年ぶりであり、計6名が登壇。Cybozu Daysの本戦出場をかけて、北海道・東北地区のファイナリストの座を争った。
トップバッターを務めたのは、斉藤光学製作所の代表取締役である齊藤大樹氏。kintoneでのDXを通じて、プロジェクトの進め方を学び、人と組織が成長した話を披露した。
きっかけが重なり、kintone推進の“ドライブ”が入る
齊藤氏は、父親から事業承継した、斉藤光学製作所の3代目社長である。
同社は、秋田県の美郷町に拠点を構える、従業員が60名ほどの製造業。“磨き”のスペシャリストとして、研磨加工の受託を手掛ける。
斉藤光学製作所のkintone推進は、「このままじゃいけない」という気づきから始まったという。2017年、事業承継を前提に秋田に戻った齊藤氏。社長になる予定の会社は、中小企業の御多分にもれず、紙とExcelが中心で、属人化された業務にあふれていた。先輩が作ったExcelの直し方が分からない。紙やExcelのフォーマットが部門でバラバラ。基幹業務はシステムが混在し、データの連携ができない。
このままでは、業務の引継ぎが難しく、人材のローテーションすらできない。「どう変えればよういのか」「誰にやってもらうか」「その時間をどう捻出するか」。悩みはつきず、まずは、自ら改善に着手した。しかし、経営の仕事も始まり、会議にも引っ張りだこ。改善に取り組む時間は取れなかった。
色々なきっかけが重なり、「kintone推進のドライブが入った」(齊藤氏)のが、社長に就任した2021年だ。その少し前に、顧問税理士事務所より面白いサービスだとkintoneを紹介される。そして、kintoneのコンサルティングを任せることになるBe-Linksとも出会う。
これらの出会いに加え、改善を後押しする要素として、秋田県から大型の補助金を得ることになった。そして、同社のシステム周りを長年支えていたベテラン社員の退職も重なる。齊藤氏は、「まさに、システムを変えなければいけない背水の陣に陥った」と振り返る。
停滞したDXプロジェクトを前に進めたのは…
ひとりではどうにもならなかった業務改善。どう推進していったのか。
齊藤氏が重視したのが「チームビルディング」だ。DXのノウハウを持つBe-Linksの支援を受けつつ、社内でプロジェクトチームを立ち上げ、齊藤氏自らがリーダーに就任。その下に、プロジェクトマネジメント担当者を指名して、さらに事務と品質保障、それぞれの現場のプロからなるチームを編成した。
チームはまず、受発注アプリのリプレースから手をつけたが、「ここでプロセスを定めたことが、今振り返ると大事なことだった」と齊藤氏。プロジェクト設計から既存業務の洗い出し、試作アプリの作成、テスト運用、本番環境との平行テストと、段階的にプロジェクトを進めていった。
しかし、次第にメンバーの“もやもや”が蓄積され、テスト運用の段階で顕在化。そのもやもやは、「kintoneに対する用語知識の不足」「既存システムとのUIの違いによる混乱」「既存業務プロセスの理解不足」とさまざまだ。これらの壁にぶつかると、通常業務に加えてのタスクに対して、モチベーションが上がらなくなった。補助金の期間など制限もあるなか、急にプロジェクトは進まなくなる。
そこで齊藤氏が打った手が、「目的とビジョンの再共有」であった。メンバーの役割や責任を改めて明確化し、リスタート。プロジェクトの目的は、「付加価値を創出するバックオフィスになること」、そのためのビジョンは「脱属人化とシステム統合を進め、一元管理と情報共有を実現すること」と定め、チームメンバーと確かめ合った。
「ビジョンがあるからこそ、DXは人を動かす力になる。『アナログからデジタルへの置き換え』を単に落とし込んでも、途中でつまずいてしまう。会社として目指したい姿をメンバーに伝えることで、DXやkintoneが、組織や人を動かす力に変わる」(齊藤氏)

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