建物できたらもう終わり そんなゼネコンが目指すDXの向こう側

サーバー知らなくてもAPIでデジタル開発 戸田建設にDXの理想像を見た

大谷イビサ 編集●ASCII

提供: CData Software Japan

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 「建設業にデジタル?」なんて質問は、もはや時代錯誤かもしれない。「2024年問題」と言われる時間外労働の是正のため、IT活用や人材育成が急速に進む建設業こそDX。戸田建設でDXをリードする佐藤康樹氏に、同社のDXへの取り組みとそれを支えるCData Software製品の効果について聞いた。

「建設わかっている人がデジタルやれるといいよね」

 創業140年を超える総合建設会社(ゼネコン)の戸田建設。2024年は京橋の地に地上28階建ての「TODA BUILDING」を竣工。アートとビジネスが交錯する芸術文化の拠点という新しい取り組みが話題になった(関連記事:戸田建設の新本社ビル「TODA BUILDING」は”人と街をつなぐ”超高層複合ビルでアートに満ちた芸術文化の拠点として東京・京橋の新名所になるぞ。)取材時に一通り見学させてもらったが、アートとテクノロジー、過去と未来、執務とコミュニケーションのスペースなどが渾然一体となった印象的なスペースだった。

 こうした新しい取り組みを続ける戸田建設のDXをリードする佐藤康樹氏は、入社して以降30年来ずっと戸田建設だ。建築工学科を出て、最初の10年は現場の設備担当社員だったが、今から考えればかなりITよりのことをやっていたという。「ちょうどWindows 95が出て、ITの話が盛り上がってきた頃。現場でネットワーク作ってみたり、工事現場のホームページを勝手に挙げたりしていました。海外の人から反響あったり、面白かったですよ」(佐藤氏)。

 そんな“やんちゃさ”とITの素養が会社の目に留まり、そのあと10年は建築企画部で情報システム部とは別の立場でIT導入を手がけた。「当時は一人に1台のPCとか、ネットワーク構築とか、ちょっとブームだった頃。建築のデジタルやデータに関する企画やシステムについて考えて、自分で作っていたら、やっぱりIT部門に来いと言われたんです」(佐藤氏)とのこと。

戸田建設 DX統轄部 デジタル変革実装室 室長 佐藤康樹氏

 直近10年はIT部門。基幹システムやセキュリティなど守りのITに対して、佐藤氏は攻めのITということでDXを推進する立場になった。今でこそ「DX人材」と言われるが、現場から企画に移り、企画からITに移ってきた佐藤氏こそ、まさにその走りと言えるかもしれない。佐藤氏も「僕自身だってそう。ゼネコンの肌感覚を持ちつつ、デジタルに向き合ってきたんだから」と自身のキャリアを振り返る。

 今年3月にはIT部門からも独立して社長直轄のDX統轄部となり、現在はメンバーも17名にまで増えた。「昔はね、社内でプログラム書ける人なんていなかった。でも、すべて外部頼みはおかしい。『やっぱり建設わかっている人がデジタルをやるべき』というのは以前からありましたね」と佐藤氏は語る。

現場業務のタスク依頼ツールやデジタルツインなどを内製化

 「建設わかっている人がデジタルをやるべき」。そんな戸田建設のDX人材育成プログラムは、かなりスパルタ教育だ。まずは約1年間仕事をしながら、大学でゼネコン社員向けのデジタルの授業を受ける。ただ、社内で公募をかけた結果、90人が応募し、授業を受けられたのは30人だ。そのうち成績上位10人がDX人材として認定され、大学で学びながら、DX部門で業務に従事する。

 約3年前には、このDX人材の育成と並行して、戸田建設社内のデータ利活用がスタートした。AWSの内製化支援プログラムを元に開発した代表例が、業務効率化プラットフォームが「ToLabel(トラベル)」だ(関連記事:ゼネコン現場社員が3年でここまで開発、戸田建設の内製化は「外部頼みでいいのか」から始まった)。

 ToLabelは、現場担当者のタスク依頼ツールと呼べるもの。建設業界の2024年問題を解消すべく、負荷の高い事務作業を軽減すべく開発された。「現場の担当者は事務所に帰って、山のような事務作業をこなさなければいけなかった。だから、現場の事務作業を小分けにして社内外でアウトソーシングできるようにしたかった」ということで、本社やBPO先とやりとりして、作業を手軽に分担できる。

現在もヘビーに利用されている現場担当者のタスク依頼ツール「ToLabel」

 また、工事長以上の権限がないと見られないAmazon QuickSightのダッシュボードも今回は特別に見せてもらった。作業の進捗や予算はもちろん、作業員の入場者数、残業時間、CO2排出量、事故など、現場のありとあらゆるデータがリアルタイムに見える化されており、驚いた。現場をクラウド化した完全なるデジタルツインだ。「これがなかったときは、紙で月次報告でした」と佐藤氏は振り返る。

 これらのアプリを開発するにあたって必要になったのが社内データだ。「DXを推進するための条件のうち、重要なのが『アプローチ可能な実務データ』だった」(佐藤氏)とのことで、基幹システムのデータが必要になった。基幹システムからプロジェクトの基本データと社員情報の取得でCData SoftwareのCData Sync+API Serverを活用している。

「けっこうなレコード数をレプリケーション でもこけないんですよ」

 CData SyncはSaaSや各種データソースからのレプリケーションを実現するサービス。CData API Serverは文字通り、データをAPI経由で取得するためのサーバーだ。「いや、なんかポツンと社内にあったんですよ(笑)」(佐藤氏)とのことで、すでに利用していた社内ユーザーから話を聞き、さっそくDX統轄部も採用したという。

 基幹システムのデータ利用は参照のみで、ユーザーは限定することにした。「やっぱり基幹システムをのぞかれることになる情シスはいやがります。だから、利用する担当を私含めて二人に限定しました。とにかくオレたちを信じてくれと」(佐藤氏)とのことで、アクセス申請書を作り、取得するデータや作業内容、アクセス方式などを明示し、IT部門や主管部門などから許可を得ることとした。こうした明確なルール作りやデータガバナンスが、基幹システムの利活用に重要なのだと感じられた。

基幹システム(左)からCData Syncを経由してRDBMS、API Serverへ

 システム構成としては、基幹システムのデータを日次でCData SyncでRDBMS(SQL ServerやPostgreSQL)にレプリケーションしている。DX統轄部のクライアントからはAPI Serverを経由し、RDBMSのデータをJSON形式で取得。基幹システムはOCI(Oracle Cloud Infrastructure)上にあるため、CData SyncもOCI上にホストされている。確認したところ、バッチで動かしているジョブ数は26で、月間で160万行近くを処理しているという。

 CDataの感想について聞くと「毎日けっこうなレコード数をレプリケーションしているわりには、こけないんですよ。安定性は評価していますね」と佐藤氏。DX人材として日々利用しているユーザーについても、「みなさんクラウドネイティブ以前に、そもそもサーバーを知らないサーバーレスネイティブだし、APIネイティブなので、APIでのデータ取得が当たり前の世界でものづくりしてますね」(佐藤氏)とのこと。CDataのサポートの手も借りることなく、自らで十分利用できているという。

 CDataのコストに関して聞くと、「まったく気にならない。エンジニアを雇った方が全然高くつきますよ」と佐藤氏。また、ライセンス体系に関しても、「データ量や使用リソースで課金するベンダーが多い中、CData Syncは接続数に対する課金なので助かりますね」と語る。

デジタルと建設業界、実は親和性が高い?

 今後は、ゼネコンの従来型ビジネスにもデジタルでメスを入れていきたいという。「最近って、商品を買ったら、ユーザーがサブスク登録して、サポートや提案もらうじゃないですか。でも、今のゼネコンって建物ができたら、施主に鍵と書類を引き渡しておしまいなんですよね。これがなんとももったいない」と佐藤氏は指摘する。

 確かにゼネコンはオフィスビル、商業施設など、さまざまな建物を手がけているが、運用・管理は別の会社が手がけることが多い。いったん竣工したら、それ以降は運営に関わらず、大規模修繕時に施工主として過去の設計について掘り起こされることもままあるという。こうした課題に対しては、「建物のデータを全部まとめて、運用・管理のためのプラットフォームとして提供していきたい」という将来構想もあるという。

 「デジタル化が遅れている」というイメージのある建設業界だが、こうして取材してみると、実はデジタルとの親和性は高いのではないかと思えてくる。現場データのデジタルツインや現場主体の業務改善プラットフォームなどの事例は紹介した通りだが、取材時にはBIMデータの利活用などの話も盛り上がっていた。デジタルが当たり前という時代に向け、建設はどうなっていくのか? 今後の取り組みが楽しみだ。

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