基幹システムとkintoneとの連携、チャレンジしたらDXが見える

触れたら怖いERP なぜ重厚長大になってしまったのか? サイボウズとCDataが語る

大谷イビサ 編集●ASCII 写真●曽根田元

提供: CData Software Japan

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 「業務システムのコアソフトウェアでありながら、触れたら怖い」。基幹システム移行に失敗したニュースを見るたび、多くの人はERPにそんなイメージを持っている。しかし、ERPに格納されたデータは、DXに必要な「宝の山」でもある。そんなERPを最大限に活用するためのお助けツールとしてkintoneはどうだろうか? サイボウズの百目鬼唯子氏とCData Software Japanの杉本和也氏で、ERPとkintoneの連携について語ってもらった。

エンタープライズでのkintone活用で、ERPとの連携は避けて通れない

大谷:まずはサイボウズの百目鬼さんに自己紹介をお願いします。

百目鬼:エンタープライズ事業本部のエンタープライズプロモーション部の百目鬼です。前職は大手SIerで9年ほどSEをやっており、その間は長らくSAPの導入プロジェクトにI/F担当として関わっていました。当時はSAPと連携する製品を選定する立場でしたが、1つの製品に深く関わりたいという思いから、メーカーであるサイボウズに転職しました。

サイボウズ エンタープライズ事業本部 エンタープライズプロモーション部 百目鬼唯子氏

サイボウズに来てからは、7年ほどソリューション営業とパートナー営業を担当していましたが、2年前にプロモーション部に移り、昨年からERPとkintoneを連携することのメリットを知っていただくことでkintoneをより活用いただけるよう、「ERP×kintone」というテーマでプロモーションを実施しています。

大谷:次に杉本さんの自己紹介もお願いします。

杉本:CData Software Japanでマーケティングとパートナー様のフォローを行なうチームのマネージャーを担当しています。趣味と実益を兼ねてAPIの検証と調査を行なっており、日本で一番APIを触っているエンジニアを自認しています。もちろんSAPやOracle NetSuiteなどのERPのAPIにも触れているので、それらERP・基幹システムとの連携について持論や事例がお話しできればと思います。

ERPシステムの構築は「Fit and Gap」から「Fit to Standard」へ 

杉本:今回はテーマがERPとkintoneとの連携なのですが、やはりERPってちょっと独特な世界だなと思っています。まずは意識合わせとしてIT業界内でのERP領域のイメージについて記者の大谷さんに意見を聞きたいです。

CData Software Japan リードエンジニア 杉本和也氏

大谷:ERPというか、SAPなんですが、私としては「IT業界の中の独自業界」だと思っています。IT業界だけど、SAPのシステム構築やコンサルティングという領域だけ、既存のITとまったく違う論理、ビジネスが動いていると捉えています。IT記者にとって避けて通れないんですが、なんとなくアンタッチャブルな領域なイメージです(笑)。

杉本:ERPに長く携わっていた百目鬼さんには、ERP業界の動向について教えてほしいです。

百目鬼:ERP市場の観点だと、ERPの開発手法として「Fit & Gap」から「Fit to Standard」へ移行してきたのが大きいと思います。

大谷:Fit & GapとFit to Standardについて教えてください。

百目鬼:従来のERP構築は、システムを業務内容に合わせる「Fit & Gap」という方式で、ERPに合う(フィットする)業務はどれか? 合わない(ギャップになる)業務はどれかを分類し、フィットする業務をERPで、ギャップのある業務はカスタマイズとしてERPにアドオンするというやり方でした。

ただ、Fit & GapでERPを構築するとERP自体が重厚長大になり、システムが複雑になってしまうデメリットもありました。

ビジネスの変化に合わせてシステムも変えていきたいのに、複雑すぎて変えられない。アップデートも簡単にできず、古いバージョンのままERPを運用せざるを得なくなることもあります。これではDXを進めていくべき時代に合わないという判断から、ERPの導入方法を変えてシンプルにする方針が打ち出されました。

大谷:SAPなども顧客へのメッセージを変更していく必要が出てきたんですね。

百目鬼:そこで新たに提唱されるようになったのが、「Fit to Standard」という方式です。ERPはデファクトスタンダードの業務で標準機能を作っているので、標準機能に業務を合わせていけば間違いない。標準機能に合わない業務はやめるか、運用で回避する、ERPの中に入れないようにしましょうということです。

Fit & GapからFit to Standardへ(サイボウズセミナー資料より)

これにより、システムのコアの部分はカスタマイズのないクリーンさを保つことができるため、アップデートが行ないやすくなります。ビジネスの変化に追従できるERPを構築できるようになりました。

「ERPだったらなんでもできる」を考え直すFit to Standardのアプローチ

杉本:ERP界隈でよく言われていることですが、よく整理できました。でも、個人的にはこのFit to Standardという言葉以前の話として、そもそもERPシステムがなぜ重厚長大になるのかを考えるのも改めて大事なのかなと思っています。というのもERP、いわゆる基幹システムという言葉が本来の意味とは違って、一人歩きしているところもあるので。

大谷:コストも時間もかかるのに、日本企業はなぜカスタマイズを繰り返してきたか?という議論ですね。

杉本:ERPってEnterprise Resource Planningの略。事業に必要な人・モノ・カネというリソースを管理する必要から生まれたものです。端的に言えば、仕入れ、在庫、設備、人材など。これらのリソースは、会社や社会のインフラ、法規制などと密接度が高いものほど、データモデルやビジネスモデルが固定的になります。

会社としては、決算書や仕訳、P/Lなどが必要だし、人事労務に関しても勤怠や給与の仕組みがあり、それは会社ごとに大きく変わるということはない。こういうデータを管理するためにERPが必要になってきたわけです。

大谷:企業活動の基盤となるデータを扱うERPが基幹システムと言われる所以ですよね。

杉本:はい。こうした企業として根本であり、共通データがいわゆる仕訳。これに取引先やモノの管理、人材・リソースの管理などのデータを加えるとERPが扱う領域になります。代表的なものとしては、SAP のモジュールとしても提供されている財務・管理会計から調達・在庫管理、生産計画・管理、販売管理などの領域ですね。

CRM/ERPデータの統合ではじめるデータドリブン経営(CData Software Japan セミナー資料より)

これらは日本企業のみならず、グローバル企業でも統一的に行なわなければならないオペレーションのデータ管理です。これがSAPを代表とするERPパッケージが担う領域。SAPもこの領域をグローバル標準としているわけで、日本企業がこれに合わせていくのはメリットがあるかと思います。

でも、これに商談の管理や顧客とのコミュニケーション・アクティビティなど、非定型含むオペレーションが入ると、SFAやCRMなどが対象になり、より顧客やビジネスデベロップメントなどに近い領域に拡がっていきます。こちらはDXに必要ないわば企業の競争力の源泉。確かに重要なのは事実ですが、日本企業はこれらのERP・基幹システム周辺のシステムで担うべき領域もカスタマイズ、いわゆるアドオンしてSAPなどのERPに取り込んでしまいがちでした。

大谷::なるほど。難しいのは、基幹システムの定義が会社によって異なることです。ERPや会計パッケージが基幹システムはわかるんですが、会社によってはSFAやCRMを基幹システムと言っているケースも多い。マーケティング会社からすれば、MAやWeb、LTVシステムも基幹システムと呼べるかもしれない。取材しているとギャップを感じることよくあります。

杉本:製造業だと生産管理システムを基幹システムと言ったりしますしね。

大谷:人材系システムにも同じこと言えますよね。昔は勤怠とお給料を管理していればよかったのかもしれませんが、今では新しい法令やインセンティブに対応したり、タレントマネジメントとして人材活用することまで求められている。HRという巨大なバックオフィス業務領域になっており、システムも1つではカバーできなくなっています。

杉本:しかも、SFAでカバーする営業管理やCRMやMAがカバーする顧客管理やマーケティングの領域って、オペレーションががっつり固まっているわけではない。市場動向の変化とともに、プロセスも利用するデータも変化していく。だから、SFAやCRM/MAに項目を増やして、カスタマイズしていく企業は多い。でも、ERPシステムをこれに毎回追従させるのはコストや時間の面でも現実的ではありません。

私が言いたいのは、本来ERPがカバーすべき領域に対して、ユーザーが求める領域が広すぎるのではないかということ。「ERPだったらなんでもできる」という神話に結びついているのではないかと思うんです。その意味で、ERPがどこまでを担保すべきかを考え直す活動がFit to Standardの1つの形なのではないかと思います。

百目鬼:同感ですね。私もERPを導入していたときの肌感覚として、「なんでもかんでもERPに」という風潮が一昔前はあったなあということを思い出しました。でも、最近は、業務も複雑で、ビジネス環境の変化も速い。1つのシステムでまかなえる範囲が以前より狭くなっていると感じます。

だから、1つのサービスで全部の範囲をまかなうより、1つのシステムでできることを複数組み合わせていく方がDX時代の基幹システムとして正しいあり方だと思っています。「ERPでやるべき」という固定概念を少しずつ剥がしていく方が時代にあっているのではないかと。

大谷:クラウドシステムにも複数のサービスを疎結合で組み合わせていく「マイクロサービス」という考え方がありますが、基幹システムもそういった思考が必要になってきますよね。

「ERPの業務をkintoneで補助するなんて考えたこともない」という声は多かった

大谷:Fit to Standardが求められているERPが、kintoneと連携するとなにかができるのでしょうか?

百目鬼:たとえば、昨今重要性が叫ばれている「データドリブン経営」ってERPだけでは難しい。非構造化データも含めた顧客との接点履歴やコメントなどは、ERPでは保持する必要がないと考えられているからです。

一方で、kintoneはそういう現場から拾い上げたデータの取り込みに向いているサービスです。ERPにあるデータとkintoneの現場から集めたデータを組み合わせることで、データドリブン経営に活用できます。

大谷:以前からkintoneとERPって連携したり、つないだりという事例はあったんですか?

百目鬼:結果的にERPとつないだという事例がないわけではないですが、ヒアリングや調査をしていくと、「ERPの業務をkintoneで補助するなんて考えたこともない」というお客さまが大半です。

kintoneは外部システムと連携するためのAPIもありますし、パートナーのEAIやELTなどのツールもあるので、ERPからのデータの取り込みも可能です。kintoneでERPのようなことをやるのではなく、ERPと併用してデータドリブン経営に活かすことができます。

大谷:どのような形でkintoneと連携できるんでしょうか?

百目鬼:デファクトスタンダードの業務ではないため、ERPの標準機能には⼊っていませんが、重要な⾃社業務があります。われわれはこれを「自社固有業務」と言っていますが、こうした業務のデータを柔軟で業務に合わせやすいkintoneで収集し、ERPと組み合わせて利用することで、競争力を上げていくことも可能になるのではないかと思っています。システムに合わせるFit to Standardに留まらず、最適化された自社固有業務も含めて、必要なシステムを組み合わせて実現する「Fit to “Company” Standard」を目指すことをご提案したいです。

kintoneで実現する「Fit to “Company” Standard」(サイボウズセミナー資料より)

杉本:百目鬼さんがおっしゃった「柔軟で業務に合わせやすい」がkintoneの革新的な部分なんだと思います。

先日取材したkintoneとCDataの事例でも、情シスがどれだけ営業の要望を吸い上げて、kintoneのアプリを作っていけるかが大きな鍵でした。しかも現場の要望はどんどん変わります。実際に動かしてみたら、業務にフィットしないということはありますし、まして競争力の源泉である自社固有業務は正解を求めて、変化を続けます。情シスが現場に寄り添っていっしょにカスタマイズしていける柔軟性がkintoneの強みだと思います。
 

後編に続く

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