第16回 チームワークマネジメント実践者に聞く

Backlog浸透までの匍匐前進の道のりをパシフィコ横浜の事例で見る

1年前のルーティンワークが残っている 「Backlogやっててよかった」を見せたい

文● 大谷イビサ 編集●ASCII 写真●曽根田元

提供: ヌーラボ

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「Backlogの浸透」に奔走するバックログスイーパーたちの体験談を聞く取材記事の後編。デジタルキューブの恩田淳子氏にはタスク管理やBacklogを新人研修に盛り込んだ背景を、パシフィコ横浜の松原正和氏にはBacklogの浸透につながる具体的な取り組みについて聞いた(以下、敬称略)。

採用が増え、社長の熱血授業に限界が見えてきた

大谷:前回紹介した新入社員向けのオンボーディング資料では、タスク管理やBacklogについて書かれていたのですが、この資料ができる前はどうやっていたんですか?

恩田:今までは入社した人のオンボーディングはすべて口頭伝承で行なっていました。口頭でのオンボーディングって、簡単に言えば、社長の熱血授業みたいな感じ(笑)。うちはこんな会社だよとか、こんなカルチャーだよみたいなところから始まり、ツールを使ってみように進んで、ここでBacklogを触ることになります。これを合宿形式で短いときでも2~3日、長いときは1週間くらいやる感じです。

デジタルキューブ 執行役員 恩田淳子氏

昔は入社する方も一回に一人という感じだったので、口頭伝承でもなんとかなっていたんです。でも、2020年に私が入社し、中途採用の方々が次々と入ってきました。コミュニティ経由でのリファラル採用もありましたし、社長の知り合いのお子さんが新卒で入ってきたということもありました。

大谷:採用が増えてきたので、大変になってきたんですね。

恩田:はい。さらに2023年には、上場を前提に大きなチームにしていこうということで、採用を一気に増やした結果、この先これを続けるのも現実的ではないなと思い始めました。熱血授業で熱は伝わるけど、伝えることも回ごとに微妙にばらけます。会社が成長し、拡大するのであれば、社長以外も同じように伝えられなければいけないという話になり、作ったのがオンボーディング資料になります。

だから、古事記とかと一緒です。口頭伝承されていた内容を書き起こそうぜという人がいたので、私がその担当です。まあ、私が熱血授業できればいいんですけど、そういうタイプでもないので。

初めてBacklogを使う人が課題を立てられるようになるまで

大谷:資料はどのように作ったのですか?

恩田:6~7割くらいはいつもの熱血授業の内容を組み込んだものなのですが、それだけでは足りなくて、普段から社長が話している「タスク管理はこうやれ」「開始日と期限日は2日前にチェックしろ」「チームワークは大切」「10分考えてわからなければ聞け」などのコミュニケーションをまとめていきました。

まずはExcelでリストアップしたのですが、Backlogやチャットに残っているコミュニケーションから、メンバーの指向やカルチャーにひも付く言動をピックアップして作っていきました。私がオンボーディングしてもらったときに教えてもらった内容もあります。Backlogの「期限と担当者は必ず設定」「タイトルだけで中身がわかるように」「1トピック=1課題」などもそうですね。 

大谷:このオンボーディング資料を読んだ結果、デジタルキューブのみなさんはBacklogを普通に使えるようになったんですか?

恩田:なりましたね。前職が看護師さんでBacklogのようなツールを使ったことない人もいらっしゃいますけど、みなさん普通に使っています。

資料だけではなく、Backlogで「自己紹介」や「1on1の課題を登録してみよう」みたいな実践もやります。先日やったのはスタンプラリー1on1で、今後よく仕事で絡むであろう上長やリーダーとの1on1を課題にしてもらいます。課題の粒度はお任せしているんで、スケジュールを決めるというレベルの方もいるし、1on1をやるというレベルの方もいます。 

大谷:自分で課題立てるところまでできるようになるんですね。

恩田:オンボーディング資料を作る前に入ってきてくれた方の中には、「Backlogの課題は恩田さんが作るものだと思っていました」とコメントしている方もいて、「Backlogはみんなで課題を立てて、みんなで使うもの」という話が伝わってなかったんだなあと思ったこともありました。

でも、オンボーディング資料のおかげで、私が立てるものだと思われていた課題も、今では自ら立てられるようになっていますね。あと、バックログスイーパーの私が介在しなくても、デジタルキューブには教えられる人はいっぱいいます。だから普段のコミュニケーションの中で、普通に課題が立てられる人も増えています。

お客さまに対しても基本は同じ コツはキーパーソンを抑えること

大谷:デジタルキューブ社内ではオンボーディング資料で納得感を持ってBacklogを使ってもらっていたと思うのですが、外部の組織とのやりとりに関してもルールとしては同じなんですか?

恩田:「われわれはBacklogでプロジェクトを進めるので、いっしょに仕事を進めるためにはBacklogを使ってください」と最初にお伝えします。その点、お客さまに関しても「人を知る、己を知る、場を知る」という基本的なスタンスは同じです。

その上で、「それほど難しくないですよ」と説明します。ユーザーインターフェイスはいつも使っているメールとさほど変わりないし、チャットやメッセンジャーのようにコメントを書いて、送信すればよいので大丈夫ですよと言うと、だいたいは使ってみてくれます。

一部のお客さまでは、情報システムの都合で先方のSlackを使わなければならないとか、先方のパソコンを使う必要もありますが、本当にレアケースですね。だいたいはBacklogを使いましょうで納得してくれます。

大谷:オンボーディング資料に近い内容はクライアントと共有するんですか?

恩田:そこまでは共有していないですね。ただ、プロジェクトを成功させたいという想いは伝えるようにしています。その上で、サイト構築を期限までに完遂するためには、プロジェクト管理が必要で、ツールとしてBacklogを使う必要があるという点は理解してもらいます。

もちろん、タスク管理をやったことないとか、Backlogを使ったことないというお客さまもいるのですが、「プロジェクト管理って大変ですよね」「やりとり大変ですよね」と言うと、共感してもらえます。プロジェクトが見えないとか、迷走しないために、このツールを使うんですと言うと、「なるほどね」と腹落ちしてくれる感じです。

大谷:外部の方をうまく巻き込むコツってなにかあるんでしょうか?

恩田:私の場合は、キーパーソンを抑えることですかね。お客さま相手だと、最初の打ち合わせでチーム体制をお聞きするので、窓口になる人、決裁をする人、その間でPMO的にお世話をしてくれる人はそのときに抑えるようにしています。

その上で、会議で出たタスクを課題にするというのは、自分でもやるし、そういったキーパーソンにもお願いします。もちろん自分が期限を越えないように、きちんと課題こなすというのは大前提ですね。

そもそもタスク管理の概念が違う 経営者のコミットも違う

大谷:一方で松原さんのところは、浸透具合に大きく差があるようですが、原因をどうお考えになっています?

松原:そもそもメンバーによって、タスク管理の概念が違うという課題もあると思います。私の中でのタスク管理の定義って、1人で閉じるものではなく、タスクを細分化して書き出して、チームで共有して、タスクのキャッチボールまでできるところまで持っていくことです。

パシフィコ横浜 経営推進部 係長 松原 正和氏

確かに、日々やらなければいけないことをリスト化する社員は、社内にも数多くいたと思います。ただ、そのリストを閉じた環境に作ってしまう事例が散見された。紙の手帳や付箋、グループウェアのスケジュールにタスクを書いてしまうので、当然ながら担当者の概念がなく、共有もされていません。だから、なにをやったのか、スケジュール通り終わったのか、途中経過はどうなったかは、まったくわかりません。

あれをタスク管理だと考えている人は多い。この認識の差は一貫して今もあると思うのですが、こうした方を巻き込むのは難しいのです。

大谷:そうですよね。「タスク管理やっていますか?」と聞いたら、「やってるよ」と答えるけど、やっている内容が違うんですもんね。Backlogの利用が前提になっている会社にいる恩田さんから、なんかアドバイスとかありますか?

恩田:そうですねえ。私も初めて導入する会社に行ったらどうすればいいか考えたりするんですけど、正解が思い浮かばなくて(笑)。

あえて言うと、5人くらいのスモールチームで始めることですかね。結局、使っている人数が多いと、コメントしたり、課題作ったりするのが恥ずかしいとか、使い方に自信が持てないという方はいます。だから、利用ユーザーが少ないチームを、まずはいっぱい作るとかは試してもいいかもです。

大谷:逆に言えば、なぜデジタルキューブはBacklogの浸透が早かったんでしょうか?

恩田:まず社長がコミットしているというのは大きいです。「Backlogが必要なんだ」というのを経営層が理解して、導入しているということですね。

最近で言うと、私のような人事担当がコミットしているのも大きいと思っています。社員が入ってくるときに、タスク管理の概念やBacklogの活用をきちんと刷り込んでいます。だから、利用するのが当たり前になっています。

限界の見えたチャットだけのイベント管理、次はBacklogで

大谷:最近のユーザーの巻き込み施策はどうですか?

松原:困難に直面したメンバーを助けるような感じで、Backlogを使ってもらい、一人ひとりお声がけして、着実に仲間を増やしています。たとえばパシフィコ横浜も主催として参画しているイベント「お城EXPO」の運営でBacklogを使ったのですが、効果を実感してもらったようです。

「お城EXPO」は担当チームだけではなく、経営企画や営業も含めた社内のタスクフォースチームで運営します。しかも社内でも新しいプロジェクト、タスクフォースで、やるならやはりBacklogを使ったほうがいいよねということになりました。その結果、一部の営業メンバーにもBacklogを使っていただきました。

大谷:どんな導入メリットがあったんですか?

松原:「お城EXPO」を担当するメンバーは、定期的に変わります。でも、初めてのメンバーはイベントの概要が全然わからない。その点、Backlogを見れば、過去のタスクが全て残っているので、新しく入ってきたメンバーもすぐに状況を把握できます。出展社の申し込みをいつどのように始め、会場備品をいつまでに確定し、各協力会社に何をお願いしていたか、ブースの配置はどうなっていたか、まで全部残っています。

大谷:途中から入った担当としては、仕事しやすいですよね。

松原:メンバーはけっこう衝撃を受けたみたいです。「なにこれ今までのノウハウ、全部ここにあるじゃないですか」と。貯まったノウハウを目の当たりにして、Backlog導入のメリットを理解してもらったようなところがあります。特にパシフィコ横浜のような会社では、毎年同じような案件があるので、過去のタスクを参照できるのは非常に便利です。

大谷:Backlog World 2024の講演であった「1年くらい経って良さがわかる」ですよね(関連記事:Backlogは未来を楽にする 最初は手間だけど、1年後は使った自分を褒めたくなる)。

松原:はい。1年後のルーティンワークというか、また同じ仕事が出てきたときに、「そうか、オレはこうやって仕事してきたんだ」と振り返れる。Backlogの真の価値がわかるまでは多少時間はかかるんですけれど、それにいったん気づくと、もうこれなしでは仕事できないという境地に至るかなと思います。

最近利用を促せそうなきっかけがもう1つあって、課題管理ツールを使わなかったが故に大変だった案件が1件ありました。社内ではBacklogを使っていたのですが、社外とのやり取りを全部Slackでやっていて、限界が見えた感じです。

タスク化すべきメッセージがどんどん流れてしまって、横から見ていて「整理したい!!」と痛切に思いました(笑)。でも、これって日本の会社のどこでも起こっているけど、「喉元過ぎれば」じゃないですけど、人知れず消えてしまうのかなと。

大谷:電話とメールもつらいですけど、チャットだけもつらいですね。

松原:確かにチャットって、相手に「これやっておいて」と送るだけなので、楽は楽なんですよ。でも受け取る方の気持ち考えてほしいですよね(笑)。だから、部長クラスの人が若手にチャットで依頼しちゃうと、若手は「せっかくBacklog使っているのに……」となる。だったら、最初からBacklog使ってやろうよとは思います。

大谷:パシフィコ横浜さんは変わってきていますよね。

松原:はい、チームメンバーもやはり同じことを感じたみたいで、Backlog使った方がいいと言いやすくなった状況です。今後はもっとBacklogに寄せていこうとしているし、協力会社さんにも使ってもらおうという意見も出ています。Backlogを使ってもらえば、便利さを実感してもらえると思います。

今後は社内イベントで事例を紹介したり、マニュアルを作ったりして、タスクの投げ方を啓発したいです。1年間の実績と経験を基に、第二ステージに上がるためのマニュアルを作ろうと思っています。

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