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業務を変えるkintoneユーザー事例 第256回

イノベーションを生み出し、ノーコードを活用するために必要な力に気づいた

伸び悩んだら現場へGo! 星野リゾートのアプリ開発者が気づいた「問う力」

2025年02月17日 07時00分更新

文● 大谷イビサ 編集●ASCII

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イノベーションのためには概念化力と設計力だけじゃ足りなかった

 再びマイクは握った久本氏は、「小竹さんのモヤモヤが晴れて、テンションが上がった感想を聞いたときに、もしかしたらこれは大きなヒントなのでは?と感じた」とコメントし、持論を披露する。

 先ほど説明したシステム開発に必要な力には、実行と構想の2つのステージがある。このうち構想では、概念化力と設計力だけでは足りず、小竹さんが持ち帰ってきた「問う力」が必要になるというのが久本氏の学び。「概念化力も設計力も結局スキルなんですよね。スキルは学べばいいが、問う力は多様な経験の多様な視点がすごく重要だったのではないかと思いました」(久本氏)。

 久本氏はIT畑から星野リゾートに入社したが、情報システムグループには現場出身のメンバーを集めて、ノーコードでアプリを作っている。それは「現場の視点を持つ人が自分たちでアプリを作れば、現場から話を聞いて作っているIT人材より優れたものができるのではないか」と思ったからだという。しかし、今覚えば現場出身のノーコードエンジニアも、ある意味「同質性の高い集団だったのではないか?」と感じているという。

イノベーションの総量を増やしていく方法

 今後も「イノベーションの総量を増やしたい」という星野リゾート。しかし、生成AIの登場で、技術力、概念化力、設計力といったスキルはある程度カバーされていくはずだが、問う力だけは人が得た経験からしか得られないのではないかというのが久本氏の問いかけだ。「今回、経験したことのない業務を実際に習得し、そこで小竹さんが得たものも、多様な視点の1つ」と語る久本氏。「他の企業でいろんな社内経験があるから」こそ、「異なる業界の解像度が高いから」こそ、「社会課題の解決に関心があるから」こそ、自社に必要な視点を増やせるかもしれないわけだ。

 「小竹さんのように2ヶ月現場に行けばいいわけではなく、いろんな視点、いろんな経験を活かしていくことを、僕らはもっと積極的にやるべきだった」と久本氏。多様な経験や視点を増やし、イノベーションの創発を進めるべく、現在ノーコード人材を積極的に募集しているとアピールして、プレゼンを締めた。

概念化力と設計力を上げるためにやったこと

 後半はサイボウズの玉田氏が2人に深掘りしていく。最初のプロコード、ノーコード、SaaSの使い分けという質問には久本氏が応じる。

 順番としては、「概念化力」を駆使して、業務プロセスの本質や業務の情報を理解した上で、まずはSaaSを選び、フィットしなかった場合はノーコードを選択する。だいたいはノーコードが選択されるが、難しい場合はプロコードになる。利用を始めるまでの時間の短さで順番が決まる。「プロコードだと1年でも早いくらい。ノーコードだと下手すれば3日でできてしまう」と久本氏。この5~6年は現場や経営から相談が持ちかけられた段階でいずれに落ち着くかだいたい見えるという。

 2つ目の質問は、「概念化力」と「設計力」を身につけるコツ。「kintoneとは?」からスタートした小竹氏は「まずたくさん作ること」と答える。「最初に作ったアプリはごちゃごちゃしていましたが、そういう失敗ができるのもノーコードのいいところ」(小竹氏)。まずは手を動かすのが重要だという。

 続いてやったのは、「どうやったらいいアプリが作れるのか、きちんと学ぶ」ことだ。久本氏に相談して実現したのは、小竹氏がkintoneシステムを手がけるジョイゾーにインターンとして入ることだ。コロナ禍で業務が減っていたタイミングでインターンを実施し、業務アプリの開発をゼロから学んだという。

サイボウズ 執行役員 玉田 一己氏による質疑応答のパート

 久本氏は、「kintoneアプリを一番作っている会社に行って、近くで学ぶのが一番身につくと考えた。概念化力も同じで、学ぶには100本ノックが必要だが、打ち返してもらうのはプロであればあるほどいい」と語る。プロフェッショナル人材を雇うのではなく、プロフェッショナル人材になりたい人に専門家をつけて育てていくのが星野リゾート流。「専門家も教えてくれるわけではなく、僕らはこう考えましたという試作を持っていく。確かにボロクソに言われるんですけど(笑)、これを続けるとどんどんスキルが上がる」と久本氏は語る。

「問う力」をどのようにイノベーションにつなげるのか?

 3つ目の質問は、「問う力」を培う方法。小竹氏はまず「私が2ヶ月も沖縄行ったというのはレアケースだと思っている」とコメント。普段できることとしては、ユーザーコミュニティに参加して、自分の事例を発表したり、他社の事例を学ぶことだという。「同じ課題を自分だったらどう考えるか、考えています」(小竹氏)。

 久本氏は、「アウトプットすると、めちゃくちゃ内省しますよね。自分の活動を人によいこととして伝えるためには、なにがよいことだったのか、なにが課題だったのか、なにが学びだったのか必ず内省します。だから、アウトプットすることで、問う力を鍛錬しています」とコメント。久本氏自体も「やりきったこと」より、「やりきろうと思っていること」を発表し、反応を見ながら自分にプレッシャーをかけているという。

 また、多様な経験を得るために、自分が今までやっていない仕事をやったり、企業間のインターンしあうのもよさそうと持論を披露。「極論、転職しても、自らやりたいことを経験するという意味ではよい選択かもしれない。問う力をいい感じに身につけられると思う」と語った。

 最後、問う力を利用した今後の挑戦。小竹氏は星野リゾートが現在利用しているオンプレ版のメールワイズが終了になるのを見越して、問う力を用いて、よりよいシステムへの移行を進めたいという。「どうやったらお客さまの問い合わせを効率化できるか、どうやったらお客さまの旅がもっと楽しくなるのか、あるべき姿から考え直しているところ」と語る。

問う力を活用した次のチャレンジを語る小竹氏

 久本氏は、「小竹さんはリゾート気分の沖縄インターンを経て、やりたいことがあふれている。だから、メンバー全員がやりたいことをやったらどうなるんだろう?と考えている。僕が決めたことを、全員がやればいいとは全然思っていない。みんながやりたいことを全部やったら、どんなイノベーションが起こるのか、とても楽しみ。そして、やりたいことをいろいろ持った人が入ってくれるといいなと思っています」と、人材募集の話でセッションをまとめた。

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