業務を変えるkintoneユーザー事例 第256回
イノベーションを生み出し、ノーコードを活用するために必要な力に気づいた
伸び悩んだら現場へGo! 星野リゾートのアプリ開発者が気づいた「問う力」
2025年02月17日 07時00分更新
ノーコード戦略をテーマにしたセッションで「Cybozu Days 2024」に登壇したのは、長年kintoneを活用して業務改善を手がけてきた星野リゾート。内製化を進める同社でkintoneアプリを作り続けてきたアプリ開発者が伸び悩んだとき、現場に溶けたことで気づいた「問う力」とは? 情シスに今こそ必要な知見、ノウハウ、気づきが満載のセッションの模様をお届けする。
変化に対応できる組織とITの力を得るために
「ビジネスの変化に迅速に反応 質・量どちらも追及する星野リゾートのノーコード戦略」と題したセッション。サイボウズ 執行役員 玉田 一己氏の紹介で、登壇したのは、星野リゾート 情報システムグループ グループディレクター 久本 英司氏。まずは情報システムグループの歴史について説明した。
登壇時点で110周年目という星野リゾートは、世界で通用するホテルチェーンを目指して、試行錯誤を続けている最中。そんな星野リゾートの情報システムグループは、予約サイト、ホテル運営のためのシステム、ゲスト向けのWiFiの整備など、文字通り星野リゾートのIT関連を一手に担っており、この中にkintoneによる業務改善も含まれるという。
情報システムグループは、久本氏が入社した2002年に設立された。当時は、軽井沢にホテルが1つしかない状態で、久本氏の1人情シスからスタートしたのだが、「会社が成長する中で1人情シスに限界が来て、事業の足かせと言われるようになってしまった」とのこと。そのため、人を増やし、IT戦略を立てて、DXと呼ばれるよりはるか前からデジタルの強みを事業に取り入れていくようにがんばってきた。現在は60人くらいに拡大しているという。
久本氏が実践してきた情報システムグループの戦略は、コロナ禍やデジタル化など、「変化前提の世の中に迅速に対応できる組織の力」と「変化を加速させるためのIT基盤」の2つ。そして、後者のためのIT基盤の1つがkintoneになる。
同社がkintoneに取り組んだのは、内製力の強化につながる「市民開発」のプラットフォームによいと評価したから。クラウドやDevSecOpsの取り組みにより、現場部門のユーザーがアプリを作る市民開発は現実化してきた。そこで、情報システムグループではエンジニアではなく、現場出身の人材を取り込むことにした。「ITでなんとか業務改善したいという人に情報システムグループに来てもらい、kintoneを覚えてもらい、アプリを作ってもらうことにしました」と久本氏は語る。
この活動の先には現場を一番理解する現場の担当が自らアプリを作り、自ら改善していくというプロセスが描かれている。こうした取り組みを進めることで、最終的には誰も取り残さない全社員IT人材化までをやってきた。「情報システム部の役割は、教育の場を整えたり、kintoneの使い方を担当者に教えること。こうした未来を描いたとき、kintoneはすごくフィットしていた」と久本氏は語る。
プロコード、SaaSもあるが、多くの業務改善はノーコードでできる
久本氏は、システム開発においては、kintoneのようなツールを使ってアプリを作り上げるという「技術力」だけではなく、アプリでなにを解決したいか考える「構想」も重要だと指摘する。その上で、この構想には、業務そのものの本来の目的や価値、扱われている情報の意味を捉え直す「概念化力(=モデリング力)」とその概念をアプリに落とし込む「設計力」が必要だと説明する。
星野リゾートの情報システムグループでは、前述した変化前提の世の中に対応できる力として、これら技術力、概念化力、設計力などをkintoneを導入した2014年以降に培ってきたという。
その上で、星野リゾート全体のツールのポートフォリオも大きく3つに分類。エンジニアが開発する「プロコード」、kintoneなどでアプリを開発する「ノーコード」、業務ごとのシステムである「SaaS」の3つだ。「業務課題の解決は全部同じですが、アプローチが違います」と久本氏。SaaSは業務にフィットさせるための概念化力が重要だが、ノーコードとプロコードはアプリを作るので設計力も必要になるという。
結果として基幹システムは内製のプロコードで再構築中。SaaSは思ったよりも適用範囲が少なく、あまり使ってない。ほとんどの業務改善を実現しているのは、kintoneのようなノーコードだ。「プロコードはエンジニアを集めて、モチベーションを途切れさせずに、数ヶ月から1年くらい走り抜けなければならないのでなかなか大変。本当に欲しいものができるけど、ノーコードだと3日でできるものが、プロコードだと3ヶ月かかるのはざら。多くの業務改善はノーコードでできると考えています」ということで、とにかく速く、たくさん作れるのが大きな特徴だ。
kintoneによって作られたアプリは、使用しなくなったものまで含めて、なんと4500に及ぶ。また、情報システムグループが現場部門と伴走しながらアプリを開発する「kintone 39」という社内向けサービスでも、2年前から始めていまや128のプロジェクトが動いているという。kintoneの作り方を解説する社内ビジネススクールや、新しいノーコードツールへのチャレンジも始めたという。
現場出身の人材の活躍により、アプリを速くたくさん作れるという実績も得られ、順風満帆に見える星野リゾートのノーコード戦略。しかし、まさに現場出身の人材である小竹潤子氏から久本氏が相談されたのは「伸び悩んでいます」という悩みだった。昨年4月くらいの話だ。

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