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第9回 チームワークマネジメント実践者に聞く

プロフェッショナル同士がワンチームで仕事できる環境はどのように作られたのか?

競争激化のガス業界に一石を投じる「SAIBU LAND」 プロジェクト8ヶ月を振り返る

文● 大谷イビサ 編集●ASCII 写真●曽根田元

提供: ヌーラボ

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 九州地域でガス事業を手がける西部ガスが12月にオープンさせた会員制サービス「SAIBU LAND」。ほんわかしたイラストの見た目と裏腹に、サービス構築至るまでの社内事情とプロジェクトはハードだった。西部ガスの担当者2人に、プロジェクトの舞台裏とわずか8ヶ月でのサービス構築を実現したBacklogの活用について聞いた。

ぬるま湯だったガス会社はいきなり乱世へ マーケティングを武器にするまで

 西部ガスは福岡県に本社を置くガス会社で、創業からまもなく95年を迎える老舗だ。東京ガス、大阪ガス、東邦ガスとともに大手都市ガス4社の1つで、現在は西部ガスホールディングスを持ち株会社とし、グループ全体では3800人近くの規模を有する。

 パイプを伸ばしてガスを直接供給する都市ガスは、生活や事業を支えるインフラ事業であり、長らく地域独占が許されていた。居住地によって、ガス会社が決まっていたため、競争という概念がなかった。当然、西部ガス自体もマーケティングという概念が希薄で、組織自体もガスの安定供給に最適化されていたという。

 そんな西部ガスの事業に大きな変化をもたらしたのが、2017年のガス自由化。すべての消費者がガス会社を選択できるようになり、事業者同士の競争が一気に激化。西部ガスも前年の電力自由化とともに参入した新規事業者に多くの顧客を奪われてしまった。今回話を聞いたマーケティングDXグループの松元亮氏は、「正直、私たちはぬるま湯に浸かっていました。だから100年近くかかって構築してきた顧客基盤が、たった1年で1割も切り崩されてしまったんです」と語る。

西部ガス 営業本部 営業計画部 マーケティングDXグループ 松元亮氏

 こうした市場の変化があり、7年前から営業部内にマーケティングチームが立ち上がるようになった。当初は松元氏が単独でプランニングし、キャンペーンのために特設チームを立ち上げるというパターンで、安定的な組織ではなかった。「データを分析し、どういったお客さんが離脱しているのか、離脱率を下げるにはどうしたらよいか、仮説を立てて、テストマーケティングを繰り返していきました」(松元氏)。こうした仮説と検証で明らかになったのが、データ分析の優位性だ。

 たとえば「電力とガスをセットで販売することで、離脱率が大きく下がる」というファクト。同じようにガス機器やリフォームなどのバンドリングが有効なこともわかった。こうしたデータに基づいた仮説から、営業やマーケティングを立案することで、離脱率は下がり、失った以上の顧客数を他事業者から奪っているという。まさにマーケティングが武器になったのだ。

 こうした実績を経て、7年越しでチームはいよいよ正式に組織化され、現在は6人から構成されるマーケティングDXグループとして活動している。そして、この松元氏とともにマーケティングDXグループを切り盛りしているのが、特設チーム時代からの“戦友”である友池真祐子氏だ。

 友池氏は、自由化直前の2016年に西部ガスに入社し、マーケティング部に配属。ただ当時はマーケティング活動というより、ガス機器のカタログ制作や公式サイトの更新などプロモーション業務を手がけていたという。

 松元氏とのタッグは、「たまたま同じフロアにいたから(笑)」(友池氏)だ。「私は公式サイトに料金シミュレーションを載せたいので松元さんに相談し、松元さんはとあるプロジェクトで人手が足りないから手伝ってほしいという感じだったので、両者でバーターが成立したんです(笑)」とのこと。

西部ガス 営業本部 営業計画部 マーケティングDXグループ 友池真祐子氏

 役割としては、松元氏が企画を立案し、友池氏はシステム化や顧客への見せ方といった具体策を練り上げる。途中、友池氏は営業部やインフラ部に異動したこともあったが、結果的に松元氏とマーケティング関係の業務で関わることも多く、本人の希望もあり、ようやく今年度同じ組織にジョインできたという。

ガス会社らしくない会員制サービス「SAIBU LAND」ができるまで

 そんなマーケティングDXグループが今年手がけてきたのが、会員制サービス「SAIBU LAND(サイブランド)」だ。基本はLINEから利用できるポイントサイトで、ユーザーの行動に応じてマイルが溜まるというもの。「ミッション」をクリアしたら、マイルが溜まり、ギフトカードやお食事券などと交換できる。

ガス会社らしくないSAIBU LANDの見た目

 西部ガスにも会員制サイトはあったが、検針情報をベースに利用料金を知ることができるという契約者向けのサイトで、利用もあまりアクティブではなかった。改修しようにも、基盤システムにひも付いているため、全社のデジタル部門に構築を依頼する必要があり、年単位での時間、億単位のコストがかかることが予想された。そのため、まったく新しい会員制サイトとして企画したのがSAIBU LANDだ。

 SAIBU LANDの目的は、西部ガスの契約者のみならず、契約のない顧客ともつながること。「ガスも電気も競争も激しくなっていますし、なにより人口減少で市場は先細りです。だから、西部ガスとの契約がないお客さまとも、今のうちからつながっておく必要がありました。つながった関係からクロスセル、アップセルを進め、ライフタイムバリューを挙げていこうと考えました」と松元氏は語る。

 もう1つはグループ各社の強みをアピールしていくことだ。西部ガスは自由化以前から事業の多角化を進めており、不動産、工務店、飲食店、リゾートといったグループ会社ほか、アイススケート場や福岡中央魚市場まで抱えている。「ガス事業に比べて、1つ1つは規模が小さいのですが、これらのグループのアセットをしっかり活用し、『お客さまのサービスハブ』という役割を担えたらいいなと考えました」と松元氏は語る。

 「契約の有無にかかわらず、気軽に使ってもらいたい」「ガスや電気以外にも、西部ガスが生活の隣にあるということを知ってもらい」。そんな企画を具体化するための松元氏から友池氏へのオーダーは、「入りやすくて、楽しそうなサイト作ってほしい」というもの。リクエストを受けた友池氏は、「とにかくガス会社っぽくないサイトを作ろう」と考えた。

 なにしろSAIBU LANDは見た目がキャッチーだ。SAIBU LANDの住人である6人(?)の動物たちは、BEAMSや靴下屋などのブランドコラボで知られているSaki Morinagaさんが手がけており、とにかくキュート。「サウナ好きなヒグマ」「流行やおトクに敏感な猫ママ」などキャラクターもきちんと設定されており、裏ではグループ会社の事業にもきちんとひも付いているという。

キュートなキャラから初回登録マイルをプレゼントされる。

マイルを溜めると、Amazonギフトやお食事券など、さまざまな特典と交換できる

 キャラクターのみならず、サイト全体のデザインも、ほんわかとした温かさを感じるもの。ランディングページを眺めているだけで、思わず「入園」してみたくなってしまうわけだが、そんなときの敷居の低さも売り。LINEから利用できるので、面倒くさい認証設定や個人情報は求められない。マイルを溜める際に、初めてプロフィールの提供が必要になるという設計になっている。

 そしてキュートなイラストの裏側では、営業が運営しているCDP(Customer Data Platform)とAIによる分析機能が動いており、来訪者ごとに異なるメッセージを出すことができる。「修理履歴が溜まっているお客さまに対しては、コンロに困っているのではないかと仮説を立て、キャンペーンを提案することができます。しかも猫やら犬やらのSAIBU LANDの住人がしゃべってくれるんです」と松元氏はアピールする。

8ヶ月で構築したSAIBU LAND その背後に外部パートナーとBacklogあり

 実はこのSAIBU LAND、マーケティングDXグループが組織化された2024年4月からわずか8ヶ月で構築されている。これを可能にしたのが、スキルとこだわりを持った外部パートナー、そしてプロジェクト管理ツールのBacklogである。

 2019年にBacklogを導入する以前、特設チームでは電話とメール、社内チャットでプロジェクト管理していた。特設チームは多くて3名だったので、他はすべて外部のパートナー。しかし、この外部パートナーとのやりとりをメールと電話でこなすのは無理があり、抱えられるプロジェクトも1つか、2つが限界だった。「関係者が多岐に渡るので、誰をccに入れたか、入れないかとか、すごく面倒でした」と友池氏は振り返る。

 そんな特設チームにとって、パートナーが利用していたBacklogは強力なツールだった。「われわれもBacklogを利用したら圧倒的にプロジェクト管理が楽になりました。しかも、複数のプロジェクトも余裕でできてしまう」(松元氏)とのことで、以降プロジェクト管理にはBacklogを用いてきた。アジャイル開発にも利用でき、さまざまな職種のユーザーにとって使いやすいのは大きなメリット。「開発者はコードやマークダウンのテキストも書けるし、デザイナーはサイズの大きなファイルをアップロードできる場所もあります。両方の職種で便利に使えるのもありがたいです」(友池氏)。

 現在は10近くのプロジェクトを同時に回しており、単純に従来に比べて5倍になったと言える(関連ページ:Backlog導入後、同時並行できるプロジェクトが5倍に! 西部ガスのチームワークマネジメントを公開)。現在の6人のメンバーのうち、2人は部に入って初めて利用したが、すでに使いこなしているという。「プロジェクト数を増やしつつ、プロジェクトの質を落とすどころか、逆に上げることもできている。これはBacklogのおかげ」と松元氏は評価する。

 こうした実績を元に、今回のSAIBU LANDも使い慣れたBacklogでプロジェクトに挑んだ。友池氏は、「過去、キャンペーンや業務システム開発などを経て、いっしょにプロジェクトを経験していた関係者も増えてきました。今回のSAIBU LANDは常設の会員基盤なので、時限のキャンペーンやプロジェクトとはちょっと毛色が違う。まずは役割を振り分けるところから始めました」と振り返る。

 SAIBU LANDの関係者はシステム開発、デザイン、ページコーディング、イラスト、印刷、広告、Webマスター、コールセンターまで含めて50人近く。外部パートナーも6~7社なので、かなり大型のプロジェクトになる。「お客さま相談や顧客の対応まで、すべて私たちが受けるので、どうしても関係者が増えてしまう。開発からお客さま相談室まで全員が入ったワンチームでやらないとプロジェクトは成功しないので、Backlogで全体を見ることが重要になります」と松元氏は語る。

 友池氏の役割は、プロジェクト全体の進行を円滑にするためのいわゆる「バックログスイーパー」に当る。プロジェクトの概要や利用ルール、Slackやスプレッドシートなど連携ツールの情報をBacklogのWikiに記述したり、メンバーの負荷を確認したりする。「担当者でソートしたり、ガントチャートで確認したら、この人はキャパ的に厳しそうという場合は、優先度低いタスクを他の人にやってもらうとか、負荷を分散するようにしています」(友池氏)。

 プロジェクトはBacklog上での管理に加え、オフラインの定例会議で進捗を共有する。このとき共有されるのも、もちろんBacklogの課題リストとガントチャート。担当にタスクを意識してもらい、終わらせてよい課題はきちんと終わらせる。「私も定例会議に出れば、プロジェクトの細かい進捗を追わなくとも、大丈夫そうとか、人が足らなそうとか、状況を把握できます」(松元氏)。

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