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業務を変えるkintoneユーザー事例 第250回

老舗の食品原材料商社がkintoneで始めた営業DX

誰にも求められてなかった「サイボウズ Officeからの引っ越し」 でも設定変更ひとつで評価は一変した

2024年10月28日 11時30分更新

文● 福澤陽介/TECH.ASCII.jp  写真●サイボウズ

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 kintoneユーザーによる事例・ノウハウの共有イベント「kintone hive 2024 nagoya」が開催された。

 本記事では、5番手を務めた老舗の食品原材料商社、清田産業の寺西柚佳里氏によるプレゼン「サイボウズ Officeからお引っ越し ~kintoneで始める営業DX~」をレポートする。

清田産業 デジタル推進部 寺西柚佳里氏

みんな大好き「サイボウズ Office」にも課題 孤独な営業DXプロジェクトが始まる

 清田産業は、名古屋に拠点を構える、1932年創業の食品原材料専門商社だ。主な事業は、食品原材料メーカーから仕入れた商材を、お菓子・パンメーカーなどに卸売りすることで、扱う原材料の数は1万点以上に上る。

 そんな清田産業は、グループウェア「サイボウズ Office」のヘビーユーザー企業だった。2008年から15年にわたり同社を支え続けていたため、「全社員サイボウズ Officeなしでは仕事ができない」(寺西氏)状態だった。カスタムアプリの数は210個以上で、社員数よりも多い。あらゆる業務フローがカスタムアプリ上で構築されているため、まさにサイボウズ Officeは切っても切れない関係だった。

サイボウズ Officeなしでは仕事ができなかった清田産業

 一方、中途採用で入社した寺西氏は、サイボウズ Officeが業務の中核な状況に、3つの課題を感じていた。

 1つ目は「アドレス帳」の課題。手入力なため表記ゆれ・誤字が多く、データの正確性が欠けていた。2つ目の課題が「商談報告書」で、案件軸や顧客担当軸などで並べ替えできず、案件を見直そうにも該当の商談をなかなか探せない。サイボウズ Officeとは別に、Excelで管理する社員がいたほどだ。

アドレス帳は表記ゆれ・誤字が多かった

 最後の課題は、同社を支えているはずの「カスタムアプリ」である。業務には欠かせないが、使われていない野良アプリも沢山あり、データ量が多くなると検索速度などに影響が出ていた。同じ用途のアプリなのに年度ごとに分かれていたり、重くなったアプリは作り直されたりと、カスタムアプリが増え続けた結果、データのサイロ化に陥っていた。

乱立するカスタムアプリでデータがサイロ化

「私的には、いろいろな課題が見えていましたが、それでもみんなサイボウズ Officeが大好き。意外にも現場には課題感はありませんでした。現状で満足しているならと思うものの、これでは生産性が上がりません」(寺西氏)

 こうして寺西氏の情報システム部門は、2021年に「営業DXプロジェクト」を発足。しかし、情シス主導のこのプロジェクトは「誰にも求められていない孤独な闘いの始まりでした」と寺西氏は振り返る。

要件通りに構築したkintoneでのSFA、営業からの反応は冷ややかだった

 まず情シスでは、顧客情報基盤を整備するためにSansanを導入。続いて、営業支援サービス(SFA)の選定を始めた。

 計3つのSFAをトライアルするも、営業部門は「サイボウズ Officeと違い過ぎる」と断固拒否。情シス部門と営業部門が話し合いを続けに続け、落としどころとなったのは、初期導入の工数が多すぎて、選択肢から外していたkintone。カスタマイズできるkintoneだったら「ギリやれる」という結論から、サイボウズ Officeからkintoneへの引っ越しが決まった。

 サイボウズ Officeからkintoneへの移行。最大の障壁となったのは、やはりカスタムアプリである。210個のカスタムアプリを移行するのは土台無理な話で、まずは野良アプリの精査から始めた。年に数回しか更新されていないアプリは、立ち退きを依頼。類似アプリも統合していき、最終的には52個までアプリを減らした。この残ったアプリの移行とSFAの構築という2段構えで、kintoneの構築を始めた。

210個のカスタムアプリは移行にあたり52個に絞った

 カスタムアプリの移行は、慣れ親しんだアプリと並行して利用されることがないよう、移行が完了したアプリから即アクセスを停止。冷徹に管理者権限を行使して、即引っ越しさせた。

 一方のSFAの構築は、営業部門との二人三脚進めた。役員から新入社員まで、営業職の半数以上にヒヤリング。40個の要件を定め、2023年12月にはついにSFAは完成した。

 アドレス帳の基本情報はSansanから自動連携、バラバラだった取引先情報も関連レコードで統合することで、アドレス帳だけですべての情報が把握できるように。商談報告書は、ルックアップ機能で案件に紐づけ、案件リストでも活動履歴が確認できるように。これにより、サイボウズ Office時代と同じ運用で、案件軸でも、顧客担当者軸でも商談を探せるようになった。

アドレス帳だけですべての情報が把握できるように

報告書の検索性も向上した

 「構築した私的には大満足。40個の要件をすべて満たした最高のシステムなので、きっとみんな喜んでくれるはず…」(寺西氏)

 ――とはならず、社員からの反応は冷ややかなものだった。

 kintoneで作ったSFAは「使い方が分からない」「そもそも今までと使い方が違うじゃん」など口々に言われ、寺西氏の社内スマホには問い合わせが殺到した。「すり合わせも十分やったはず。要件通りちゃんと作った。こういった時のために作った問い合わせアプリは起票されない」と寺西氏は嘆いた。結局は、サイボウズ Officeと違ったことが受け入れられなかった要因だった。寺西氏は反省した。

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