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CMC_Centralで聞いたコミュニティ参加者の本音

会社の評価もないし、参加は自腹 それでもコミュニティに参加する理由

2024年08月05日 10時00分更新

文● 大谷イビサ 編集●ASCII

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 6月29日に名古屋で開催されたCMC_Centralでは、コミュニティの運営者を中心に、参加者、マーケ担当、ビジネス系、コンシューマー系などさまざまな視点でのセッションが興味深かった。本稿はコミュニティ参加者側の立場をメインにした3人のパネルをレポートしていきたい。

左から酒井真弓氏、片岡幸人氏、三浦一樹氏

参加者から運営になった登壇者たち、それぞれの想い

 コミュニティマーケティングの全国イベントであるCMC_Centralでは、基調講演に続いて、個別のテーマに沿ったセッションが披露された。「様々な視点から深掘りする、参加者視点でのコミュニティ活用術【参加者視点】」は、コミュニティの参加者がどのような思いでコミュニティに参加しているのかを深掘りするセッション。ゴールとしては「どうすれば参加者が気持ちよくコミュニティに参加し続けられるのかのヒント」を得られることだという。

 モデレーターはノンフィクションライターの酒井真弓氏。DXやコミュニティに関する書籍を執筆するかたわら、ダイヤモンドオンラインやEnterprizeZineなどの連載も持っている。酒井氏がアンバサダーを務める「Jagu'e'r(ジャガー)」はGoogle Cloudの公式エンタープライズユーザー会で、3年前に立ち上げて、現在では1000社・4000人が参加している。

 続く一人目のパネラーは高知に在住しながら、マルチワーク・リモートワークで働く片岡幸人氏。コミュニティもJAWS-UG、kintone Café 高知などマルチで、IoTプラットフォーム SORACOMのユーザー会であるSORACOM UGでは、MVC(Most Value Contributorにも選出されている。地元のCMC_Meetupに関しては、若手が運営を引き継ぎ、先日無事に卒業できたとのことだ。

 二人目のパネラーは「みうみう」こと三浦一樹氏。北海道テレビ放送のエンジニアで、名古屋はサウナの素敵なホテルに泊まって3泊目とのこと。札幌のITコミュニティに出没しており、今回はAWSのユーザーコミュニティであるJAWS-UGにフォーカスするという。地元のJAWS-UG札幌に加え、放送関係に特化したMedia-JAWSの運営メンバーでもある。「中京テレビさんをお借りして先日やったMedia-JAWSは150人くらい集まった。懇親会も70人くらいで、隣の人の声が聞こえないカオスだった」と語る。

 そんな三浦氏が感じる地方の課題は、人もお金もリソースもない中、「東京と同じことをやってもうまくいかない」ということ。また、Media-JAWSに関しては、「メディア業界の人たちはなかなか外に出て行かないので、メディアの人は半分、その他の人半分くらいで混ぜて交流させるとなかなかいいかなと思う」だという。

 三浦氏は、JAWS-UGでのコミュニティ活動が評価され、2019年には日本独自の評価制度である「AWS SAMURAI」に選定されている。その後、グローバルでのコミュニティ貢献の評価制度である「AWS Community Hero」に選出されたのだが、「世界で250人くらいしかいないはずなのに、この部屋にすでに4~5人くらいいる(笑)」とのこと。積極的なアウトプットや運営を評価され、ラスベガスのAWSのコミュニティイベントに招待されたり、メリットも大きかった。「Jagu'e'rとJAWS-UGが同じ場所に立つのはあまりないので、ぜひ写真を撮ってほしい」と酒井氏もエールを送る。

コミュニティに参加したらこうなった

 最初のテーマは「なぜコミュニティに参加しているのか?」。「三浦さんはコミュニティにすごくコミットしていて、本業も忙しいのに、なぜなのか気になります」と酒井氏が聞くと、「6月はコミュニティにコミットしすぎていて、仕事の進捗はほぼゼロ(笑)」と月末に似つかわしくないコメントが三浦氏から飛び出す。大丈夫か。

 三浦氏は、北海道テレビ放送で映像配信とECサイトを担当しているが、「もともとテレビ局なので、エンジニアというロールが存在しない。だから総合職」とのこと。現場でテクノロジーをドライブした方が早いということで、上司に掛け合って、できたのが今の三浦氏のポジションだ。元々は「『AWSの資格を取ったら、年収1000万円になる』みたいな雑な記事を読んで、転職しよう」と考えたが、コミュニティでスキルを身につけたら、隣の部門の課題を解決できるようになったという。

 今の三浦氏は、コミュニティで学び、それを業務に活かし、その話をコミュニティにアウトプットすると、仕事の依頼が来るというサイクルの末にあるという。「ここまで聞いてると、めちゃくちゃ理想的な形で進んでいる」と酒井氏が感想を漏らすと、三浦氏も「だからAWSからも表彰とか、称号とかいただいたんだと思います」と語る。

 続いては片岡氏。酒井氏はコミュニティ参加の利用について「やっぱりお金ですか?(笑)」と雑に振ると、片岡氏は仕事とコミュニティの両輪について語る。「確かに今日ここに来られているのも、やはり経済的な余裕があるから。だから、お金も大事なんだけど、コミュニティって、『やっぱり楽しそう』が先にある。今日も業務時間外なのに、ここに来ている。よっぽどモノ好きですよね」(片岡氏)

 結局、モノ好きと呼ばれる人が熱狂できる関心事がコミュニティの原動力。「私もIoTが好きなので、家族の知らないところで、趣味で夜な夜なコードを書いているんです。でも、ある日これが仕事に活きる。公私混同がめちゃくちゃ重要」と片岡氏は語る。好きなことを突き詰めて、仕事で活きるときが来ると、とてもハッピーになるわけだ。

コミュニティ参加は自分のため? 誰かのため?

 片岡氏が、もう1つ指摘したのは、地方だとコミュニティのミックスが必要になるという点。1つのテーマだけではなかなか難しいので、異なるテーマとの掛け合わせで新しいものを生み出すことが重要になる。「最初は地域貢献という面もあったけど、最終的には自分ごとにならないとコミュニティはうまくいかない」(片岡氏)と指摘する。

 モデレーターの酒井氏は、自身の活動について「取材とプライベートのマリアージュみたいなところがある」とコメント。「コミュニティからヒーローやヒロインを出したい。そしてその記事を読んだ誰かが自分もがんばってみようかなとか、明るい気持ちになってくれたら、いいなとか、日本のデジタル化やITが進めばいいなと思っていて、『コミュニティに潜入取材している』イメージ」と語る。

 酒井氏は、ノンフィクションライターとして生計を立てている立場だが、ご存じの通り、出版業界は不況が長く、本を出してもなかなか実入りは厳しい。それでもコミュニティの運営や取材は自身のライフワーク。「地方取材が好きでよく行くのですが、経費が出ないこともある。パラレルキャリアだからなんとかやっていける。そこまでしても取材するのは、コミュニティの人たちがそれくらい魅力的だから。世に出したくてしようがないから」と取材のモチベーションについて語る。

 三浦氏も、「今の誰かのためになればという点では、自分も元々エンジニアでもなんでもなかったけど、システムを作るようになった。これって再現性があるのではないかと思って、事業会社だけど壁を突破したいという人に向けて発信している」とコメント。実際、AWS Summit Japanで登壇した地元札幌の北海道ガスや北海道文化放送のエンジニアは、三浦氏の影響を受けたことを公言してくれて、「これはうれしかったです」という。

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