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大規模プロジェクトが想定通りにいくことはほとんどない ―書評「BIG THINGS」

2024年06月28日 10時00分更新

文● 磐前 豪/FIXER

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 本記事はFIXERが提供する「cloud.config Tech Blog」に掲載された「BIG THINGS ~大規模プロジェクトを成功に導く勝ち筋~」を再編集したものです。

大規模プロジェクトの99.5%は「予算超過、期間延長、便益過少」に陥る​

 大規模なプロジェクトは想定通りにいくことは殆どない ー これは情報システムの大規模開発プロジェクトに携わった経験がある人は少なからず感じているのではないでしょうか。​

 ​『BIG THINGS(ベント・フリウビヤ/ダン・ガードナー(櫻井祐子訳)』によれば、​136か国、20種超、1.6万件を超えるデータの中から、以下の傾向が明らかになっています。​

・予算内・工期内に完了するプロジェクトは、全体の8.5%に過ぎない。​

・予算・工期・便益の3点ともクリアするプロジェクトは、わずか0.5%だ。​

 失敗するプロジェクトの傾向として、本書では、プロジェクト期間について言及しています。

 失敗するプロジェクトはズルズル長引き、成功するプロジェクトはスイスイ進んで完了する。私たちの外部環境。内部環境は複雑性と相互依存性を増し、複雑系の環境下にあるが、プロジェクト期間を「開いた窓」と例えると、期間が長くなればなるほど、窓は大きく開く。そして窓が大きく開けば開くほど、大きく邪悪なブラックスワンが窓から飛び込んでトラブルを起こすリスクも増大する。​

 と分析しています。​

ゆっくり考え、すばやく動く

 では、そうならないように、どのように対策をしたらよいか。つまり、窓を閉められるよう短く収める、にはどうしたらよいでしょうか。

 本書では、その要諦として、まず実行に取り掛かるのではなく、計画に重きを置くこと、特に「創造的で多面的で注意深い思考」を「ゆっくりとしたプロセス」で踏むことの重要性に言及しています。​

 つまり、「ゆっくり考え、すばやく動くーこれが成功のカギだ。」としています。​

 ビジネス、特にITの世界では、時間の浪費は危険を招く。多くの意思決定はやり直しできるからまず行動すべきである、という実行重視の考え方が大事にされる傾向が強くあります。​

 ただ、ここで重要なのは、やり直すことができる「可逆的」な意思決定と、実質的に「不可逆的」な意思決定を切り分けることです。​

 計画フェーズの段階であれば、「試行錯誤のコストは少額ですむ」。​

前に進みたい行動バイアス

 しかしながら、プロジェクトでは、​

 プロジェクトというプロジェクトが、形だけの性急な計画立案を経て、すばやく始動する。計画が実行に移されるのを見て、誰もが満足する。だが計画フェーズで見過ごされ真剣に検討されなかった問題がすぐに露呈し、急いで事態の収拾に奔走する。するとまた別の問題が発生し、さらに奔走する。

 ことが発生しがちです。​

・計画立案とはフローチャートを埋めることだと誤解している人が多い。​形だけの分析を行い、1つの決定にすぐさま固定化し、その他のあり得る選択肢をすべて無視する。​

・人は慎重に考えるより早く1つに決めたい。ほかの選択肢があるかもしれないのに、それが唯一の選択肢であるかのようにふるまい、結果として予想以上のコストやリスクを負ってしまう​

 現場が実行を優先したいのは、周囲の期待も含め、「前に進んでいる」感じがほしいからであり、行動へのバイアス(実行重視の姿勢)が掛かりやすくなります。​

 こうした人間の行動特性の誘惑や周囲の圧力に負けず、「計画立案は、プロジェクトの停滞ではなく、前進である、それも最もコスト効率の高い前進である」という、捉え方の転換が必要です。​

「根本」を明確にすること​

 ではどうしたらよいか。本書では、次のようなアプローチの重要性を説きます。​

・プロジェクトを始めるときには、手段と目的のもつれをほどいて、「自分は何を達成したいのか?」をじっくり考え、心理メカニズムのせいで性急な結論に飛びつきたくなる衝動に、なんとかしてストップをかけなくてはならない。​

・プロジェクトの計画立案は、なぜこのプロジェクトをするのか?を考え、右端のボックスに何が入るべきかを慎重に検討することから始まる。テクノロジーありきで、それをどうやって売るかを考えるのは本末転倒だ。今日、「逆から進める(ワーキング・バックワーズ)」はシリコンバレーのスローガンになっている。​

・優れた計画は、実験と経験の両方を徹底的に活用する。あれこれ試し、工夫を凝らし、何が有効か、有効でないかを見極め、これを繰り返しながら学習する。つまり、実験を通して経験を生み出していく。(そして)「試作品」で完成しておく。​

・チーム作りには「コスト」をかける。利害が一致すればおのずと「協力的」になる。「一体感」で全員の士気を高め、一丸チームですばやくつくる​

・小さいもので大きいものをつくる(モジュール性、分けると効率が上がる)​

 根本の目的を共有し、プロジェクトを逆(目的達成)から考えること、十分な試行錯誤を経て完成イメージを明確にし、あとは完成品を作るだけの状態にすること、モジュール化し、チーム一丸でそれを分担し素早く作ることが、プロジェクトを長期化し、工期・予算・便益をクリアするうえで必要である、としています。​

 もちろん、今回取り上げたこと以外にも、プロジェクトの成功に必要となる考え方、手法は多くあるでしょう。​

 ただ、「実行の前」にもっと時間をかけることの重要性を理解すること、「まず行動」は不確定さが多い複雑な環境下では賞賛の対象にもなりやすい概念ですが、逆に視野狭窄に陥ってしまいやすいということについて、一度立ち戻って考えてみると新たな発見があるのではないでしょうか。​

磐前 豪/FIXER

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