「AIを使わないと完成しないレポート」を学生に課してみる
高橋 一方で、たとえば手塚治虫の漫画を大量に学習させると、手塚治虫“風”の絵は描けるようになるわけです。そうした“なんとか風”は器用にこなせるので、やはり使いようですよね。
栗山 日頃から学生には「教科書通りにしか物事を運べない人」にはなってほしくないと思っていますが、まさにAIは定型を量産することが得意です。つまり、教科書通りの物事においてAIは人を凌駕するので、定型文――決まり事を覚えるだけで受験を突破してきた学生さんにとって、AIは脅威に映るかもしれません。
ですので、AIが学習現場にも浸透することで「教科書通りじゃなくて良い」学習スタイルが生まれてくると面白いなと思います。
高橋 教科書通りならAI任せで良いわけですからね。
―― 先ほど高橋さんが「レポートはAI活用前提の内容に変えていきたい」というお話でしたが、それは具体的にどのような?
高橋 実は、AIが話題になる前に出していたレポートテーマを、AIに与えてみたところ、それっぽい内容のレポートができあがってしまったんです。このままですと自力かAI任せかの判断ができません。
受講生の人数が少なければ、プレゼンしてもらったり、質疑応答だったりで判別できるのですが、280人もいるとそれも無理です。チーム内でのプレゼンをしてもらう、といった施策も試しましたが、やはり人数が増えてからは難しくなりました。
そこで、決められたテーマをまず生成AIサービスに通し、出てきた内容に対して「自分は賛成/反対だ。理由は……」といった意見を入れた上で論述せよ、という形式にしてみました。
栗山 面白いですね!
高橋 はい。この形式ですと、AIが出してきたものに対して一度自分が回答しなければならないので、すべての学生にAIを使わせることができます。
そして、少なくともひと手間かけて工夫しないと作成できないので――この形式を踏まえたうえですべてAI任せにできる学生がいたら逆に凄いのですが―― まずはAIを使うだけでは完成しない、そして何よりAIを無視できない工夫をしようと現在模索中です。
レポートを簡単に仕上げるための「使いこなし」
―― AIは今のところ、自信満々にウソを書いてきたりします。
高橋 そうですね。引用の根拠を示した上で回答せよと求めても、その根拠となっているURLが存在しないものだったり、嘘の固有名詞・事実を出してきたりします。
それらすべてを私が確認したり、「これはコピペじゃないか?」と調べたりするのはちょっと現実的ではないので、AIを使いながらも、AIの回答をコピペするだけでは作れない課題を出して様子をみようかなと。
栗山 昔、レポートを書いていた頃は大量の出典を並べる必要があって、私はその作業が苦痛で苦痛でしょうがなかったんです。でもあの作業、今ならAIに「この出典を全部探してきて」とお願いすれば、ある程度任せられるかもと思っています。
ただ、その次の手順がどこまでできるかは、まだちょっとクエスチョンが付きます。資料を集めた後は、自分の行きたい方向にいろんな資料をつないで引っ張っていくのがレポートの書き方だと思うのですが、それはたぶんできないかなと感じています。
そこで、出典をすべて探した後は、「それらのキーワードを含む文章を引っ張ってきて」とお願いすることはできるはずなので、その束を自分が行きたい方向に並べて最終的にレポートのかたちにできれば結構効果的であると思います。
高橋 それまでいくと「使いこなす」というレベルに入ってきますよね。
栗山 無駄な時間をかけずに済みますから!
「セキュリティとAIは無縁」→そんなことありません!
逆です。いまやセキュリティとAIは切っても切れない関係なのです。生成AIサービスが誰にでも使えるようになった今日、最も旺盛にAIを利用しているのは、フィッシング詐欺などを実行する詐欺師かもしれません。
悪意ある人たちは、被害者を騙すために生成AIでより洗練させた文章にして成功率を上げていると考えられます。さらに、その文章を多言語に翻訳するためにも生成AIを大いに「活用」しているでしょう。何百通りもの文章を素早く出力する生成AIは、詐欺師の有能な相棒にもなり得るわけです。
つまり私たちは今後、真偽の判別がより困難な詐欺メールやSMSに襲われる可能性が高いのです。
こうしたAI悪用の詐欺に私たちはどう立ち向かえば良いのでしょうか? 1つのヒントは、こちらも「AIで防御」することです。マカフィーが開発した詐欺SMS検知は、スマートAI技術によってSMSに着信した文面から危険なリンクをブロックしてくれます。自動的に検知するため、私たちが1通ごとに悩みながら判別する必要がなくなります。
善悪どちらの方向にもAI技術は急速に進展しているのです。