なくなる職種と生まれる職種
栗山 「奪われる」という不安材料は確かにあると思いますが、「逆に面白いかも!?」という視点もあります。
たとえば東京国際工科専門職大学は元Google米国本社副社長の村上憲郎氏が学長に就任したばかりです(2024年4月1日)。これは1つの例ですが、すでに「人材の取り合い」になっている側面を示しています。
「あの職種がなくなるかもしれない……」という不安がある一方で、AI技術を修めている学生が新卒にもかかわらず良い待遇で入社しています。なぜなら、良い給料でオファーしないと、やはり取り合いになってしまうからです。AI技術者とでも呼ぶべき、新しい職種「プロンプトエンジニア」が生まれているわけですね。
ひと昔前は「MBAの資格を持っていれば、ある程度の年俸を保障される」というようなことがありましたが、それが今後はプロンプトエンジニアリングの資格に変わるかもしれません。
もちろん新しい職種が生まれる環境は、技術的な専門職に限られる部分もありますが、それに付随して文系であったとしても今後は活発になる分野だと思って良いのかな、と。
高橋 生成AIのプロンプトをうまく組める人たちが高い待遇でヘッドハントされるという話を紹介したこともありますが、学生は自分の学部と違う分野を目指すことをまだ若干怖く感じているようです。若いけれど保守的なのか、もしくはAI技術の未来に疑問を持っているのかも。
「あの先生に『使うな』と禁止された」などという話も聞きましたし、実際に厳しく禁止している講義も現状は多いです。
大学では「AI使うな」が大勢
栗山 諸刃の剣にはなりそうですね。技術者たちと話していますが、彼らも今後どのように発展していくかはわからない部分が大きいようです。ですから先生方が「ちょっと待て」とおっしゃるのは、自身のコントロールを超えてしまうことを危惧されているのだろうなと推察します。
テクノロジーは便利な反面、悪用しようと思えば果てしなくエスカレートします。実際、かつては学習させたものから導き出される結果はハッキリしていたのですが、今は何が出てくるかわからなくなっています。
そういった意味では、コントロールを超えたものが出てくる「パンドラの箱」になりつつあるかもしれません。ですから、「使わないでね」とおっしゃる先生方の気持ちもわかります。とは言え(AI利用の潮流は)止められないのでは、とも思います。
高橋 止められないし、私としてはむしろ活用できるようにしたいので、レポート提出の際はわざとAI活用前提の内容にしています。怖がっている子たちに使わせる機会を与えて、そのうえで判断させたいって考える派なんです。
結局「ツール」なので。怖がっていても、社会に浸透していくものですから、早く体験して「思ってたより良いね!」と感じてほしいのです。実際、使用させたレポートでは、「機能が高くて驚いた」「もっと早く使えばよかった」「もっと活用したい」という感想が多くなっています。
栗山 最終的に避けるにしても、使わず怖がるのではなく、使った感想として「自分には馴染まないな」と思ってほしい。
高橋 まだAI任せにはできない事項もたくさんありますし。
栗山 それを学ぶのには今が良い機会ですよね。
「常識が激変する状況」だとAIは役に立たない
―― 第170回芥川賞の受賞作品の執筆に生成AIが使われていたそうです。ただし地の文ではなく、作品内に登場するAIのセリフのみだとのこと。それでも興味深いエピソードです。
栗山 「どこまでAIが想像力を駆使できるか?」というのは1つの課題だと思います。「職を奪われるかも」と怖がる方が結構多いのですが、私は個人的に、「しょせん限界があるし、人間じゃなきゃできないことも存在する」と思っています。
たとえば「エラーを起こす」ことは人間ができる唯一の学習方法でしょう。エラーから学習していくのが人間です。「失敗からどう学ぶか?」をAIがどこまでトライできるのか、私はまだ未知数だな、と思います。
AIはすでに成功した、もしくは評価されているものを集めてきて「これが正解です」と持ってくるわけですが、逆に言えば、まさに今のような「AIの進展で完全に局面が変化する状況」においては過去の成功・評価が役に立ちませんから、AIが持ってくる正解も同様にアテになりません。
そういった際の対応力や柔軟性は、やはり人に軍配が挙がります。特に若い学生のみなさんは失敗することが許されているのですから、ぜひ挑戦してほしいですね。
高橋 そうですね! AIは「想定の範囲内でのベスト」を出そうとしますが、結局は使っている人が判断しないといけません。想定を超えることは、まだ人しかできないと思いますので、学生にはAIに答えを求めるのではなく、あくまでもツールとして接してほしいと願っています。