“誰でもすぐに使える生成AI”提供開始記念イベント「Slack AI Day」ユーザー講演レポート
Slack AIは“中間管理職”を救うか? デジ庁、ウーブン・バイ・トヨタ、NESICの期待
2024年05月02日 08時00分更新
Salesforceは、2024年4月24日、Slack AIの日本での提供開始(参考記事:Slack AIが待望の日本上陸 チャンネルの「まとめ」が毎朝届く機能も追加)を記念したイベント「Slack AI Day」を開催。「Slack AIとオートメーションが導く働き方の未来」をテーマに、ゲスト講演やユーザーパネルディスカッションが展開された。
Slack AIは、Slackにネイティブに組み込まれた生成AI機能。“誰でもすぐに使える生成AI”として、プロンプトを使用することなく、Slack上に蓄積されたデータを活用できる。
本記事では、デジタル庁(デジ庁)、NECネッツエスアイ(NESIC)およびウーブン・バイ・トヨタの3者が、Slackや生成AIの活用、そしてSlack AIへの期待を語ったユーザーパネルディスカッションの様子をお届けする。
デジタル庁:多様なメンバーのコミュニケーションと文化醸成をSlackが支える
デジタル庁からは戦略・組織グループ インナーコミュニケーションチームの小松武弘氏が登壇。同庁はまだ発足から日が浅く、各省庁や、全国の自治体、民間のデザイナーやエンジニア、PMなど、さまざまなバックグラウンド、専門性を持つメンバーで構成されている。
この多様なメンバーがプロセスを進める中で、3つの課題を抱えていたという。
ひとつ目は、官民多彩な人材が集まるため、考え方や価値観も異なり、判断や行動基準に個人差が生じること。2つ目は、人材の流動性が高く、情報共有やコミュニケーションの重要性が高かったこと。3つ目は、プロジェクトベースの横断的組織であるため、ネットワークも組織横断的なものが必要だったことだ。
小松氏は、「行動指針の浸透や具現化、情報共有の徹底、職員同士の接点の形成、全体的な方向性や仕事の役割を理解するためには、適切な情報の伝達と円滑なコミュニケーションが重要だった」と強調する。
こうした中で、階層構造がなく、外部組織とも連携しやすく、タイムリーなコミュニケーションが取れることを理由に、2023年よりSlackを本格導入。チームやプロジェクトの日常的な業務から全体の情報共有や交流、文化の形成を担っている。
「テキストでログを残し、情報をオープンにすることで、連携する取り組みの状況確認や、同じ課題を抱えるメンバーへのアドバイスが効果的に行える。互いを知り、助け合う文化を醸成できる」と小松氏。各自治体や企業との連携においても、スピード感を保ちながら、円滑にコミュニケーションできるのもSlackの大きな意義だという。
一方、Slackと他のチャットツールのどちらを利用するかで“大戦争”が起こり、どの“宗教”が正しいかという論争にまで発展して、ツールの統一は叶っていない。現状の住み分けは、行政の事務作業は他のチャットツールを利用するなど、タームごとにコミュニケーション手段やツールを提示しながら、意識統一や目線合わせ、ポリシー定義を図っている。
また、Slack AIをはじめとする生成AIの活用については、「プロンプトなどを整えた上でアプリケーションや検証環境を整備するなど、サービスにビルトインするときの設計やリスク評価まで踏み込んで伴走することで、今後のチャレンジがしやすくなる」と語り、ユースケースのまとめや技術検証を進めていく。
加えて、「生成AIは、書くだけではなく『読む』ことも得意なため、ナレッジへの依存度が高かった業務に取り入れながら、人材不足を課題とする自治体の事業継続性に貢献することを期待している」と付け加えた。
NECネッツエスアイ:Slack上で完結する生成AIボタンを100個以上開発、Slack AIが中間管理職救済に寄与することを期待
NECネッツエスアイ(NESIC)からは、ビジネスデザイン戦略本部 グループマネージャーである鈴木良太郎氏が登壇。NESICは、海底から宇宙まで(海底ケーブルから人工衛星通信まで)、コミュニケーションに関わるシステム・サービスを手掛けるシステムインテグレーターであり、Zoomのリセラーでグローバルの三指に入るなどクラウドにも注力している。
NESICでは、Slack AI登場前から、外部API連携を用いてSlackでの生成AI活用を進めてきた。Slack自体は、2019年9月に自社実践のために全社導入、その頃にはパブリックチャンネル数が1829だったのが、今では約3倍の5509個に、Slackに保存されたファイルは約129万個にのぼる。2024年の4月には満を持してSlackとリセラー契約を結んだ。
生成AIにおいてもいちはやく専門チームを編成して、Slackでの活用を模索。今では、Slackには100個以上の“生成AIと連携した専用ボタン”が搭載され、「Slack上ですべて完結させる生成AIのボタンが揃っている」と鈴木氏。ユースケースに応じた専用ボタンから指令を出すことで、バックグラウンドで最適なプロンプト制御が行われ、プロンプトエンジニアリングを必要とせずにSlack内で生成AIを活用できる仕組みだ。
ユースケースとしては、人事評価に向けてメンターのように壁打ちできるサポートツールや、課題解決の目星をつけられるロジックツリーツール、Slack上でRAGの制御を構築できる仕組みなどが生まれており、プロファイルのカスタマイズができる「Slack ATLAS」と連携することで、生成AIがキャリアアップのアドバイスをしてくれるツールも評価中だ。
このようなSlack連携の生成AI機能は、現在は月に1600回ほど利用されており、この動きを全社に拡げていくのが次の命題だという。「SlackのUIはイケているし、API制御で何でもできる。クラウドを制御するコンセプトだったが、生成AIが加わったことで、とんでもないことになってきた」と鈴木氏。
Slack AIに関しては、「Slackに蓄積した情報を使い倒すためのピースとしてはまる」と期待を寄せる。加えて、「個人的には中間管理職に最も効果を発揮するのではないか、と感じている。日本の原動力といわれる中間管理職が疲弊している中で、Slack AIが報告やマネジメントのストレスを減らし、中間管理職を活性化できる」と付け加えた。
ウーブン・バイ・トヨタ:チャットアシスタント、開発サポートで生成AI活用、Slack AIの要約機能に期待
ウーブン・バイ・トヨタからはVice President of Enterprise Technology, Globalであるジャック・ヤン氏が登壇した。トヨタ自動車の子会社であるウーブン・バイ・トヨタは、“安全で人間中心としたモビリティを人々に届ける”というミッションを基に、自動運転・運転支援のシステムやモビリティプロジェクトをテストするための街づくり、車両用OSなどを手掛ける。
同社は、生成AIの活用を2つの領域で進めている。ひとつ目は、従業員の知りたいことに回答してくれるチャットアシスタントの導入だ。「生産性はもちろん、社内の士気やムードが向上したのも生成AIのプラスの側面」とヤン氏。
2つ目がソフトウェア開発での活用で、生成AIのサポートの基に開発者がコードを書く。繰り返しのタスクやテスト工程が自動化され、ポジティブな評価を得られているという。
これまでの生成AIの活用を通じて、「現在の生成AIの成熟度を考えると、まだまだ我々は“アシスタント”として使用するべきで、生成されたコンテンツもダブルチェックが必要だというマインドセットで付き合えっていくべき」とヤン氏は指摘。
今後は、メインのコミュニケーションツールとして活用しているSlack内に蓄積された社内データを、AIによる業務の改善に活かしていくという。ヤン氏は、「Slackではあまりにも情報が多いため、カバーするのが大変だという声をよく聞く。Slack AIの要約機能などを活用することで、こういった問題が解消されることを期待している」と締めくくった。
* * *
なお、Slack AI Dayイベントにビデオ登壇したSlack CEOのデニース・ドレッサー(Denise Dresser)氏は、「Slack AIを日常業務の中で活用して、シンプルかつ快適に、より生産的になれるという充実感をぜひ体験していただきたい」とコメントしている。