プラットフォームに統合された「Zoom AI Companion」、最高製品責任者 スミタ・ハシーム氏に聞く
すでに20万社が活用、Zoomの生成AIアシスタントはどう進化していくのか
2023年12月25日 09時00分更新
Zoom Video Communications(ZVC。以下ではZoomと表記)と言えば、まずはWeb会議ツール「Zoomミーティング」やクラウドPBXサービス「Zoom Phone」を思い浮かべる方が多いはずだ。しかしZoomではすでに、チャットやホワイトボードといったその他のビジネスコミュニケーション/コラボレーションツールも提供している。これらは単一のプラットフォームを通じて統合されているのが特徴だ。
そして今年(2023年)後半には、このプラットフォームに生成AIアシスタントの「Zoom AI Companion」を統合することで、「ミーティングの要約」や「質問応答」といった強力な機能も提供し始めた。
Zoomは何を目指し、これからどんな製品や機能を提供していくのか。Zoomの最高製品責任者(CPO)であるスミタ・ハシーム氏に話を聞いた。
すべてのツールを統合するZoomプラットフォームの全体像
――まずは、Zoomが推進しているプラットフォーム戦略について教えてください。
ハシーム氏:Zoomのプラットフォームは、この数年間で非常に大きく拡張されました。現在どのようなものになっているのかは、この図を見ていただくのがわかりやすいかと思います。
まず、中心にあるのが「コアコミュニケーション」の領域です。ZoomミーティングやZoom Phoneのほかにも、チームチャット、Eメール、カレンダー、スケジューラーといったツールをラインアップしています。これらはZoomのコアとなる製品ですから、今後も継続的にイノベーションを続けていきます。
――コアコミュニケーションの領域には、われわれにもなじみ深いツールが多いですね。
ハシーム氏:そして、図の左側にあるのが「エンプロイーエクスペリエンス」領域、つまり従業員体験を高めるための領域です。具体的な狙いとしては、これからますます増えるであろうハイブリッドワークにおいて、働く場所のより柔軟な選択をサポートすることを掲げています。そのためのツールとして、たとえばチーム内で共有できるオンラインホワイトボードやノート、あるいはオフィス会議室に設置するZoom Roomsなどがあります。
ハイブリッドワークでオフィスへの出勤が不定期になると、(フリーアドレスオフィスの)どのデスクで働くかを決めて予約(ブッキング)することになります。ここでチームメンバーが出社していれば、AIが自動的にその近くの席を予約してくれるというツール(ワークスペース予約)もあります。
――たしかに、せっかく出社するならば同じチームの人どうしが近くに座るほうがいいですよね。なかなか気が利くAIです(笑)。
ハシーム氏:われわれは「従業員エンゲージメントの維持」も重視しています。ハイブリッドワークになると、チームへの帰属意識を維持し、高めることが難しくなりますから。
そこで、Zoomが最近買収した従業員コミュニケーションツールの「Workvivo(ワークビーボ)」もここに組み込んでいます。情報共有の改善や、お互いが何をやっているのかを可視化する機能を提供することで、社内のコミュニケーション活性化とエンゲージメントの維持向上につなげます。
――なるほど。それでは図の右側は。
ハシーム氏:右側は「カスタマーエクスペリエンス」、つまり顧客体験の領域です。Zoomを導入された企業が、そのお客様にサービスや製品を提供する際のエクスペリエンスを向上させるためのツール群となります。
たとえばウェビナーを行うためのZoom Webinars、大規模なオンラインイベントのためのZoom Eventsなどのツールがあります。現在ではセミナーやイベントもハイブリッド開催が多くなりましたが、これらのツールではそうした開催形式にもうまく対応できます。
コンタクトセンター向けのZoom Contact Centerはオムニチャネル対応で、たとえばお客様とのやり取りの途中で音声通話からビデオ通話に切り替えたり、チャットやメッセンジャーに切り替えたりといったことができます。AIはバーチャルエージェントだけでなく、(人間の)エージェント向け、スーパーバイザー向けの機能でも使われています。
「Revenue Accelerator」というのはセールス向けのツールです。お客様とのオンラインミーティングや通話の会話内容を分析し、セールス担当者のコーチングや評価などに役立てることができます。
カスタマーエクスペリエンスの領域でも引き続きイノベーションを起こしていくために、それぞれのツールでAI技術を取り入れたり、イベント画面が柔軟にデザインできるプロダクションスタジオを追加したりといった動きを続けています。
――図の下側には「デベロッパーエコシステム」と書かれています。
ハシーム氏:Zoomでは、デベロッパーエコシステムはオープンなものであるべきだと考えています。そこで、多数のAPIやSDKを提供して、お客様自身でワークフローの中にZoomを組み込むことを可能にしています。
さらに、さまざまなプレイヤーと共存していくというのもわれわれの考えです。Microsoft、Google、Salesforceなどと非常に良い共存関係にありますし、すでに2400もの(他社ツールとの)インテグレーションを達成しています。
すでに20万社が利用する生成AIアシスタント「Zoom AI Companion」
――ここまでのお話で、何度か「AI」というキーワードが出てきました。プラットフォームの図の上側には「Zoom AI Companion」があります。
ハシーム氏:はい、Zoomのプラットフォーム全体をカバーしているのが、Zoom AI Companionという生成AIアシスタントです。
現在、提供している生成AIの機能としては、たとえばZoomミーティングで「遅れて入ったミーティングについて質問をする(ここまでの議論の概要は、私の名前は出たか、アクションアイテムは何か、など)」「録画したミーティングにチャプターを付ける」「終了後に議事録や要約を作って参加者に送付する」といったものがあります。面白い機能としては、AIが「少し速くしゃべりすぎです」とアドバイスするというものもあります(笑)。
またチームチャットでも、大量の未読メッセージを要約してもらうことができますし、忙しいときにはチャットの返信文を書いてもらうことも可能です。Eメールでイベントやミーティングの招待状を送ることもできます。いまご紹介した機能は、すでに提供を開始しているものです。
――AIアシスタントの機能は、すでに多くのユーザーが活用しているのでしょうか。
ハシーム氏:具体的な数字でご紹介しましょう。Zoom AI Companionをローンチしたのは今年の9月5日ですが、(12月上旬時点で)すでに20万社のお客様にご利用いただいており、400万件以上のミーティングの要約を行いました。
もちろんこの取り組みはまだ始まったばかりですから、Zoomでは今後もAIアシスタントの適用範囲や機能を拡充させていきます。
――これから提供を考えている生成AIの機能として、たとえばどんなものがあるのでしょうか。
ハシーム氏:たとえば取引先とのミーティングが予定されているとしましょう。その準備のために生成AIに問い合わせると、過去数回のミーティングで話し合った内容をまとめてドキュメントにしてくれる、といった機能を考えています。
複数のLLMを同時に使い、ベストな結果を導く独自のアプローチ
――それは便利そうですね。しかし、今ではあらゆるアプリケーションが生成AIアシスタントを取り入れつつあります。何か「Zoomならでは」の特徴があるのでしょうか。
ハシーム氏:Zoomでは“フェデレーテッド(連合)アプローチ”という、特徴的なAIコンパニオンのアプローチをとっています。どういうものかというと、多数のモデル(LLM)を同時に動かし、その結果をリアルタイムに評価して、ベストなものを選んで出力するというものです。
Zoomでは現在、OpenAI、Anthropic、Meta(Llama2)と協業しており、これらのモデルにZoom自身が開発するモデルも加えて利用しています。このアプローチにより、コスト効率や品質が高く、しかもレイテンシが非常に低いAIコンパニオンを提供することができます。
こうした背景もあって、Zoomではすべての有料ライセンスのお客様に対して、追加コストなしでAIコンパニオンの機能を提供できています。ここも、AIコンパニオンにオプション料金がかかるほかのベンダーとは一線を画したアプローチですね。
――最後に、Zoomの今後のロードマップについて教えてください。
ハシーム氏:Zoomのロードマップは盛りだくさんすぎて、ちょっと紹介しきれません(笑)。たとえばZoom Contact Centerだけでも、過去18カ月間で600もの新機能をリリースしました。とにかくZoomの動きは非常に素早いのです。
ただし今後は、AI関連の製品や機能の開発には当然注力していきますし、ハイブリッド(ワークの支援)も引き続き重点分野です。それらのイノベーションのために、Zoomプラットフォーム全体を進化させていくというのが、今後のロードマップの基盤になると考えています。