ASCII Power Review 第230回
さすがプロ向けメーカーの操作性と高画質だ
フルサイズセンサーにLマウントで登場!Blackmagic「Cinema Camera 6K」実機レビュー
2023年12月19日 10時00分更新
Blackmagic Designからデジタルシネマカメラ「Cinema Camera 6K」(BMCC6K)が発売された。 同社初のフルサイズセンサー搭載機であることに加えて、Lマウントを初採用するなど話題になっている。
同社から試用機を借りることができたので、実写映像も含めて見ていこう。
後発ながらプロが認めた
Blackmagicのデジタルシネマカメラ
Blackmagic Designはもともと、ビデオキャプチャ機器や動画のカラーグレーディング(色調整)システムなどを手がけていたオーストラリアのメーカーで、デジタルシネマカメラへの参入は後発となる。
デジタルシネマカメラは映画やドラマ、CMにミュージックビデオなど、クオリティが重視される制作分野で使われる動画カメラだ。
主だったメーカーとしてはソニー、パナソニック、キヤノンなどのほか、ARRIやREDといった海外メーカーも活躍している。高品質なフォーマットで記録できたり、解像度や色域が映画の規格に対応しているのが特徴だ。
デジタルシネマカメラの中でも動画をRAWで記録できるタイプは高価な部類だったが、Blackmagic Designは2013年にRAW(Cinema DNG)で記録できるコンパクトな「Pocket Cinema Camera」を発売。10万円ほどという価格で注目を浴びた。
その後、2018年には完成度を高めた「Pocket Cinema Camera 4K」(現行品)を発売。従来機よりも大きなマイクロフォーサーズサイズのセンサーになったことで使い勝手が高まった。これも当時で16万円ほどと安価だったため大いに注目を集めた。
Blackmagic Designは、カメラ以外にもモニターや編集コントローラー、映像変換装置、ストレージなど映像機器を幅広く展開している。最近では、業務用グレードとして低価格のスイッチャーが動画配信ユーザーにヒットしているようである。
またソフトウェア製品では、プロ向けのカラーグレーディングおよび動画編集ソフト「DaVinci Resolve」が有名。無料版でもほとんどの機能が使えることから昨今ユーザーが増えている。
フルサイズセンサーの高画質に
6K撮影で編集の自由度が増す
さて、Cinema Camera 6Kだが、従来の「Blackmagic Pocket Cinema Camera 6K G2」や「同6K Pro」がAPS-Cセンサーに近いスーパー35サイズのセンサーだったため、今回は待望のフルサイズ機ということになる。
フルサイズセンサーのメリットは、大型化による画質の向上(ダイナミックレンジの拡大)や浅い被写界深度による表現の幅の広がりなどがあげられる。
最近ではプロの動画制作者もこうした大型センサー機で撮影することはよくあるし、一般のスチルカメラユーザーとしても馴染みのあるフルサイズの画角で撮影できるのはありがたいところだ。
また、最大6Kの解像度に対応しているのもポイント。6K動画はそのまま利用するというよりは、4Kサイズに仕上げる際にトリミング可能な余裕が生まれるのがメリットだ。また編集ソフトでの手ブレ補正で削られる部分をカバーでき、画質劣化を抑えられる。
センサーサイズは36×24mmで、スチルカメラと同じアスペクト比の3:2となっている。
撮影時の解像度はいくつか選べるが、「オープンゲート」と呼ばれるセンサー全面を使う撮影時は6,048×4,032の6K解像度のみとなる。ほかに「4K DCI」(C4K)や「HD」(フルHD)もあるが、解像度が低くなるほど撮影領域がクロップされていく。
つまり、一般的な動画である16:9にするにはオープンゲートや「6K DCI」で撮影し、編集でクロップとリサイズをすれば、フルサイズ本来の画角が活かせることになる。
また、オープンゲートの優位点として、高度な使い方になるがアナモフィックレンズと組み合わせて高画質な映像を得るという部分もある。
オープンゲートでは最高36p
「6K 2.4:1」および「4K DCI」で最高60p 「HD」で最高120pが可能
ダイナミックレンジ(ルック)は「Video」「Extended Video」「Film」の3種類。Videoは一般的なビデオガンマ。Extended Videoはシネマ風の絵になる独自のモード。Filmは他社で言うLogガンマだ。
一方、解像度によって最大フレームレートも変わる。オープンゲートでは最大36p、「6K 2.4:1」および「4K DCI」で最大60p、「HD」で最大120pなどとなる。
フレームレートが高いほど滑らかな映像になるが、クリエイティブな動画制作分野では綺麗なスローモーションを得るための「ハイスピード撮影」に有利という側面が強い。
映画などの24p再生で考えると、36pは1.5倍のスローであまりスローの効果は出ない。60pだと2.5倍のスローで良い感じに効果が出る。120pだと5倍のスローで、本格的なスローモーションになるというイメージだ。そう考えると、オープンゲートで60pが撮れると使い勝手はさらに良かったところではある。
下の作例は「6K 2.4:1」モードで60pキャプチャ、24p再生の2.5倍スローモンションを本体で記録し、DaVinci ResolveでUHDに書き出したもの。走る車や歩く人などが適度なスローモーションになって、印象的な表現になった。
感度はISO100-25600と十分な広さがある。基準感度がISO400とISO3200の2つある「デュアルゲインISO」に対応しているので、一般的なシングルゲインタイプに比べて高感度に強い。
ISO1000とISO1250で基準感度が切り替わるので、ISO1000のケースなら少し絞ってISO1250にあげた方がノイズが少なくなることになる。また、暗い場所ではISO3200前後を積極的に使えるのがありがたい。
上の作例は車のシーンがISO4000、横断歩道のシーンがISO6400だが、高感度を感じないノイズの少なさだ。
シグマにライカ、パナソニックと
豊富なLマウントレンズが使える
Cinema Camera 6KのレンズマウントはLマウントだ。同社はLマウントアライアンスに加盟しており、正式な対応ということだ。Lマウントレンズはシグマ、パナソニック、ライカなどから出ており、AFレンズであればワンショットのみとなるがAFが可能だ。
AFは本体のAFボタンを押すか、モニターの任意の場所を長押しするとそこにピントが合う。このワンショットAFは現代のミラーレスカメラのように一瞬で合焦する感じでは無く、以前のコントラストAF機のように少々ゆっくり合うイメージだ。録画前にあらかじめ合わせておくときには使えるが、録画中には使いづらい。
コンティニュアスAFや被写体認識機能は無いので、実質的にはマニュアルフォーカスが基本のカメラと言って良いと思う。その助けとしてピント位置の強調表示があり、これが結構鮮明でわかりやすかった。
Lマウントカメラ用には、様々なマウントアダプターが出ており、ニコンFマウントやキヤノンEFマウントなどこれまで動画分野でもよく使われていたレンズを使うことができる。
実質マニュアルフォーカスのカメラなので、ヤシカ/コンタックスやM42などオールドレンズで撮影するのも面白そうである。もちろんその際、それらのレンズの画角であるフルサイズで撮れるというのがポイントだろう。
コーデックは「Blackmagic RAW」のみ
H.264のフルHDを同時記録
コーデックは従来モデルにはあったApple ProResが廃止され、Blackmagic RAWに一本化された。ProResは映像業界では広く使われているフォーマットなだけに省略されたのは意外だ。
なお、プロキシファイルとしてH.264のフルHDファイルが同時に記録される。これは仮編集用のファイルだ。
Blackmagic RAWはRAWなのだが、実際に使ってみるとハンドリングでは一般的なH.264などのファイルとあまり変わりはなく、DaVinci Resolveでの読み込みやカット編集も割とサクサク行える。
RAWと聞いてイメージする動作のモッサリ感はあまりないので、そこそこのスペックのPCがあればその点は安心していいと思う。またプロキシファイルで編集を進めればかなり快適だ。
コーデックの品質は「固定ビットレート」と「固定クォリティ」(可変ビットレート)があり、それぞれ圧縮のレベルが選べる。
ファイルサイズを最も小さくできるのは固定ビットレートで「12:1」の圧縮に設定した場合になると思うが、画質面ではこれでも十分すぎるくらい綺麗だ。今回の作例も全て固定ビットレートの12:1モードで撮っている。
Blackmagic RAWは16bitと色深度も深く、同社最新となる第5世代のカラーサイエンス(色再現技術)を採用している。元データの情報量が多いので、カラーグレーディングを経ても画質劣化が少ない。
ただ、H.264などに比べるとBlackmagic RAWのファイルサイズは大きめだ。「4K DCI」(30p、固定ビットレート 12:1)で34.1MB/s、6Kのオープンゲートモードだと同じ条件で92.7MB/sにもなる。そのため編集用のストレージは大きめのものを用意しておきたいところだ。
下の作例はオープンゲート(30p)で撮影し、元画像とグレーディング後を比較できるようにした(最初のシーンのみ、各ダイナミックレンジの比較を入れた)。今回はダイナミックレンジが大きいということと、全体的に暗いであろう夜景を選んでいる。グレーディングを前提に少し暗めに撮って、明るく編集した。こちらもUHDサイズにリサイズして書き出している。
DaVinci Resolveでのグレーディングでかなりの露出アップや大胆な色の変更を行っても、破綻が見られないのはさすがRAWの実力だ。
ハイライトも自然に見えるし、シャドーのディテールも残っていて表に出てくれるのも強みだ。最後のカットはDaVinci Resolveに最初から入っているLUT「Film Looks」の1つを適用した。こうした感じで簡単に雰囲気のある映像にできる。
そして、フルサイズセンサーなので、全体的にノイズも少なめ。最初のシーンなど露出をかなり上げた際にノイズは見られるものの、嫌な感じではなく、そのままでも使える印象だ。
今回はDaVinci Resolve有料版にあるノイズリダクションを試したカットを最初の比較のところで入れているが、綺麗にノイズを消せた。
CFexpress Type Bに加え
外付けSSDに直接記録可能
容量と言えば記録メディアだが、本機はCFexpress Type Bのシングルスロットである。従来機はCFastとSDカードのダブルスロットだったが、CFastは採用するカメラが減っているので、次世代メディアとして各社で採用が進むCFexpress Type Bが採用されたのは歓迎できる。
ただ、SDカードは普及しているメディアであるし、従来の様にUHS-II対応スロットであれば4K程度のビットレートでの記録はできたので、残しておいても良かったのではという気もする。
一方で、USB Type-C接続の外付けSSDが使用可能だ。ケーブルで接続するだけで内蔵メディアと同じ感覚で使える。CFexpress Type Bも値段は下がりつつあるが、枚数を用意するとそれなりの出費になる。その点、外付けSSDは容量当たりの単価が圧倒的に安い。SSDをPCにつなぎ替えてすぐに編集できるメリットも大きい。
同社では動作確認済みのSSDリストを公開しているので、安定性を気にする場合はそこに記載のあるモデルを買うと良いだろう。
5型の大きなモニターが見やすい
シネマのためのメニュー構成は秀逸
Cinema Camera 6Kのボディは「ちょっと大きめのミラーレスカメラ」といったイメージで、大きめのグリップと前後の滑り止めがあるのでホールド感は良い。
外装は「カーボンファイバー・ポリカーボネート製」ということだが、樹脂ボディなので高級感といったものは感じられない。軽量化には寄与していると思うので実用本位の選択なのだろう。見た目ほど重くは感じない。
カメラで言うシャッターボタンの位置には「録画開始ボタン」がある。その脇には一応スチルの撮影ボタンが存在し、1フレームのBlackmagic RAWで静止画を記録できる。
「一応」というのは、撮った瞬間に小さなアイコンが一瞬出るだけなので撮れたか不安になる(音も出ない)のに加えて、本体でスチルのファイルは再生できないからだ。DaVinci Resolveで現像してJPEGなどに変換できるのだが、スチル機能はおまけと考えた方が良く、デジカメ並の写真機能を兼ねるということは期待しないほうがいいだろう。
ミラーレスカメラの多くは発熱による録画の停止が問題になっているが、本機は冷却ファンを内蔵しており気温40℃までならストップせずに録画を続けられるとアナウンスされている。
今回、外付けSSDを接続しオープンゲートで1時間の録画をテストしたところ、停止することは無かった。長回しができるという点は大きな安心ポイントになる。
背面モニターは5型と大きめ。ミラーレスカメラから見るとずいぶん大きく感じる。そして明るさも申し分なく、チルトもできるので視認性は高い。表面はグレアタイプなのでそれなりに反射はある。
タッチパネルなので、シャッター速度や絞り値などもその場所をタップすると値を変更可能だ。白飛びを警告するゼブラ表示や露出を色分けして表示するフォルスカラーなど、動画カメラとしてのサポート機能は充実している。
Blackmagic Designのカメラの使いやすさとしてよく挙げられるのがメニューのUIだ。
ミラーレスカメラによくある静止画と動画が渾然一体となってしまった複雑なメニューに比べると、シンプルなタブ式の表示で設定がとてもしやすい(動画のみの設定なので項目が少ないというのはあるが)。
加えて、画面UIの操作に対する反応が俊敏なのも評価したいところ。ある部分を押すと次の画面がすぐに出てくるのが気持ちよい。ヒストグラムの動きも追従が速く滑らかなのがいい。
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