【OVER THE SUN 出張対談・前編】ジェーン・スー×堀井美香/40・50代になったら「私には何もない」なんて思う必要はない

文●竹林和奈・高尾真知子 イラスト/塩川いづみ

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 人生100年時代といわれる昨今、自分らしい働き方や暮らし方を模索する女性たちが増えている。そんな女性たちに役立つ情報を発信するムック『brand new ME! ブランニューミー 40代・50代から選ぶ新しい生き方BOOK vol.1』(KADOKAWA刊)から抜粋してお届けしているインタビューシリーズ。今回は、人気ポッドキャスト番組「OVER THE SUN 」(TBSラジオ)の堀井美香さんとジェーン・スーさんにライフシフトについて語っていただいた。

人生100年時代。これからの生き方について、お二人にお聞きした(イラスト・塩川いづみさん)

「輝かなきゃ」とプレッシャーに感じるのは良くない

――スーさんは文筆業を始めたきっかけがmixiで綴っていた日記とのことですが、元々仕事につなげたいと思って書いていたのですか?

ジェーン・スー(以下、スー)いえいえ。これで食べていけるとは思ってなかったです。“いつのまにか仕事になった”って感じで、明確な安心感はいまだにないです。別に不安があるってわけでも、もちろんないです。こうやってお仕事をいただける間はやっていけるって感じで、「もう安泰でしょ」みたいなものもないんですよね、全然。

――堀井さんはフリーになられるときにご家族の反対はなかったですか?

堀井美香(以下、堀井) あ、家族は私のことに全然興味がないので、特に誰も……ほぉ、へぇーみたいな反応でしたね。ずっとアナウンサーという仕事をしてきて、何かやれば“良かったね”“悪かったね”と言われる仕事をしてきているので、誰からも気づかれないとか、何もリアクションがないっていうことになったら、「私なんて……」って家の中に閉じこもって「もういいか……」となってしまう悪い想像もしてたので、その不安はすごくありました。

スー この先どうなるかっていう不安?

堀井 うん、そうですね。日本はまだ出ていく人に対してそんなに寛容ではないので、今までやってた仕事を全部持って行っていいですよってわけじゃないから、退職を前に若干の不安がこう押し寄せて。ただ、自分なりの生活レベルを維持するのにそんなにお金がかからないことはわかっていたので、いざとなればいろんな働き方があるかなと思っていました。

スー 「週3回くらいしか仕事が入ってこないかもしれないから……」みたいなこと言ってたもんね、独立する前は。

堀井  そうそう。配送とかコンビニとかいろんな仕事もやってみたいなって娘に話したら「いやいや、お母さんがやりたくても先方に迷惑がかからないように、そこはちゃんと選んだ方がいいよ。コンビニのレジ打ちとか難しいからね」って言われて。

スー  足手まといになるからね!

堀井  当時は本気でどんな仕事でもできると思っていたんですよ。

――仕事の幅が広がって、新たな仕事が始まる時はどんなお気持ちですか?

スー ワクワクとかはないですね。多分、仕事に対しての期待値がそんなに大きくない。よく思うんですけど、仕事とか自分の人生に対する向き合い方って人によって千差万別。堀井さんと私だって違うと思うんです。ただ我々が似ているところがあるとすれば、仕事によって自己拡張をしたりとか、自分がなんか小さくなったりっていう……情緒に振り回されるのではなくて、ひたすらちゃんとタスクをやっていくことに矜持を持っているところかな。仕事が変化したからって「輝かなきゃ」と思い込んでプレッシャーになるのは本当に良くない。それは若い人もそうだし、更年期の女性もそう。今の生活にそんなに不満があるわけでもないのに、「何か新しいものを見つけて輝けない自分がダメだ」みたいな、自罰的な状態になるのは本当に意味がないです。やってみたいことがあるなら年齢や経験不足を理由にせずにトライしてみたらいいし、私ならトライしたいと思うけど、今の生活に十分満足して不満がないのであれば、そんなに自分で追い立てる必要はないんじゃないかなと思う。

――「無理に輝かなくていい」というのは変に気負わなくて済みますね。

スー   自分に無理を強いることが一番健康に良くないなと思っていて。だけど、同じように「自分はこのままでいいはずだ」「幸せだ」と思い込むっていう無理もありますから。自己評価や自分のやってきたことに自身がどういうふうに向き合えているかによって、次の世界に飛び込む勢いも変わってくる。どうしたら勢いよく飛び込めるのかって言ったら、勇気があるとかないとかじゃなくて、自分自身をどういうふうに捉えてるかっていう、そこからの堀り下げの話になると思うんですけど。

自分の不足を埋めるためではなく「やりたいからやる」

――まず、自分を見つめることですね。

スー  そうですね。本当にやりたいことがあるのかもそうですし、自分のことを高く見積もったり、低く見積もりすぎたりしてないかとか。向き合うとちょっとイタタタタってなるところに向き合ってからじゃないと、新しいことを始めても多分うまくいかないし、楽しくないとも思います。

――堀井さんはその部分はクリアして次のステージに?

堀井 私はなんかここのステージはもう満杯であふれ出しそうっていう感覚があったので外に出たんですけど。スーさんが言っているように、人それぞれの生き方とか、充電のパーセンテージとか全然違うと思うんです。

スー そうそう!

堀井 この歳になったら、みんなある程度自分を誇っていいというか。

スー うん、そうね。やってきた自分を認めたほうがいいよね。

堀井 多分「私、50になっても平凡な仕事ばかりで何にもない」とか言っても、絶対何かあるし。それを持続してやっていくのか、新しいことにチャレンジするのかはその人のタイミングとか、エネルギーにもよると思うけど。40・50代以上はもう何も卑下しなくていいし、自分をマイナスに捉えて「私には何もない」なんて思う必要もない。

スー 足りないところをシフトチェンジすることで埋めようとしても、そこは絶対にうまくいかない。それよりは自分自身とちゃんと向き合って、自分の捉え直しっていうのをして、やりたいことがあるんだったらやる。それは自分の不足を埋めることでも嵩増しすることでもなく、「自分がやりたいからやる」っていうふうに捉え直したほうがいいんじゃないかな。10代前半とか20代後半とかの〝彼氏がいい車を持っていると自分も価値が上がった気がする〟みたいなことをもうこの年になってやらない方が良いのでは……ってことですね。読者の方はこういう話がちゃんと伝わる世代だと思うんで(笑)。

※「後編」に続きます。

TBSラジオ『ジェーン・スーと堀井美香の「OVER THE SUN 」』/毎週金曜日の夕方5時に新作配信。#overthesun

Profile:堀井美香

ほりい・みか/1972年、秋田県生まれ。大学卒業後の1995年にTBSに入社し、2022年3月に退社。現在はフリーアナウンサーとして活躍中。近著に『一旦、退社。~50歳からの独立日記』(大和書房)がある。

Profile:ジェーン・スー

1973年、東京都生まれ。作詞家、コラムニスト、ラジオパーソナリティ。『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』(幻冬舎)で講談社エッセイ賞を受賞。近著『闘いの庭 咲く女 彼女がそこにいる理由』(文藝春秋)のほか著書多数。

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