データをつなげることで、次の世界が開ける せこいヤツは負ける
ラスト10分の田中氏との対談もユニークな島田節がポンポン飛び出した。
田中氏は、「量子コンピューティングが電力を使わないというのを初めて知った人は会場にも多いと思う。なぜ量子は電力を使わないのか?と聞くと、島田氏は、「『重ね合わせ現象』ということで、一つ一つのディスクリートの情報を電子で溜めていく。しかも大量に溜めていくのではなく、1つのキュービットの中に大量の情報を持つことができる。しかも、それが最適化計算をする際に答えが低いところ、エネルギーが低いところに落ちていくような物理現象で計算している。こうしたさまざまな理由から消費電力の低減が図れる」と説明。ビジネスイベントとは思えない専門性の高い答えに、田中氏は「要は電力を使わずに結果を出せると言うことなんですね」とまとめる。
さらに島田氏は「デジタルの方が実は異様。全部0と1に置き換えて、それを力業で計算する。これによって人類は進歩を遂げたのですが、量子コンピューターってアナログなんです。物理量で物理的に計算する。人間を始め、ほとんどの生物は量子的な力で存在しているのに、われわれとよほど違うデジタルがここまで拡がっていてしまい、これが非効率なんです」とコメントする。
東芝としては2030年には、日本の1000万人くらいの人口が知らないうちに量子コンピューティングの恩恵を受けられるようにしたいと目標を定めている。「Web会議システムで絶対通信できないモードをオンにすると、量子通信が利用できるとか、こういったサービスとして提供したい」(島田氏)。この2030年というバックキャストが引かれたことで、量子学会の学者は今や猛烈な勢いで研究開発と実用化を進めているとのこと。「癌の検知に使う量子センサーを研究している先生は、臨床試験などを通すことを考えれば、来年には完成させなければならないと話していました」(島田氏)。センサー、通信、量子インスパイヤードなどの領域に加え、前述した量子AIという分野では、量子技術を用いてAIの学習を進めていくという。
島田氏は、「量子の分野はいわばトランジスターがまだできたばかりという状態。でも、当社が世界を席巻した1MBのDRAMから世界が変わったように、(量子で日本が)再びリードできるという話は、非常に面白い話。まだ量子はできあがっているモノがなにもない。日本はできあがったものを追いかけるのはもうやめた方がいい。できてないものに挑戦してこそ、初めて世の中にインパクトを与えることができる。だってチャレンジした方が面白いですよね」とコメント。
その上で、「量子は面白いけど、データがなければただのハコ。データは囲っていて、みんなが使えなかったら、なんの意味もない。だから、われわれが今やるべきは、つながった方がよいデータをいかにつなげていくか。データがつながる世界ができることで、初めて次の世界が開けていく。いかにデータをつながるようにできるのか、改革していくことが、われわれが再び世界で存在感を示すために重要なポイント。せこいヤツは負けます。絶対にせこくなってはならないです」と聴衆にアピールした。
意思決定の最前線をテーマに5つのストーリーを受け止めた田中氏。最後、データ活用を促進する新たな施設「DATA EMPOWERMENT BASE」の開設を予告し、基調講演を終えた。