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スマートキャンプとマネーフォワードiが勉強会を開催

1社あたりのSaaSは10個以下が7割 「SaaS業界レポート」から学べる最新トレンド

2023年10月25日 09時00分更新

文● 大谷イビサ 編集●ASCII

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 2023年10月18日、スマートキャンプとマネーフォワードiはSaaSの利用動向に関する勉強会を開催した。前半はスマートキャンプが最新の「SaaS業界レポート」を用いてSaaS市場の概要について、後半はSaaS管理のサービス「マネーフォワードAdmina」を手がけるマネーフォワードiがスタートアップでのSaaS管理についてそれぞれ説明した。

スマートキャンプ 取締役執行役員COO 阿部 慎平氏

SaaSの最新動向がわかる「SaaS業界レポート」 サービスは1500以上へ

 スマートキャンプの「SaaS業界レポート」は、SaaS活用の促進やビジネスの発展を目的として、国内外のSaaS業界の概況をまとめており、今年で7年目。10月3日に公開された2023年度版のレポートでは、市場規模、カオスマップ、トレンド、マーケット動向、ビジネストレンドなどがレポートされており、特集として「生成AI」と「中小企業」を取り上げている。

 まず日本のSaaS市場の規模としては、年平均11.7%という成長で拡大し、2027年には2兆円を超える見込みとなっている(富士キメラ総研調べ)。2022年~2027年度ではSaaS比率が73.1%になっているのに対し、パッケージは26.9%まで減少している。ソフトウェアの提供形態としてはすっかり定着したと言える。

 スマートキャンプが実施したアンケートを見ると、SaaSの導入率は全国平均で34%。関東は45%、近畿は33%だが、その他の地域は30%を切っており、地域差があるのが面白い。また、1社あたりのSaaSの利用数は、1~5個がもっとも多く、6~10個を合わせると、10個以下が全体の4/3を占めるという。ちなみにIDaaSを提供するOktaの顧客データを見ると、1顧客あたりの利用アプリ数は89個とのことで、大企業だと平均で211種類になるという。調査によって数字が大きく異なるというのも事実だ。

SaaS導入率は全国で34%だが、地域で差が生じている

 次にSaaS業界レポートの売りとも言えるカオスマップについては、業種向けのホリゾンタルSaaSに加え、新たに業界向けのバーティカルSaaSのカオスマップが新設された。製造、物流、建設、不動産、小売・外食、レジャー、人材、医療・製薬、教育・福祉、行政など350近いサービスが追加され、全体でのサービス数は1500以上になった。

 領域別のトレンドとしては、帳票や契約の分野で新サービスが相次ぐバックオフィス、伸長著しいマーケティング&セールス、人材管理や育成のニーズの高いHR、情報共有のコラボレーションの分野でサービス数が増加したという。「セールステックに関しては、すでに外資のツールが導入されているが、現場でいじれる使い勝手のよいツールも出てきた」と阿部氏は語る。

 昨今の大きなトレンドとしては、人的資本の情報開示、インボイス制度、電子保存の義務化、そして2024年問題の引き金ともなる時間外労働の上限規制の猶予期間終了など法改正が目白押しだったこと。この影響で、給与、財務会計、人事が大きく増加。「こうした法改正はSaaSの導入意向に大きな影響を与える」という。また、内製化志向の高まりでローコード開発や生成AIの活用も増えているという。

おもな制度変更と法改正

料金改定やM&A相次ぐSaaS 生成AIの導入も一気に進む

 次にSaaSのマーケット動向も披露された。2022年におけるSaaS企業の調達額は前年度を大きく上回り、2000億円を超えた。ただし、1社あたりの調達額は落ちており、選択と集中が始まっている状況だ。

 一方、2023年の上半期は前年同期を下回る進捗。ランキングとしては、製造業向けの受発注プラットフォーム「CADDi」を展開するキャディが88.9億円、「バクラク請求書」などを手がけるLayerXが81.5億円、法人カードのUPSIDERが80億円を調達している。

 また、2022年からは政府の「スタートアップ育成5カ年計画」がスタートし、投資額を5年で10倍にする目標が掲げられている。金融機関による支援の増加とあいまって、スタートアップは立ち上げやすい環境になっている。

 ストック型のマネタイズモデルであるSaaSは、1年分のMRR(月額経常利益)であるARR(年間経常利益)が成長率の指標となる。今回の調査ではARRの中央値は65億円で、成長率は27%。ARR100億円を超えるのは、OBC、ラクス、Sansan、サイボウズ、freee、マネーフォワード、インフォマートなど。また、freee、マネーフォワード、Chatwork、スマレジなどは値上げを発表しており、LTV(顧客生涯価値)の最大化を目指している。

SaaS企業のARRと成長率

 さらにSaaSビジネスの成長ステップとして行なうM&Aも好調で、今年はChatworkが人事のミナジンを、Sansanがアンケートのクリエイティブサーベイを、freeeがストレージのSweeepをそれぞれグループ化している。

 勉強会では、特集となった生成AIについても言及され、マイクロソフト、グーグル、セールスフォース、アドビなどビッグテックカンパニーの動向や、国内SaaSでの活用も紹介された。コミュニケーション、バックオフィス、情報分析、営業・マーケティングなどで今後も活用が拡がるとみられる。

SaaSの数を聞いて、答えられたのは100社中5社だけ

 後半は「スタートアップの成長を助けるSaaSの活用とマネジメント」と題して、SaaS管理のプラットフォーム「マネーフォワードAdmina」を手がけるマネーフォワードiの今井義人氏が登壇した。

 まずスタートアップにとっては、少ない人員で業務を行なうためにSaaSの活用は当たり前となっている。「SaaSはベストプラクティスの塊。スタートアップはSaaSで立ち上げるもの」ということで、創設間もなく従業員数よりも多い30~40くらいのツールが導入されることも一般的だ。

従業員よりSaaSの数が多いスタートアップ

 一方で、管理する人はほとんどおらず、1人情シスや兼任がほとんど。「社長がPCをセットアップしている会社もよくある」とのこと。事業スピードが命となるスタートアップでは、SaaSの棚卸しや管理が後手後手に回ることが多い。また、セキュリティが後回しになり、退職者のアカウントが放置されたり、情報漏えいのリスクにつながることも多いという。「そもそもSaaSの数を聞くこと自体が酷な質問。今まで答えられたのは100社中5社だけだった」と今井氏は語る。

 加えて、前述した通り、SaaSの料金は上がっており、使わないSaaSを放置すると無駄なコストが発生してしまう。そして、SaaSは進化が著しい。2年前、ホワイトボードツールはMiroしかなかったが、今ではMicrosoft 365でも、Google Workspaceでも、Zoomでも、Canvaでも似たような機能は使える。こうした点からもSaaSの棚卸しは重要だという。北米だと、導入しているSaaSには新陳代謝があり、攻めのSaaSとして新規に追加される一方、守りのSaaSとして継続利用されるもの、そして利用停止するものもあるという。

 今井氏は、エンゲージメントを向上させ、少ない人数で高い効果を上げるためのSaaS管理はスタートアップにとって成長の鍵だと指摘する。そのために情報は分散させずに1箇所に集約し、SaaSやデバイスの管理と自動化にはなるべく早く着手する必要があるという。その点、Adminaは50ID以下は全機能無料となっており、スタートアップにやさしい。また、AIによって知りたいSaaSの情報やアカウントの削除を容易に行なえる。「2人目の情シスにAIを」と今井氏はアピールした。

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