『北欧、暮らしの道具店』店長・佐藤友子さん/「守破離」の精神で成長してきた30代・40代

文●竹林和奈 撮影●奥西淳二

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 人生100年時代といわれる昨今、自分らしい働き方や暮らし方を模索する女性たちが増えている。そんな女性たちに役立つ情報を発信するムック『brand new ME! ブランニューミー 40代・50代から選ぶ新しい生き方BOOK vol.1』(KADOKAWA刊)から抜粋してお届けするインタビューシリーズ。今回は、圧倒的な支持を集めているECサイト『北欧、暮らしの道具店』店長の佐藤友子さんに、30代・40代で変化してきた自身の働き方について伺った。

クラシコムのオフィスがある国立駅は、桜並木の大学通りを中心に賑わうも、みどり豊かで落ち着いた街並み。風通しの良い社風と国立の街並みがマッチしており、何度かオフィスを移転しているものの、全て国立市内というのも頷ける。

「今の自分もそんなに悪くない」と感じられるコンテンツを

「私たちは、ECサイトのショップ、読み物、ドラマや映画、YouTube、SNS、ポッドキャストなどさまざまなコンテンツを制作しているのですが、コンテンツ制作をする上で、どの媒体であっても“こう見せたい”というのは本当にないんです。ただ、“こう感じてほしい”という思いは強くあります。お客様がうちの商品やコンテンツに触れたとき、“今の自分でいいんだ”ではなくて、“今の自分もそんなに悪くない”って感じてほしいんです。そして、あと少しだけチャレンジしたら人生豊かになれそうって思ってもらえたらいいですね。そんなささやかな光をお客様と一緒に見つけていくパートナーのような存在になれたらと思ってコンテンツ制作をしています」

 ユーザーのリピート率が高い「北欧、暮らしの道具店」。SNS等でバズりを狙った一過性の人気ではなく、どのコンテンツでも同じ世界観を伝え続けることが、長年寄り添ってくれているファンを大切にすることにもつながっているようだ。

 「本当にバズりにくいんですよ(笑)。バズることを目的としたら作り方も変わると思うのですが、お客様が『ザワザワしない』『びっくりしない』『自分が責められている感じがしない』という受け手の感覚値的なものを大事にしています。私たちとユーザーの関係値を育てていくコミュニケーションとしてやっていることですから、一方的にブワーッと喋られると疲れてしまいますよね。お客様が相槌を打ったり、ちょっと質問を入れたり、おしゃべりを投げかけたりしたくなるような余地があることがとても大事。発信を通して、話したくなるかどうか、話が通じそうな相手だと思ってもらえるかどうかに主軸を置いています」

北欧食器を取り扱うECサイトからスタートした『北欧、暮らしの道具店』。現在はショップのほか読み物、ドラマや映画、YouTube、SNS、ポッドキャストなどさまざまなコンテンツが集う“ライフカルチャー・プラットフォーム”となっている。

ゼロからのスタート。自己流を封印し身につくまで勉強した

 兄であり現在のクラシコム代表を務める青木耕平さんと共に会社を立ち上げるまでは、人の上に立ったこともなければ、雑誌作りや広告などに携わったこともなかったという佐藤さん。全てがゼロスタートであったことから、ビジネスにおける自身の成長を語るうえでは「守破離」の考え方がしっくりくるのだそう。

「私の30代は徹底的に『守』でした。マネジメントや経営が何たるかもわからなかったので、兄の真似をして必死に学びました。実務面でもメディアとは? 編集とは? ECサイトとは? とわからないことだらけだったので、とにかく勉強してセオリーを学びました。もちろん失敗もたくさんして、トライアンドエラーの毎日。だけど、独創性を出すのはセオリーが身についてからでいいと思って、あえて自己流を出さないように意識しました。だから面白くはないし、ちょっと苦しくもあったのですが、あの時間は必要でしたね。最初から自分の色を押し出していたら違った未来になっていたと思います。少しずつ会社でも人を増やしたりしていく時期だったのですが、私自身が35歳で出産して、働き方にも変化がありました。自分ではコントロールできない範囲のことが増えて翻弄されていましたね。出産はちょうど震災の年だったので、会社も打撃を受けて、運営が危ぶまれるような時期もありましたが、振り返ると一番記憶がないので、会社の変化と初めての育児に震災が重なって、本当に必死だったんだと思います」

 怒涛の30代を乗り越え、40代は少しずつ殻を破って挑戦する「破」→「離」の時代に。

「企業に向けたビジネスを始めたり、プライベートブランドを立ち上げたり、音声や映像などのメディア化も進みました。40代に入ってから領域がグッと広がったので、私としては40代の方が面白いですね。体力的に大変なことは多いけど、昔の苦しさに比べたらやりがいが増した気がします。実は、今はまた『守破離』の『守』に戻っている時期なんです。自分よりも一つ先を行く先輩世代の方々へのアプローチを考えていて、私自身がまだ未経験で想像の域を出ないので、その世代の方々とお話しする機会を増やして、何があるとうれしいのか、洋服ならどんな配慮があると喜んでいただけるのかを教えていただいています。映画を見ても、街を歩いていても、電車に乗っていても、思わずその世代の方に目が留まります。ついつい、靴のヒールやバッグの形などをチェックしてしまいますが、こういったことも含めて全てが勉強=『守』の時期ですね」

31歳の頃の佐藤さんは「10年後は社員10人くらいの会社になっていたらいいな」と友人に話していたという。40代後半のいま会社のメンバーは89名になっている。

顧客も社員も自分も。同じ世界の中で笑顔でいたい

 31歳の頃、佐藤さんは「10年後は社員10人くらいの会社になっていたらいいな」と友人に話したそう。だが、その夢はより大きな景色となって実現。2023年7月現在、従業員数は89名となっている。さて、これから10年後の未来予想図はどんなものになるだろうか。

「17年間かけてお客様と繋がれている“土台”を作ってこられたのだとしたら、自分が動ける元気なうちにもう少しリアルな展開……ホテルなどもいいかなと思いますし、より広がっていく世界を作ることに、自分の身を投じていきたいですね。小売としての本業は任せていける人が育っているので、これまで触れてこなかった領域にトライアンドエラーをして、あっという間に60歳……みたいなのが理想ですね。今になって感じるのは、商品が売れるという喜びも確かにあるのですけど、健やかなチームが自分の近くにあって、そこに自分も参加できて貢献できているという状態、生態系みたいなものを作るというのが、実は私がやりたかったことなんだということ。自分が立ち上げた会社ですけれど、立場などは関係なくて、今もその仲間に入れてもらって、社員のみんなが笑顔でいるのがうれしいんです。私の場合は、その景色がお客様まで地続きなんですよね。社員の笑顔の向こうにお客様の笑顔が見えている。イベントでお会いした方、リスナーの方、まだお会いしたことのないお客様まで。その広さは無限だと感じています」

週末は家中の花を生け替え、心を満たす時間を過ごす

 多忙な毎日を送っている佐藤さんも、週末には家中の花を生け替えて、ピラティスで体をメンテナンスし、エンタメ作品に触れて心身のリフレッシュをはかっているそう。

「仕事では企画を考えてばかりなので“からっから”みたいになってしまって(笑)、韓国ドラマや古い映画を見るとジワ〜と潤っていくのがわかるんです。そして、ちょっとした感想を書くことで心が満たされていきます」

 心を満たす、お気に入りはほかにも。

「銀色夏生さんの日記は人生の愛読書。20代から今に至るまで読むたびに“いいこと言ってくれるなぁ〜”って思っています。夏生さんのお子さんが赤ちゃんの時から立派な大人になるまで読んでいるので、もう一緒に生きていると思える感じです。すごく生きづらいと思っていた20代の頃、夏生さんの言葉に何度も救われていました。仕事に直結しているわけではないけど、人生で大きな影響を受けましたね。あと、料理家の高山なおみさんの人生も文章を通して見つめてきました。住む場所をドラスティックに変えるとか、家族から離れて一人になるとか、心の声に従って幾つになってもその気持ちが訪れたら行動していく人もいるんだなと。すごく格好いいのに少女のような佇まいで、きっと彼女のような人は違和感を放っておかない、そのたびに自分に向き合ってこられたからこそ、澱まずにいられるのかなと思う。私自身はまだ先のことはわからないけど、高山さんのことはすごく追いかけてしまいますね」

これからの事業の展望として、「現在の小売業を大事にしながら、もう少しリアルな展開……ホテルなどもいいかなと思っています」と語る佐藤さん。

Profile:佐藤友子

さとう・ともこ/株式会社クラシコム取締役、「北欧、暮らしの道具店」店長。1975年、神奈川県生まれ。 インテリアコーディネートの仕事を経て、2006年に兄の青木耕平氏とクラシコムを創業し、2007年「北欧、暮らしの道具店」を開店。店長として 商品やコンテンツの統括を行うほか、映画『青葉家のテーブル』などのオリジナルドラマではエグゼクティブプロデューサーを務める。パーソナリティを務めるポッドキャスト番組「チャポンと行こう!」は再生回数1200 万超の人気番組に。『日経WOMAN』が主催する「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2023」大賞を受賞。

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