「kintone hive 2023 matsuyama」の2番手は、住野工業 執行役員 経理部部長を務める吉田史哉氏が登壇。「経理部の3つの取組事例とkintoneの可能性」と題して、経理の課題を解決するためのkintone導入について講演した。
増え続ける紙のファイルをなんとかしたい
住野工業は広島県広島市に本社を置く金属部品メーカー。設立は1906年と長い歴史を持つ。自動車向けに、さまざまな形状のプレス精密小物を製造している。国内4拠点、海外2拠点を展開し、2022年度の売上高は約105億円、従業員数は約250名である。
吉田氏は1980年代に入社以来、経理を担当。現在経理部長を務める。経理部は6名で、決算、株主総会の対応をはじめとする経理業務を統括している。
kintoneを導入する前、同社の経理部は業務の引き継ぎ、情報共有に課題を抱えていた。まず多数の表計算シートが属人化する問題があった。経理部長は部員と情報共有するために多数の表計算シートを作成し、社内の共有フォルダに保存していた。だが、部員にとっては読みづらく、必要な情報を得るのが難しかった。
また、吉田氏が連絡手段として使っていたメールは、社内のメールサーバーの定期的な削除によって消えてしまい、過去の取引履歴が残っていなかった。また、業務の申し送りのために多数の紙のファイルを保管しており、増える一方だった。
そのため、情報は紙を綴じたファイルで保管していた。紙以外に引き継ぎの情報を保存する方法はないか。吉田氏は取引履歴やナレッジを共有できるシステムが必要と考え、2017年からkintoneの運用を開始した。
経理部が自ら学び、アプリ開発に挑戦
経理部では、簡単なアプリから開発を開始した。最初はスケジュール管理のアプリを作った。「krewSheet」(グレープシティ提供)を使って、縦軸に日付、横軸に社内の行事や部員の予定を配置したシンプルなスケジュール表をkintone上に作成、部内で共有した。
同じようにデータベースとして共有できそうなテーマを見つけて、アプリ化を進めた。例えば税金、固定資産、契約書などの業務内容別のマニュアルは、従来は紙のファイルとして保管されていたが、それらを1つずつアプリ化していった。これによって、新入社員など作業に不慣れな人でも、アプリを見れば業務内容がわかるようになった。
吉田氏はkintoneを使いこなしたいという思いが強く、部内でkintoneの勉強会を実施。kintone認定のアソシエイト試験対策の動画とテキストを活用して、知識の習得に努めた。勉強会は全48回開催した。さらに、オンライン講義の「Cloud University」(MOVED提供)も9講座を受講した結果、経理部内でkintoneの基本操作ができるようになった。
これらの知識習得によって、業務で使えるkintoneアプリが次々と開発されている。吉田氏はその中から3つのアプリを紹介した。
最初は「決算業務アプリ」である。決算は経理部の主要業務の1つだが、株主総会の開催や納税申告書の作成など複雑な業務だ。「決算は1年に1回だけ発生する作業のため、経理部長である私が基本的に1人で対応し、他の部員と情報共有をしていなかった。その結果、私に属人化した仕事になっていた」と吉田氏は振り返る。この状況はよくないと考えた吉田氏は、kintoneで改善を実施した。
決算業務のアプリは、決算業務にあたる吉田氏の仕事の内容を日報の形で記録する機能から作り始めた。いつ、どのような作業を行ったのか、5W1H形式で記録した。「年に一度の作業でも、記録を残すことで次の年に見ても手続きの内容がわかるようになった」(吉田氏)
加えて、kintoneのプラグインである「KANBAN」(アーセス提供)を用いて、複雑な決算業務を項目ごとに標準化して保存できるアプリも開発。作業名、担当者、納期などを登録し、資料の添付もできる。作成した個別の作業項目を一覧表示して、各業務の進捗状況を含めて情報共有できるようにしたため、決算業務を経理部全員の仕事として、組織で取り組めるようになった。
「決算作業を手順化、明確化したことで、属人化していた経理部長の業務を他のメンバーに引き継ぐことが可能になった。これで、肩の荷が下りた」(吉田氏)
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