FCNTが掲げるエシカルなスマホ作り
──arrows N F-51Cに用いたリサイクル材について詳しく聞かせてください。
田中氏 arrows N F-51Cはミドルレンジなので、外観に高級感を持たせるためにアルミを採用することを前提にしていました。実は、われわれが触れるステンレスはほとんどがリサイクル材ですが、アルミは見た目ではわからないようなリサイクル材がなかなかなかったんですよ。アルミを生産する工場から出た、アルミくずを100%再利用した再生アルミを使っています。それを金属ケースとカメラのフレームに使っています。淺野が申し上げたように、アルミを再利用すると黒っぽくなるのですが、そうならないように調整して、このデザインを実現しました。
──背面パネルに使った素材は?
田中氏 使用しているプラスチックは、リサイクル材を約64%使用しています。しかし、われわれとしては、リサイクル材を使っていることをわかるようにするのではなく、今までと変わらないデザインや質感にしたかったので、素材探しには非常に苦労しました。メーカーさんがあまりアピールしていなくて、最後の最後に見つけた材料です。
淺野氏 リサイクル材が約64%とは思えないほど透明で、色を作る意味ではやりやすかったですね。心配していた黄ばみも出ずに、狙い通りの色にすることができました。あとは、デザイン要素や開発設計含め、「フェイク的なモノづくり」をしたくなかったんです。見た目がエコっぽいのにパーセンテージが実は低いとか、嘘や見せかけだけのデザインや製品づくりにならないように、リサイクル材の数字を出すことを含め、誠実なモノづくりを心掛けています。
田中氏 カメラのフレームやリアパネルといった、ユーザーの目に触れる部分には“プレコンシューマリサイクル材”を使いました。製品化されて消費者が使った後のゴミではなく、工場で発生したゴミや廃棄物を使ったリサイクル材です。実際には見えない内部の部品や、樹脂の表面に塗装する材料などは、たとえばペットボトルや照明のカバーなど、消費者から回収された材料から作られた“ポストコンシューマリサイクル材”を使っています。
──ここにある再生プラスチックは白や黒に着色されていますが、もともとはどのような色なのですか?
田中氏 いろいろな色が混ざった、ごちゃごちゃした色です。たとえるなら、小学生が絵の具の筆を洗うバケツのような(笑)。
──ディスプレーやバッテリーは、従来通りの素材ですか?
田中氏 ディスプレーやバッテリー、基板といった、電気電子部分は従来と同じものを使っており、それらを除いた部品の総重量の約67%にリサイクル材を使用しています。しかし、今後はそうした部品も、環境に配慮した材料に置き換えていきたいと考えています。日本のスマホメーカーとしてわれわれが一歩を踏み出したと自負していますが、必ずしもトップランナーにならなくてもいいとも思っています。業界全体でリサイクル材を使えばコストも下がりますし、周りを巻き込んで、エシカルやサステナブルなモノづくりを実現する方向に進んでいければいいなぁと。そのために、いろいろなメーカーさんとできることはないかと相談している段階です。
──arrows N F-51Cは、本格的にリサイクル材を使った第1弾ということで、開発にも時間を要したのでしょうか?
田中氏 新たに使う材料を探して、調査をするのに4~6ヵ月くらいかかりました。その分は、通常モデルよりも長くかかっています。2021年6~7月頃から材料についてのヒアリングを始めたので、発売までは1年半くらいでしょうか。
吉澤氏 企画もほぼ同じ時期から動いておりました。
エシカル・コンシェルジュを取得
そして新たに見つかった課題
渡邊氏 吉澤さんは、arrows N F-51Cの企画のために、エシカル・コンシェルジュ講座も受講されたんですよ。
吉澤氏 エシカル協会(一般社団法人)が主催する講座で学んで、エシカル・コンシェルジュを取得しました。「エシカル」と言っても、環境問題だけではなく、食品ロス、アニマルウェルフェア、人権問題など非常に幅広くて、いろいろな分野の講師の話を聞けて勉強になりました。今、地球でどんなことが起きていて、どんな行動が必要で、その行動がどのように役立つのかということを、全部つなげて理解できるようになったと思います。arrows N F-51Cの企画・開発に活かせたことはもちろん、今後の製品づくりにも役立てていきたいです。
──arrows N F-51Cの開発を経て、新たに見つかった課題はありますか?
田中氏 リサイクル材を使って作ったものを次にどうするのか? ということも考えていかなければならないと感じています。スマートフォンは家電リサイクル法の対象になっていないので、リサイクルという意味では弱いのが現状です。キャリアさんや他社さんも含めて、業界全体で何か取り組みができればいいなぁと。
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また、今回のインタビューには、事業企画やアライアンスを担当されているプロダクト&サービス企画統括部プリンシパルプロフェッショナルの外谷一磨氏にもオンラインで参加いただいたので、arrowsの今後のビジョンについてうかがった。
外谷氏 arrows N F-51Cをきっかけに、サスティナビリティということをシンボリックに打ち出させていただきましたが、これからも環境に配慮した製品を提供していきます。具体的には、2025年度までに、すべての商品に環境にやさしい物づくりを適用させていきます。arrows N F-51Cを製造する国内の工場では、再生可能エネルギーを使っていますが、2023年度中には新製品でないものも含めて、われわれが国内工場で製造する全製品については、再生可能エネルギーに切り替えていきます。
そして、最も大切なことは、作ったものの本体や部品を回収して再利用したり、次の形に生まれ変わらせたりすることと考えています。そうしたサーキュラーエコノミー(循環型経済)をどうやって作っていくか? まだ入り口に立ったところなので、いろいろなパートナーさんと相談しつつ、次のモデルでは、サーキュラーエコノミーも考慮に入れて、商品の素材や形状を考えていきたいと思っています。
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さて、インタビューには、FCNTのオウンドメディアを担当している入社2年目の徳本実智留さんが勉強として同席されていた。最後に徳本氏にもarrows N F-51Cへの思いをうかがった。
徳本氏 arrows N F-51Cに使われている素材や設計の話などを聞いて、よりいっそうarrow Nへの理解が深まりました。ユーザーのみなさまは、まだ「arrows=エシカル、サステナブル」というイメージを持たれていないと思うので、それを伝えていき、世の中にエシカルなマインドが広げていけるメディアを作っていきたいと思います。