業務を変えるkintoneユーザー事例 第139回
情報格差がなくなり、離職率も下がり、業務改善も提案しやすく
「働きたい改革」を掲げた歯科クリニックのkintone完全統一への道
2022年07月08日 09時00分更新
kintone hive osaka 2022の2番手は、たけち歯科クリニックの高橋めぐ氏による「風土&業務改善成功への一連のストーリー」だ。離職率の高かった歯科クリニックにおいて、情報格差をなくすべくグループウェアを導入した経緯、そしてkintoneに移行した背景やプロジェクトの苦労などが披露された。
「グループウェア=タイムカードの原則」とは?
医療法人社団翔志会のたけち歯科クリニックは京都の二条近くにある歯科クリニック。50名以上の従業員がいるため、規模はかなり大きい。組織の源泉は社員の一人ひとりの力にあると考え、情報の透明化や多様性の受容、職場環境の改善、人間的成長支援など「働きたい改革」を推進しており、個人の力を最大限に発揮できるようしている。
前職でケータイの販売を手がけていた高橋めぐ氏が、たけち歯科に入社したのは2020年で、経営戦略室で労務や総務を担当している。法人内のコミュニケーションを図るべく、kintoneを活用するという役割を持っており、2021年にはkintoneのアソシエイト試験にも合格したという。
グループウェアを導入する前のたけち歯科は離職率も高かった。2013年度の離職率は33.3%で、医療福祉分野の平均離職率である15.5%を倍以上上回るという状況だった。この1つの背景が情報格差で、理事長やマネージャーに近い人のみが情報を持っていたり、口頭での情報伝達で言った、言わないが起こっており、社員の不満につながっていたという。
こうした情報格差をなくし、コミュニケーションを活性化するために2015年に導入されたのが、サイボウズOfficeだった。「あれ?kintoneじゃないの?と思ったかもしれませんが、これは理事長が提唱する『グループウェア=タイムカードの原則』が原因です」と高橋氏は説明する。
ただ、情報を発信するだけのツールでは、ツールを開かない人も出てきてしまう。しかし、サイボウズOfficeにはタイムカードの機能があるため、打刻のたびに毎日グループウェアを開くことになる。これが「グループウェア=タイムカードの原則」になる。実際、サイボウズOffice導入後は掲示板が見られるようになったという。
kintoneのみで勤怠情報を確認するのに四苦八苦
しかし、情報の共有はされても、健全な社内コミュニケーションの活性化にはいくつかの課題があった。社内のコミュニケーションはLINEを使っていたので、オンとオフの切り替えがしづらく、1対1の話はやはり対面になっていたため、忙しい理事長の話はやはり伝言ゲーム状態になっていたという。
こうした課題を抱え、理事長が2019年に参加したのが、「サイボウズチームワーク経営塾」だ。サイボウズOffice活用の幅を拡げるとともに、サイボウズの100人100通りの働き方というコンセプトに興味を持ったのがきっかけだ。そのとき出会ったのがkintone。2019年にサイボウズOfficeと併用する形でkintoneを導入したという。
kintoneのスペースを活用したコミュニケーションは活性化し、意思決定の見える化も実現した。反面、サイボウズOfficeとkintoneを併用することで使い分けや情報の切り分けの大変になってきた。なにより、「『グループウェア=タイムカードの原則』からずれてしまうことになった」という。そこでkintoneをスタンダードコースに変更し、サイボウズOfficeのワークフローやタイムカードを移管し、kintone完全統一を目指すことにした。
鍵となったのはタイムカードの実装だ。kintone上で動作する「kincone」(ソウルウェア)を導入したのだが、kintone上で自分の退勤情報を絞り込むのが通常の設定では難しく、結局kintoneとkinconeという2つのツールを行き来する手間があったという。「kintone上で打刻をした場合、kinconeとの打刻設定だと、文字列1行フィールドでしか社員名が反映されなかった。ユーザー選択フィールドでないと、ログインユーザーの制御ができなくなってしまう」というのが理由だ。
そのため、kintoneのみで打刻状況を確認できるようにするのが課題だった。「打刻と同時にスタッフに複雑な操作をさせることなく反映させる設定がとても大変でした」と高橋氏は振り返る。結局、スタッフデータアプリを別途で作成し、社員番号でタイムカードアプリと連携させ、プラグインで自動ルックアップでユーザー選択を反映させることに成功した。kintoneのポータルに打刻アイコンを設置しておき、更新ボタンを押すだけでそれぞれが自分をユーザーとして追加できるようになったという。
ワークフローやタイムカードを移行後、2021年の10月には全体で説明会を実施した。高橋氏の経験上、新システム導入後に会社からの説明が不足すると、従業員も導入のイメージがもてず、受け入れるのに時間がかかっていたからだ。当日はスタッフの前でデモを披露し、後日はアプリの使い方も動画でアップしたという。「人によって理解しやすい表現が違うので、図と文章と2つで示すのもこだわったポイントです」と高橋氏は語る。
情報共有が身近になり、働きがいのある会社に
今まで分かれていたタイムカードと労務管理がkintoneに集約されたことで、申請と管理がとても楽になったという。アクション機能を使ってタイムカードのデータをそのまま申請系アプリに反映できるので、わざわざ打刻時間を確認して、申請フォーマットに入力する手間も省けるようになった。また、kintoneの一覧表示機能は自由度が高いので、欲しい情報がすぐに入手でき、労務管理の時間も半分に短縮できたという。
2021年11月、たけち歯科クリニックはkintoneへの完全統一を実現。「情報がkintoneに集約されたことで、コミュニケーションはさらに活発に。プラグイン導入でアプリの自由度がアップしたので、スタッフの利便性が格段に向上する大満足の結果に終わりました」と高橋氏は語る。
たけち歯科では、そのほか「たけちメルカリ」というkintoneアプリを使っている。これは文字通り、「使えるけど、不要になったモノ」「業者さんからのノベルティ」などをやりとりできるアプリだ。高橋氏は、「業務と関係ないアプリもコミュニケーションや情報共有の活性化につながっています」とコメントする。
kintoneの導入により、たけち歯科クリニックでは情報共有が身近になった。「お菓子をもらいました」「ドリンク置き場の設置を改善しました」「診療器具のゴムを変えました」「診療器具を移動しました」などなど、入社一年目の社員やパートも上下関係なく気軽に投稿しているという。「先輩の出産報告もkintoneに上がってきて、みんなで祝福しました。こんなやりとりがkintoneでできるのも、今のたけち歯科の雰囲気あってこそだなと心の底から思いました」(高橋氏)。心理的安全性が担保され、気軽に業務改善を提案できる風土こそ、たけち歯科の「働きたい改革」の1つだったいう。
2009年に33.3%だった離職率は、10年経って、6.3%と大幅に減少した。また、医業収入も過去最高を更新しているとのこと。2021年にはホワイト企業大賞の特別賞を受賞し、2022年は働きがいのある会社ランキングのベストカンパニーに選出され、小規模部門で11位にランクされた。今後はアプリの使い勝手をさらに向上し、キャリア支援や人事評価に活かしていくという。

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