このページの本文へ

4つの事業分野、すべての製品とソリューションに「AI+IoTの力」を取り込んでいく戦略を知る

ボッシュを知るあなたもまだ知らない“AI+IoTをリードするボッシュ”

2021年12月23日 08時00分更新

文● 大塚昭彦/TECH.ASCII.jp

提供: ボッシュ

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

 皆さんは「ボッシュ(Bosch)」という会社をご存じだろうか。日本では自動車用機器、あるいはDIY用/プロ用電動工具といった製品を通じて、その社名を知っているという方が多いだろう。

 ただし、ボッシュの手がける領域はそれだけではない。たとえば家電製品、産業機械/インダストリー4.0ソリューション、エネルギー/ビルディングテクノロジー、果ては半導体までを含む、幅広いテクノロジー/エレクトロニクス製品やサービスを開発、製造、提供するグローバルメーカーなのである。

 そしてそのボッシュが現在注力しているのが、革新的な「AI+IoT(Artificial Intelligence + Internet of Things)」領域における取り組みだ。「あらゆる製品へのAIの組み込み」「製品開発や製造におけるAI活用」という2つの目標を掲げ、IoT新会社の設立、クラウドAI+IoTプラットフォームの構築と提供、全社的なAI人材トレーニング、さらには自社最新鋭工場のAI+IoT化やデジタルツイン構築といった、広範な取り組みを急ピッチで進めている。

 「AI+IoTのリーディングカンパニー」を目指すボッシュが、これからどんな世界を実現して、皆さんの生活の質を向上させようとしているのか。本稿を通じて、その未来像をぜひ知っていただきたい。

自動車用機器だけではない、「4つの顔」を持つボッシュ

 ボッシュの起源は、135年前の1886年に創業者のロバート・ボッシュがドイツに設立した会社までさかのぼる。現在のボッシュ・グループはロバート・ボッシュGmbHとその子会社440社、世界約60カ国にある現地法人で構成されており、グループ全体の従業員数は約39万5000人(2020年末現在)、2020年度売上高は715億ユーロ(約8兆7000億円)という巨大なグローバルカンパニーだ。

 日本における歴史も古く、1911年(明治44年)の自動車用機器販売スタートから2021年で110周年を迎えた。国内のボッシュ・グループの連結従業員数はおよそ6500名、2020年の第三者連結売上高は約2690億円となっている。日本市場においては現在も、エンジンマネジメントシステムやブレーキシステムといった自動車用機器のビジネスが主軸である。

 ただし、前述したとおりボッシュの事業フィールドはそれだけではない。自動車用機器の「モビリティ ソリューションズ」に加えて、インダストリー4.0やファクトリーオートメーションなどの「産業機器テクノロジー」、電動工具やガーデンツール、家電製品などの「消費財」、ビルセキュリティ/エネルギー管理システムなどの「エネルギー・ビルディングテクノロジー」という、合計4つのビジネスセクターを持つ。

日本を含めボッシュがグローバルで展開する4つのビジネスセクター

 これらの事業フィールドに共通するのが、「世界の人々と社会に役立つ革新的なテクノロジーを生み出していく」というビジョンだ。ボッシュではコーポレートスローガンに「Invented for life」を掲げている。現在はグループ従業員のうち約7万3000人が研究開発部門に所属しており、年間で59億ユーロ(約7200億円、2020年度)もの研究開発費を投じて、未来のテクノロジーとソリューションの開発を続けている。

すべての事業フィールドでAI+IoTに注力する「新しいボッシュ」

 そんなボッシュが現在、すべてのビジネスセクターで注力しているのがAI+IoTの取り組みだ。幅広い製品をIoT化し、そこから得られたデータにAI(人工知能)のテクノロジーを組み合わせることで、ボッシュやその顧客企業が提供する製品/サービスを継続的に改善していく、さらにはリカーリングビジネスによる収益向上を可能にしていく狙いがある。

 AI+IoTへの取り組みはすでに加速している。2020年の決算報告書においては「今後数年でAIベースの製品売上高が数十億ユーロ(数千億円)規模に成長する」という予測を示しており、5年後の2025年までに「全製品へAIを搭載すること」「開発/製造にAIを活用すること」という2つの目標も掲げている。

 また2020年には、IoTソリューションを推進する新会社「Bosch.IO」をドイツで設立した。同社には900名を超えるIoTやデジタル分野のエキスパートが集結しており、「道路や工場のフロアから自宅や現場に至るまで」あらゆるモノのインターネット化を進めるためのコンサルティング、実装、運用を手がける。特に小売、エネルギー、ビルディング、製造、消費財、農業、モビリティといった業界向けIoTソリューションに注力している。

 Bosch.IOの主力製品でありIoTソリューションの根幹をなすのが、「Bosch IoT Suite」というオープンソースベースのクラウドIoTプラットフォームだ。Bosch.IO設立以前から開発、提供されてきたBosch IoT Suiteは、すでに250以上の顧客プロジェクトに採用されており、1000万台超のセンサーやデバイス、ゲートウェイ、マシンをビジネスアプリケーションやユーザーに接続してきた実績を持つ。

 たとえば自動車メーカーのダイムラーでは、Bosch IoT Suiteを活用して車両ファームウェアのOTAアップデート(遠隔無線アップデート)を実現している。またドイツの電力会社であるEWEでは、電力消費量データの効率的な管理にBosch IoT Suiteを採用している。メーター検針の自動化だけでなく、たとえば電力消費量の多い家電製品についての情報を提供するなど、消費者向けの付加価値サービスにもつながっているという。

 すでにボッシュが提供するエレクトロニクス製品の90%がネットワーク化機能、つまりIoTの機能を備えており、もちろんボッシュのさまざまなIoTソリューションでもこのIoTプラットフォームが利用されている。たとえばスマートカメラの接続や管理、ファームウェア更新、あるいは建設機械向けソリューションに組み込んで遠隔からの監視や更新、二輪車向けの自動事故検知/緊急通報サービスといった用途で活躍している。

 このように、製品やソリューションのネットワーク化がすでに進んでおり、IoTデータを活用できるプラットフォームが整備されているからこそ、全製品へのAI搭載、そして開発/製造へのAI活用といった次なる目標への道が開けるわけだ。

デジタル化した工場へAIを適用、不良品率の低減や生産プロセス最適化を実現

 製品やソリューションへのAI搭載、AI+IoT化と合わせて、ボッシュが注力しているのが開発/製造におけるAI+IoTの活用だ。

 ボッシュでは自社工場におけるインダストリー4.0関連プロジェクトを2012年から進めてきたが、2021年からは数年間をかけてさらに約5億ユーロの投資を行い、工場のデジタル化とネットワーク化を進める計画としている。このIoT化プロジェクトと切っても切れない関係にあるのがAI活用である。

 ボッシュが2017年に設立したAIセンター(BCAI:Bosch Center for Artificial Intelligence)では、工場内の産業機械から収集したデータをAIによりリアルタイムに分析し、製造工程の早い段階で異常や不具合を検知、製品不良を排除して品質を向上させるAIソリューションを開発した。各種データを現場に合わせたダッシュボードで可視化するとともに、AI分析で異常を検知した場合にはその原因を推定し、従業員に取るべきアクションを提案したり、自動的に問題解決を図ったりすることができる。このソリューションをパイロット導入したボッシュの工場では、AIを用いてプロセスフローの問題を特定、解決し、生産ラインのサイクルタイムを15%短縮できたという。

 ボッシュではこのAIソリューション導入をさらに推進しており、2021年には世界中に展開する約50のパワートレイン工場へ導入、800以上の生産ラインを接続するとしている。これにより、生産ラインからは毎日10億件を超えるデータメッセージが収集可能になり、製造上の異常検知や生産プロセスの改善検討などに役立つ。ボッシュではさらに世界240の工場でAIソリューションの導入を計画しているほか、多数の自社工場への導入で培われた経験と技術的ノウハウを、製造業向けの新たなAIソリューションの開発にも生かしている。

 AI+IoT推進に向けてファシリティ、ソリューション開発へ投資するのと同時に、ボッシュでは“人”への投資も行っている。2022年末までには、日本を含む2万人の従業員を対象としたAIトレーニングを提供予定だ。既存の製品やソリューションが持つ強みを最大限生かしつつ、AI+IoTによる新たな付加価値を創造、提供するために、すべての事業フィールドにおいてAIに精通した従業員を育成していく狙いだ。

シリコンウエハ製造工程を完全自動化、ボッシュ初のAI+IoT工場がオープン

 AI+IoT分野におけるボッシュの先進性を物語るのに最適な事例が、2021年6月に正式開所したドイツ・ドレスデンの最新鋭シリコンウエハ製造工場だろう。インダストリー4.0の最先端を行き、大型300mmウエハの製造工程を完全自動化したこの工場を、同社では「ボッシュ初のAI+IoT工場」と呼んでいる。

 ボッシュでは1950年代から半導体の内製化に取り組んできたが、世界中のメーカーが半導体不足という課題に直面している現在、さらなる生産能力の向上を目的に半導体工場への設備投資に注力している。床面積7万2000平米というドレスデンの新ウエハ製造工場建設には、ボッシュの長い歴史上でも最大となる約10億ユーロ(約1280億円)が投じられたが、注目すべきは工場全体に高度なデジタル化とネットワーク化が施されており、最初からAI+IoTの取り組みに対応している点だ。

 同工場のゼネラルマネージャーを務めるクリスティアン・コイッチュ氏によると、最大の強みのひとつが「集中型ITデータアーキテクチャ」だという。同工場のクリーンルーム内にある約100台の機械と製造ライン、建物の複雑なインフラは「集中データベース」を介して相互につながっており、各機械が持つ1000に上るデータチャンネルからのデータをこのデータベースに集約している。工場が生成するデータ量をテキスト文書に換算すると毎秒500ページ分、1日あたり4200万ページ分にも及ぶという。

 この膨大な量のデータをAIがフル活用する。AIはまず大量のデータからデータに基づく予測の方法を学習したうえで、製造/保守プロセスをリアルタイムで分析していく。それにより、製品に発生した微細な異常であっても検知することが可能になる。さらに異常の原因は即座に分析され、製品の信頼性に影響を及ぼす前に製造プロセスがすみやかに修正されるという。こうした技術を背景に、6週間、およそ250工程におよぶウエハの製造プロセスを完全に自動化しているのだ。

 もうひとつ、膨大なデータに基づいてこの新工場で実現したのがデジタルツインだ。建設中に工場の建物からインフラ、供給/排気システム、ケーブルダクト、機械加工ラインや製造ラインまで、工場の構成要素すべて(約50万個のオブジェクト)をデジタルデータとして記録しており、3Dモデルで視覚化が可能になった。デジタル世界の“分身”であるこのデジタルツインを活用することで、現実世界で進行中の作業に影響を及ぼすことなく、工場のプロセス最適化計画や修繕作業のシミュレーションを行える。

デジタルツインで再現されたドレスデンの新工場

 なお、工場内の機械保守にも先進的な技術を採用している。AIアルゴリズムを活用して製造機械やロボットの予兆保守を実現し、障害発生前の適切なタイミングでのメンテナンスを可能にしているほか、拡張現実(AR)技術とカメラ内蔵のスマートグラスを組み合わせ、遠隔地にいる保守のエキスパートがドレスデンの現場作業員と会話をしながら保守作業を実施できる。この遠隔保守の仕組みは、コロナ禍で人の移動が大きく制限される中、機械を確実に稼働させるうえでも重要な役割を果たしたという。

* * *

 5G、クラウドといったテクノロジーの進化と普及を背景に、IoTとAIはこれからあらゆる分野において製品やサービス、ビジネスのあり方を変えていくことになる。提供する製品やサービスにおいては、AI+IoTを通じてユーザーの使用状況などを逐次データとして取得し、そのニーズを具体的に把握したうえで機能強化やアップデートに生かす。またそれを開発するエンジニアリング段階や製造過程においても、AI+IoTのサポートによって開発期間を短縮し、また製品の品質を向上させる。少し先の未来では、そうしたことが「普通のこと」になっているはずだ。

 ボッシュがすべての事業フィールドでスタートさせたAI+IoTの取り組みも、そのノウハウと研究開発成果を蓄積しながら、今後数年間で一気に加速するだろう。「世界の人々と社会に役立つ革新的なテクノロジーを生み出していく」という企業ビジョンを体現するものとして、AI+IoTテクノロジーの可能性を先頭で切り開いていくボッシュの存在には大いに期待したい。

(提供:ボッシュ)

■関連サイト

カテゴリートップへ

ピックアップ