ソラコムのプラットフォームの海外基盤をますます強化へ
日立製作所とセコムが語るソラコムとの共創、そしてグローバル展開
ソラコムが開催したIoTカンファレンス「SORACOM Discovery 2021 ONLINE」で行われた特別講演「共創とグローバルへの道」では、ソラコムの玉川憲社長、日立製作所 執行役専務 社会ビジネスユニットCEOの永野勝也氏、セコム 常務執行役員 企画開発担当・企画部長の上田理氏が登壇し、IoTビジネスのグローバル展開について語り合った。
ともにグローバルを目指す6社との協業
ソラコムの玉川憲社長は、特別講演の冒頭、2015年に同社を創業し、同年にSORACOM Airを発売。2017年にはグローバルIoT SIMの提供を開始したことを紹介。日本初のグローバルプラットフォーマーに向け、創業期からグローバル展開を進めてきたことを強調してみせた。
「ソラコムのビジョンは、『世界中のヒトとモノをつなぐ』ことであり、グローバルコネクティビティで新たな産業を創ることを目指してきた。英国拠点や米国拠点を開設し、さらにもう一歩、グローバル展開を加速するために打ち出したのが、『スウィングバイIPO』である。宇宙船が宇宙に飛んでいく際に、宇宙船の推進力だけでなく、惑星の動きと重力を使い、さらに加速していくように、ソラコムは、KDDIのアセットを活用して、真のグローバル企業に向けてIPOも検討していくことになる」と説明した。
さらに、ソラコムでは、2021年6月に、セコム、ソースネクスト、ソニーグループ、日本瓦斯(ニチガス)、日立製作所、World Innovation Lab(WiL)の6社とともに、グローバルビジネスの協業について発表。「これは、グローバルで活躍している日本の企業との資本提携も含む協業になる。さらに成長していくためのマイルストーンになる」と位置づけた。
今回の特別講演では、協業した6社のうち、日立製作所とセコムの2社が登場。その内容を詳しく説明する場になった。
スピード感のあるサービスを提供できた(日立製作所)
日立製作所 執行役専務 社会ビジネスユニットCEOの永野勝也氏は、「日立は、環境、レジリエンス、安心・安全の3つの領域に注力し、社会課題と企業経営の課題を解決することを目指している。これを推進するのが、社会イノベーション事業の基盤に位置づけているLumadaである。膨大なデータを活用し、価値創造をして行くものであり、顧客との協創を通じて、ビジネスの創出を迅速に実現。様々な事業領域の顧客、パートナーとともに、エコシステムを形成し、次の社会に向けた価値を創造していくことになる」と前置き。その上で、「日立は、社会イノベーション事業のグローバルリーダーを目指しており、海外では、JR Automation、日立ABBパワーグリッド、GlobalLogicなどをM&Aし、事業ポートフォリオを変革している。今後は、スピードをあげていくことになるが、その点でもソラコムとの提携に期待している」と述べた。
さらに、2018年からKDDIとともに、グローバルIoT事業で協業していることに触れながら、いくつかの事例を紹介した。
日立が買収した圧縮機メーカーのSullairでは、世界中で利用されている圧縮機の稼働状況をリアルタイムで収集して、サービスに活用。また、水道などの社会インフラの高度化に向けては、複数の事業者をまたがるDXの推進基盤を日立が整備。大規模災害時の備えに向けてインフラレジリエンスの実現に取り組んでいることを示した。
「社会インフラの高度化では、水道の漏水検知にソラコムの回線を活用し、遠隔監視を行っている。ソラコムを使ってみて大変よかったと思っている。小回りが利き、スピード感があるサービスを提供できた。今後は、規模、間隔、即時性など、様々なデータの吸い上げ方が出てくるだろう。柔軟に対応できるメニューを用意してもらいたい」と語った。
これに対して、ソラコムの玉川社長は、「忌憚のない意見をもらえば、すごいスピードで実装するのがソラコム。社会インフラの運用、保守についても、有償のプライオリティサポートや、24時間365日のミッションクリティカルサポートを用意している。プロジェクトで必要とされる優先度合いにあわせてメニューを提案できる」と答えた。
また永野氏は、「ソラコムと連携することで多くの社会課題を解決できると考えている。スマートシティの実現や、インフラの高度化、モビリティの進化などへの取り組みを、グローバルに展開していきたい。国による通信規制やデータ規制もあり、日立だけではできない部分もある。グローバルでデータをつないで、そこから価値を創出するといった取り組みは、誰もできていない領域である。ソラコムにはそれを実現するパートナーとして期待している。また、日立とソラコムだけではできない部分もある。多くの企業に、さらなる価値創造に向けて参加してもらいたい」と呼びかけた。
正しさの追求と現状打破を、一緒にできる企業である(セコム)
一方、セコム 常務執行役員 企画開発担当・企画部長の上田理氏は、同社が1966年から、オンラインセキュリテイサービスを開始し、専用回線でサービスを提供。その後、加入者回線、ISDN、ブロードバンドへと通信環境を進化。さらに、無線技術の活用にも乗り出し、現在は5Gにも対応。通信ネットワークの進化にあわせて新サービスを展開してきたことを示した。
「企業や家庭に設置した各種センシングデバイスから、ホームコントローラがデータを収集。異常が発生すれば、通信回線で異常信号を送信し、駆けつけて対処するのがセコムのオンラインサービスの仕組みである。通信回線が進化するのに伴って、双方向化や画像の活用、AIによる処理などができるようになる」とした。
セコムでは、2021年5月にソラコムの通信サービスを活用したホームセキュリティシステム「安否みまもりサービス」を発表ししている。新たにクラウド技術を活用し、従来のセンシング情報に加えて、気象情報をはじめとする各種情報と、ソラコムのサービスを活用した温湿度情報を付加。それをもとにした検知情報を、利用者にスマホアプリで通知。離れた場所に住む家族の様子を見守ったり、必要に応じてセコムに安否確認を要請したり、センサーが一定時間、人の動きを検知しない時にはセコムが駆けつけるという。
「ソラコムの温湿度センサーで検知した温度と湿度から、熱中症の危険が高まった時には、スマートフォンに通知が届く。これは、ソラコムとの第1弾の共想となる『まごチャンネル』での経験を踏まえた新たなサービスになる。今後もソラコムとともに、新たなサービスを作っていきたい」と述べた。ソラコムの玉川社長は、「まごチャンネルは、ソラコムの最初のお客様のひとつであり、ともに成長してきた思い入れがあるサービス。まごチャンネルのCMには私の祖母が登場した」というエピソードも披露した。
その上で、上田氏は、「セコムが海外で事業を行なっていることはあまり知られていないが」と前置きしながら、1978年に台湾に進出し、現在、17カ国に展開。13の国と地域で、対処付きオンライン・セキュリティシステムを提供し、約98万件の海外顧客がいることを示した。
「だが、質や量では、まだ日本のサービスに届かない。これを強化することが課題であり、そこにソラコムとの協業の狙いがある」とし、「海外展開を行う上では、ネットワーク品質、コストなどに苦労をしている。海外では、インターネットに入るまでの敷居が高い部分がある。それを解決できるのが、ソラコムのグローバルコネクティビティである。すでに、アジアで先行実験を行なっている。その成果を皮切りに、グローバルに展開していく」と述べた。
セコムは、「あんしんプラットフォーム構想」を打ち出している。上田氏は、「あんしんプラットフォーム構想を具現化したひとつの姿が、セコム安心クラウドであり、みまもりアプリである」とした。その上で、「ソラコムは、日本発のグローバルネットワークを作るというビジョンとともに、日本発のディスラプターをたくさん作るのがミッションであるという、玉川社長の言葉に感動した。ソラコムは、正しさの追求と現状打破を、一緒にできる企業である。それを支援し、一緒に強くなっていきたい」と語った。
これに対して、玉川社長は、「セコムも創業時には、ディスラプションが強い会社であったが、いまでは警備会社として正しい会社としての比重が高い。ソラコムのようなベンチャーはディスラプションの比率が高い。ソラコムとのエコシステムによって、正しさの追求と現状打破のバランスが取れるようになるのではないか」と答えた。
最後に、ソラコムの玉川社長は、2021年6月に発表した6社とのパートナーシップについて触れ、「グローバルで多くの共創を行ない、ソラコムのプラットフォームの海外利用を増やし、海外での基盤をますます強めたい。これが、パートナーシップ各社への恩返しになる。また、これは共通プラットフォームであり、多くの企業にも使ってもらえるものである。テクノロジーの民主化につながる。この素晴らしいグローバルプラットフォームをみなさんとともに作りあげたい」と語った。