シャトルサービスで移動の課題に挑むNearMeの「西新宿どこでもドアシャトル」
西新宿スマートシティ協議会が4月に手がけた実証実験の1つが、タクシー車両を用いた効率的なシャトルサービスを見込んだ「西新宿どこでもドアシャトル」になる。実証実験に参加したNearMe(ニアミー)の髙原幸一郎CEOに、実証実験に参加した背景や移動にフォーカスした西新宿の課題、そしてサービスの必要性について聞く。
広大な新宿をシャトルサービスでスマートに移動
「新宿は広大だわ」。誰が言ったかは知らないが、確かに新宿は広い。そして、西新宿だけでも縦横無尽に行き交うのは実はなかなかに困難だ。
昔、新宿中央公園の初台側にオフィスがあった頃、ワシントンホテルから出てきた外国人旅行客に「歌舞伎町に行きたいのだが」と聞かれたときにはのけぞった。初台側から歌舞伎町はJR新宿駅を挟んで真逆にあるので、歩いて行くには相当時間がかかる。でも、電車で行くのはかなり面倒。会社は違うし、乗り換えも大変だ。なにしろ「新宿」の付く駅は全部で10駅もある(その中に都庁前は入っていない)。悩んだ挙句、質問してきた旅行客には「タクシーが一番だぜ」という何のひねりもないアドバイスをしてしまった。
広大な新宿を縦横無尽にサクサクと移動したい。そんな願望のために、西新宿スマートシティ協議会が手がけた実証実験の1つが、タクシー車両の効率的な稼働を実現する「西新宿どこでもドアシャトル」である。4月1日から2週間かけて行なわれた実証実験では、最大9人乗りの大型タクシーを活用して、西新宿エリアの通勤者を効率的に送迎できるシャトルサービスを検証した。1日350万人以上が乗降する新宿駅周辺の朝・夕の混雑を避け、西新宿エリアの通勤が快適になれば、働く場所・住む場所としての西新宿の価値は大きく向上するだろう。
取材当日は、新宿三丁目駅でタクシーを手配してもらい、都庁に移動することにした。副都心線を使うオオタニの場合、普段なら新宿三丁目で丸ノ内線に乗り換え、西新宿駅から歩くか、手前の東新宿で大江戸線に乗り換えて、都庁前で降りるという方法になるが、このルートは乗り換えのためにやたら歩くし、やたら混雑するし、やたら高低差も激しい。しかし、都の担当者とともに6人乗りのタクシーに乗ってしまえば、都庁の横まで10分かからない。圧倒的にスマートな通勤体験だった。今回の実証実験は無償で利用できたが、本稼働した場合では決済もオンラインで一括、クレジットカード等で自動化されるので、よりスマートになるはずだ。
移動空間の効率的な共用を実現するNearMeが西新宿を選んだ理由
この実証実験において、タクシー車両の効率的な運用を実現しているのがスタートアップのNearMe(ニアミー)である。NearMeの髙原幸一郎CEOは、元々楽天で物流関係を担当した経緯もあり、移動や物流の最適化、ひいては地域課題の解決という観点でライドシェアサービスに興味を持ち、2017年にNearMeを立ち上げた。
NearMeが手がけたのは、配車サービスではなく、タクシーによるシャトルサービスだ。これは会社勤めのとき何度も終バスを逃すという髙原氏の原体験から生まれたもの。「最終バスを逃したら、タクシーに乗るために駅前で列をなして待たなければなりません。しかも、同じ方向に行くのに、1人1台ずつタクシーに乗っていくので、もったいない気がしたんです。深夜のタクシーはそもそも運賃も高いですしね」と髙原氏は語る。
現行法制度上、タクシーは「1台につき1契約」「乗り合いはNG」「乗客は9人以下」という規制が存在する。これに対してNearMeでは乗客同士をマッチングしてグループ化することで、契約を1つにまとめ、AIでルートの最適化を行なっている。自社で車両を運用しておらず、他の配車サービスやタクシー会社と連携できるのも大きな特徴。乗車率(お客さんが乗っている率)が半分を切るというタクシー業界全体の課題を解決するとともに、さまざまな事業者と組んで空港や観光地、ゴルフ場などの移動手段をシャトルサービスで効率化しようとしている。
今回、西新宿スマートシティ協議会の実証実験に参加したのは、「コロナ禍で三密を避けるため、通勤や日常的な移動でもシャトルサービスを使えるのではないか」(髙原氏)と考えたからだ。そこで、東京都の産業労働局が主催するピッチコンテスト「UPGRADE with Tokyo」に応募し、優勝をきっかけに2週間にわたってオンデマンドのシャトルサービスを展開した。今回はスマートシティ協議会の会員企業を対象にしており、西新宿のオフィスに勤める通勤者はもちろん、西新宿に在住している人も利用できるようにしたという。「通勤者はもちろんですが、免許を返納したお年寄りや移動に不自由している障がい者が手軽に使えるようになったらうれしいですね」と髙原氏は語る。
今後の課題としては乗り降りできるスポットやサービス自体の認知など。「ニーズや課題、そして地域特性を踏まえて、まずは西新宿モデルを作り、これを都内、ひいては全国に拡げていきたい。限られた人だけの仕組みではなく、みんなが効率的に使うためにはどうしたらよいか。その試行錯誤の中に、この西新宿のプロジェクトがあります」と髙原氏は語る。意外と不便な西新宿を便利にしてくれるスマートなシャトルサービスに期待は膨らむ。