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日本MSがビジネスアプリケーションの事業戦略を説明、年間数万人規模の人材育成にも取り組む

“データのサイロ化”解消するDynamics 365とPower Platform

2020年12月10日 07時00分更新

文● 大河原克行 編集● 大塚/TECH.ASCII.jp

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 日本マイクロソフト(日本MS)は2020年12月8日、「Microsoft Dynamics 365」や「Microsoft Power Platform」などのビジネスアプリケーション事業戦略についての記者説明会を開催した。

 同社によると、Dynamics 365およびPower Platformはすでに、Fortune 500企業の97%を含む50万社が採用しているという。同社 ビジネスアプリケーション事業本部 本部長の大谷健氏は、「日本マイクロソフトのビジネスアプリケーションを活用することで、ユーザー企業が抱える“データのサイロ化”という課題の解決や、アプリケーションの内製化を促進することができる」と説明した。

クラウドCRM+ERPの「Microsoft Dynamics 365」、「Power BI」や「Power Apps」を含む「Microsoft Power Platform」について事業戦略を説明

日本マイクロソフト ビジネスアプリケーション事業本部 本部長の大谷健氏、日本マイクロソフト 業務執行役員 ビジネスアプリケーション統括本部長の綱島朝子氏

MSが提唱する「デジタルフィードバックループ」を実装した基盤とアプリ

 大谷氏は、さまざまな産業でDXを推進していくうえでは、現場から集めたデータを統合、分析し、その結果をまた現場に戻すことで「業務の最適化」「顧客とのつながり」「社員のエンパワーメント」「製品の変革」を図るデジタルフィードバックループの構築が大切だと述べる。

 「ただし、デジタルフィードバックループのコンセプトは理解できても、これをベストオブブリードのテクノロジーで実現するのが難しい、ワンストップソリューションのテクノロジーでは足りないという状況が生まれている。その課題を解決するのがDynamics 365とPower Platformだ」(大谷氏)

 同社では10年間に及ぶ投資によって、Dynamics 365とPower Platform、さらにMicrosoft Azure、Microsoft 365を組み合わせた“Microsoft Cloud”を実現してきた。大谷氏は、競合他社のように既存のCRMやBI、ローコードプラットフォームをつぎはぎにしたソリューションでは、「データのサイロ化という課題に完全な回答を示せない」と述べ、共通データモデルをベースとするマイクロソフトのビジネスアプリケーションに強い自信を見せる。

 Dynamics 365とPower Platformの開発には、グローバルで数万人以上の開発者が携わっており、これは「クラウド企業として最大規模」の開発体制だと強調する。年2回のアップデートによって最新の技術と機能を投入しており、たとえば直近の10月には両製品を合わせて480を超える新機能がリリースされたという。

共通のデータモデル/プラットフォームを採用して開発したDynamics 365とPower Platformにより、“アプリのサイロ化”という課題を解消していると強調する

 2016年から提供を開始したDynamics 365は、CRMとERPを統合したクラウドソリューションである。マーケティングや営業、カスタマーサービス、財務会計、サプライチェーン、人材管理までを網羅するビジネスアプリケーションとして、必要な機能を組み合わせてすぐに使え、それらがすべて“つながる”のが特徴だ。

 Dynamics 365について大谷氏は、「アプリケーション単体での導入だけでなく、拡張性と柔軟性を兼ね備え、クラウドソリューションやERPの概念を超えた『データ中心のソリューション』」と位置づける。国内提供開始以来、現在まで連続で2ケタ成長の高い伸びを維持しているという。

 日本マイクロソフト 業務執行役員 ビジネスアプリケーション統括本部長の綱島朝子氏は、エンタープライズから中小企業までグローバルで数万社、日本国内でも数千社が利用しており、エンタープライズではとくに製造、自動車、小売、流通での採用が進んでいると語る。国内施策については次のように述べた。

 「日本では『Dynamics 1000 people investment』を実施し、開発者への投資を加速している。それに加えて、エンタープライズ部門においてはDynamics 365の専任営業部隊を設置。今後は、カスタマーサクセス、パートナーエコシステムの改革、育成にも力を注ぐ」(綱島氏)

Microsoft Dynamics 365の概要。幅広い業務に対応したアプリケーション群を組み合わせ、つなげて利用することができる

 もう一方の Power Platformは、Office 365、Dynamics 365、Azure、カスタムアプリを統合するローコード/ノーコードプラットフォームだ。具体的には、誰でも簡単に業務分析ができるPower BI、コーディングのノウハウがなくてもアプリケーションを開発できるPower Apps、同じくノーコードで業務フローの自動化が行えRPAとしての活用も可能なPower Automate、そしてインテリジェントなチャットボットを提供するPower Virtual Agentsの4つで構成される。

 綱島氏によると、Power Platformは現在、金融や公共といった申請業務の多い職種、また医療分野において、採用が加速しているという。

 「出来合いのアプリケーションが満足できなくても、外注化することなく、ビジネスの課題感を持ったユーザー自身がローコードソリューションで業務アプリケーションを内製し、業務を自動化できる環境を提供する」(大谷氏)

 さらに、「Microsoft Dataverse」と呼ばれるデータの“共通の器”を用意しており、どのアプリケーションからでも同じデータにアクセスすることが可能で、データのサイロ化を防げる。加えて、350以上のデータコネクタを提供しており、Azureで展開されているさまざまな業界データ、クラウドソリューション、オンプレミスアプリケーションとのデータ連携が可能。収集したデータからローコードでAI機能を実装できるAI Builderもあり、「分析しやすい環境を提供している」と述べる。

Microsoft Power Platformの概要。「誰でも簡単に」業務分析、アプリ開発、自動化、チャットボット開発が可能になる

今年開催した32本のウェビナーに1万人超の登録、期待と注目の高さ示す

 説明会では4社/組織におけるDynamics 365とPower Platformの活用事例も紹介された。

 自動車/二輪車部品製造業の武蔵精密工業では、コロナ禍でメキシコ工場の生産ライン立ち上げを日本のエンジニアが現地支援できなくなったことから、「HoloLens 2」と「Dynamics 365 Remote Assist」を活用して、メキシコ工場における生産ライン立ち上げを日本からサポートした。その結果、生産設備立ち上げコストを50%削減することができたという。

 「検討開始から2カ月で本稼働するスピードと、MR(複合現実)技術を活用したデータ主導オペレーションの実現、そしてコロナ禍におけるオペレーション継続を実現した事例だ」(綱島氏)

武蔵精密工業におけるDynamics 365活用事例。海外工場のライン立ち上げにおける技術サポートを、MR技術を活用してリモートで実施

 半導体製造装置メーカーの東京エレクトロンでは、Dynamics 365を活用して製造装置の予兆保全を含めた高品質なフィールドサービスを実現。同時に、フィールドエンジニアの要員計画数を削減するなど、効率化と収益率向上も実現している。

 「全社の業務改革を促すビジネスプロセスイノベーションと、10万台を超える機器をきめ細かくサポートするアドバンスドフィールドソリューションの実現が可能になった。フィールドサービスに関する間接業務が30%減少し、1000人分以上の工数削減効果が得られている」(綱島氏)

東京エレクトロンにおけるDynamics 365活用事例。フィールドサービスの高い品質を保ちながら劇的な効率化を実現

 神戸市では、新型コロナウイルス感染症対応にかかる複数の業務でPower Platformを活用している。たとえばコールセンターに多数の健康相談や特別定額給付金の問い合わせが殺到したため、市職員自身が緊急事態宣言から2カ月でアプリを開発。これにより、コールセンターへの問い合わせは90%以上減少した。「ローコードプラットフォームのスピート感と、技術スキルの習得の容易性が発揮された」(綱島氏)。

 経済産業省では、いわゆる“2025年の崖”の克服に向け、自らがデジタル化を推進しているという。省内における行政手続きのデジタル化を推し進めるための導入実証プラットフォームとしてPower Appsの導入を決定し、省内で開発した「後援名義申請アプリ」をパイロット運用中だ。

神戸市、経済産業省におけるPower Platformの活用事例。問い合わせ対応や行政手続きのデジタル化/自動化を推進

 なお日本マイクロソフトでは、今年7月から11月にかけてビジネスアプリケーションに関する32本のウェビナーを開催した。延べ登録者は1万人を超え、中には1回で1000人規模となったウェビナーも含まれており、アプリのローコード開発やRPA導入などへの関心が集まっていることを示していると言えるだろう。

 また人材育成の強化にも乗り出しており、来年(2021年)1月からは無償オンライン講座の提供を開始するという。Dynamics 365では年間3万6000人、Power Platformでは年間5万1000人を対象に実施する計画も明らかにした。これらの講座は、基礎からハイレベルな知識習得までのコースを用意。Power Platform向けに用意したFundamentals(基礎)コースでは、1万2500円相当の無料試験特典を提供するという。

来年1月よりビジネスアプリケーション領域における人材育成施策を強化。無償講座などの提供によって、国内で数万人規模の育成を図る

 大谷氏は、2025年には43万人のIT人材不足が起きるという課題を挙げ、日本MSでは上述のようなビジネスアプリケーション開発人材育成で貢献していきたいと語る。その一方で、これまでの歴史的経緯からSIerなどのアウトソースベンダーにもノウハウが蓄積されており、そうしたベンダーにおける生産性向上のためにも「ローコードプラットフォームの活用を提案したい」とビジョンを示した。

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