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創業から6年 世界初となるニコチン依存症治療用アプリが薬事承認されたCureApp

2020年09月30日 09時00分更新

文● 野々下裕子 編集●北島幹雄/ASCII STARTUP 画像提供●CureApp

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 メドテック・ベンチャー「CureApp(キュア・アップ)」が研究開発した、医師が処方する「治療用アプリ」が2020年8月にアジア初の製造販売承認(薬事承認)を取得し、大きな注目を集めている。高度なソフトウェア技術と医学的エビデンスを組み合わせた独自の研究開発により、「治療」の再創造を目指すベンチャーは、創業からわずか6年という短期間で世界初となるニコチン依存症治療用アプリを完成させ、さらに複数の治療用アプリの開発を進めているという。

 現役の医師でありながら自ら起業し、ソフトウェアによる新しい治療法の開発に挑む、株式会社CureApp創業者兼代表取締役社長の佐竹晃太氏に、これまでの動きと理想とする医療の実現に向けた今後の動きについて話を伺った。

株式会社CureApp 佐竹晃太創業者兼代表取締役社長

現役の医師はなぜ治療用アプリに注目したのか

 CureAppが研究開発を進める治療用アプリとは、デジタル技術を用いて医療行為と同じように疾病を治療するソフトウェアのことを指す。医薬品、医療機器に次ぐ、新たな治療法として注目されている「デジタル・セラピューティクス(DTx)」の1つで、世界中で多くの企業が研究開発を進めている。

 日本から進むこと10年、2010年には米国で糖尿病患者の治療補助アプリ「BlueStar」がFDA(米国食品医薬品局)により承認されている。佐竹氏は米国留学中にこの「BlueStar」論文で感銘を受けたのをきっかけに、帰国後、医師でありエンジニアでもある鈴木晋氏と2014年にCureAppを設立した。

 それから数年でニコチン依存症治療用アプリ「CureApp SC」を開発し、2017年10月に国内初となるアプリの治験をスタートさせた。そこで得られた試験結果を元に今回薬事承認を認められたのが「CureApp SC ニコチン依存症治療用アプリ」と「ポータブルCOチェッカー」(以下、CureApp SC)である。

 CureApp SCは禁煙外来で治療を受ける患者を院外でもサポートするため、医師が処方する医療機器と位置付けられている。呼気中の一酸化炭素濃度を計測するCOチェッカーとアプリを組み合わせることで、個人の体調や状況に合わせた効率的で質の高い禁煙治療が行える。

 「CureAppの事業は大まかに2つあり、一つが治療用アプリの研究開発で、ニコチン依存症治療用アプリの他に、高血圧治療用アプリ、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)治療用アプリなどの開発に取り組んでいる。いずれも初期段階の臨床試験もしくは治験を行っている最中で、どちらも承認されれば世界初となる。

 もう1つはオンライン健康支援サービスの開発で、健康保険組合などで提供される法人向けのモバイルヘルスプログラムを運営している。3年前に臨床試験を開始したところ、薬事承認前から使いたいという声があり、治療用アプリ開発の知見を活かして、民間向けのプログラムを提供することにした。アプリ、オンラインのカウンセリング、医薬品の自宅送付の3つをパッケージにした『ascure(アスキュア)卒煙プログラム』は、全国の健康保険組合の15%で導入されている」(佐竹氏)

 CureApp SCとascure卒煙はどちらも喫煙者の禁煙を支援するものだ。しかし、CureApp SCは薬事承認を取得し医師が治療の一環として処方するもので、今後は患者が3割負担等で治療を受けられるよう保険適用を目指しており、一方のascure卒煙は治療とは異なる形でオンラインのみで手厚い禁煙支援サービスが受けられるという、それぞれの違いがある。

 「医療機関で実施される禁煙外来は3ヶ月で終わってしまい、医師に面談する時以外は自分で治療を継続しなければならないので離脱しやすいが、アプリならいつでもサポートでき、個人にあわせた対応ができる。ascureはすでに3年の実績があり好評価を得ている。プログラムも年々改善されており、支援する指導員の数も十名以上に増えた。質を高めることにも取り組んでいて、プログラムとしての伸びしろはまだまだあると感じている」

 一方のCureApp SC使用が見込まれる禁煙外来についても、5回の対面診療のうち3回はオンラインでの対応がすでに可能だ。新型コロナウイルス時限措置によるオンライン診療の規制緩和などもあり、これから利用が増えるのではないかと見られている。

初めて尽くしの開発を成功できた理由

 通常、薬の開発から薬事承認を経て、実際に治療に使われるまでの時間は10~15年かかるのも珍しくないが、CureApp SCの承認はかなり早いように見える。

 「理由はベンチャーならではの判断や動きの早さにある。製薬会社はほとんどが大企業で、何段階かある臨床試験フェーズを一つずつクリアしてから結果を解析し、それをオフィシャルにして次に進むかどうかの稟議を半年かけて行い、ようやく次の段階へと進む。当社では試験中に次の試験プロトコルに取り組み、オフィシャルの結果が出る前から準備し、結果がでた瞬間に次のフェーズに進む体制を取っている。

 スタッフは医師も多いので意思決定が比較的早く、アドバイスを受ける大学や病院の先生とのやりとりも専門家同士なので意志疎通がしやすい。また、治療用アプリの臨床試験プロトコルは自社で作成しているが、私自身も大学院で生物統計や疫学など含む公衆衛生学を専攻していた背景もあり、創薬の流れがトータルに理解できているのも大きいかもしれない。

 とはいえ、医師の治療プロセスをアプリ化するのは大変難しく、すべてが新しいこと尽くしだった。当初は医療機器として承認は不可能ではないかという話もあったぐらいだ。クラウドシステムの開発ではセキュリティなどの安全性に関するハードルは特に高かった。進めるうちに厚生労働省側でも年々DTxに対する理解が進み、社会的な価値も認知されてきた。今振り返ってもよく成功できたものだと感じる。国内初の治験を成功できたのは大変意義深く、大きな一歩になったと感じている」(佐竹氏)

治療する患者と医師をサポートするために

 DTxの開発ノウハウそのものは世界でもまだ明確に確立されていない。当然ながら専門知識を持つ人材もいないため、CureAppでは医療機器メーカーの開発経験者らをはじめ、医療に関連する専門家を積極的に採用し、社内プロジェクトを立ち上げて教育も行なうなど、独自のノウハウを蓄積している。

 学会を始めとする医療関係者との連携も忘れていない。禁煙治療用アプリの治験を行う際には、禁煙治療を担当する専門の医師のほか、禁煙や治療用アプリに関連する学会の理事などに協力を依頼。禁煙治療や遠隔医療に関する複数の学会とも横断的に連携している。「禁煙治療は社会的にも取り組みの必要性が認識されている。CureAppはトップランナーというより医師と同じ立場で課題解決に取り組んでいる」(佐竹氏)

 CureApp SCではCOチェッカーというハードウェアを提供しているCureAppだが、デバイスの開発は治療のために必要なので行ったが、会社としてあくまでメインはソフトウェアの開発だとしている。その治療用アプリも使用するのは今のところスマホに限定しており、スマートウォッチやスマートグラスといったデジタルデバイスとの連携は現実的ではないだろうと佐竹氏は言う。

 「治療用アプリはソフトウェアなので様々なデバイスへの展開も考えられるが、医師の診療をサポートするのが目的で、治療そのものを代替するわけではない。たとえばアプリのユーザーインターフェイスにしても、使い勝手良くデザインするのは大事だが、それが治療に有効であるかという部分が重要で、アップデートする場合には承認が必要になると考えている。逆にOSがアップデートされた場合は安全のために対応が必要になるなど、そうした問題もこれから新たに検討が必要となる」

 いずれにしてもDTxは世界的にもまだ開発が始まったばかりで、ソフトウェアで治療ができると認知されるのはこれからだろう。対象となる疾病が増え、新しい製品やアイデアが登場するのもこれからという中で、CureAppが目指すものは明確だ。

 「進化するテクノロジーを用いて、患者様を救い、医療を進化させる存在になる」

 1人ひとりに最適化されたデジタル療法が、広く認知・活用される世界に向けて、CureAppの挑戦はまだまだ続く。

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