kintone採用、開発パートナー、業務ハック力で約2週間でのリリースを実現
「申請から最短6日で振込」の給付金システムを八尾市はいかにして作ったのか
2020年07月10日 09時30分更新
実質2週間の開発は「精通したパートナーこその離れ業」
市としての給付決定が5月中旬、すぐに申請システムの検討を開始して仕様が固まったのが5月の終盤だった。そこから急ピッチで開発し、6月17日の申請開始にこぎ着けた。中谷氏は「開発期間は正味2週間程度だった。これは、システム開発に精通したパートナー企業がいたからこその離れ業だったと思っている」と語る。
その開発パートナーは、ノベルワークスである。2018年の「みせるばやお」のシステム開発も手がけたkintone使いのプロフェッショナル企業だ。代表取締役の満村 聡氏は開発時の状況を次のように語る。
「当社は他の自治体でも同様のシステムを開発していた。八尾市から最初に話を聞いたときは、そのシステムをベースにすればすぐリリースできると思っていたが、要求仕様をよく見ると、添付書類の不備を判定したときに、個々の申請者にエラーを返す必要があった。その仕組みを入れるためには、既存のひな形は使えず、一から新規に作る必要があることが判明した」
ゼロベースの開発が必要だとわかった時点で一瞬ひるんだ満村氏だったが、開発思想にも共感し、八尾市の要求に応えるべく開発を開始。約2週間で公開に成功した。
kintoneをベースに開発された本システムには、2つの外部機能が組み込まれている。1つは前述のオンライン申請時の添付書類チェックに用いた画像認識のAI(Google Cloud Vision)だ。
「本人確認書類の場合、免許証、保険証などが使えるが、まず何を添付するかを申請者がチェックし、その画像を添付する。システム側は、それぞれの画像を学習しているので、もし、免許証を送るつもりで保険証や、全く別の画像が来れば、エラーとして返すことができる」(中谷氏)
この仕組みを入れたことで、申請時の単純な書類不備などが大幅に減り、すぐに審査に入ることができた。
もう1つの外部機能は、郵送書類をスキャンしてシステムに読み込ませるOCRで、これは書類の認識に定評ある「Tegaki」を使用している。認識率は99%以上なので、事務処理の担当者は紙をシステムに転記する作業が必要ない。読み込んだ画面上で、申請書の内容が添付書類通りかを確認していけばいい。問題なければオンライン申請と同じkintoneの承認プロセスに合流させていく。狙い通り、紙の申請書の処理業務は大幅に効率化され、事務局の担当者は4~5名で問題なく業務が行なわれているという。
申請から6~7営業日で振込 郵送通知やハンコも省く
こうして6月17日に申請受付を開始した給付金システムは、順調に申請受付と処理を進めている。6月29日時点で、約400件の申請を受けており、オンラインと郵送の比率は、ほぼ同数だという。今回のシステムのメリットがフルに生かされた格好だ。
特筆すべきは処理の速さだ。29日時点で、すでに審査が通った150件程度は振込を済ませている。もっとも早いケースで、受付を開始した6月17日に入った申請を、6月26日に振り込んだという。その間わずか6~7営業日というスピード処理だ。郵送による申請も、紙の段階でチェックをしないためオンラインとほとんど処理速度に違いがないのも、このシステムの特徴だ。
また、「支給決定は振込をもって知らせる」ということにして、事後の給付完了の郵送通知なども省略し、合理化に徹している(不交付の場合は郵送で通知)。
合理化と言えば、実はこのシステムにはもう一つ、市役所としてチャレンジしたことがあった。
「今回、郵送の書類につきものだったハンコの捺印は不要としています。ちょうどハンコ不要説が賑やかだったこともあり、われわれもやめたかった。調べてみると、こういう申請に関してどこにもハンコが必要とは書いていなかったので、思い切ってやめています」(松尾氏)
実際、ハンコがなくても申請書の確認には何の支障もなかった。
八尾市役所では、今後の申請案件にもオンライン受付は必須と決めており、郵送など他の選択肢も用意する一方で、問い合わせ等の電話の受付を極力減らせるように、業務システムを見直していくこととしている。また、市民サービスの向上と職員のワークライフバランスを両立させるため、営業時間外の問い合わせにはBotで対応することも考えている。
「テクノロジーよりも前に、いかに前例を疑って不要なものはやめていくのが大事。個人的にも『業務をハックする』ことが大好きで、日頃からそういうネタがないか、職場を見て回っています」と松尾氏は笑った。