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技術もエモも豊作だった「JAWS FESTA 2019」 第6回

IoTからバックエンドまでやっぱり短期間で実現したAWS兄弟の奮闘

個人経営の居酒屋をテックで救えるのか!? 秋田発の居酒屋Hack!

2019年12月26日 07時00分更新

文● 重森大 編集●大谷イビサ

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 JAWS FESTA 2019のタイムテーブルを見ていると、「居酒屋IoT Hack!」という文字が目に飛び込んで来た。実は筆者、お酒が大好き。居酒屋も大好き。居酒屋IoTとは何事ぞと、詳細を追った。すると想定している主な聴講者に「お酒が好きな方。」とある。これはもう聞きに行かざるを得ないではないか。さあ、日本が誇る居酒屋をIoTでどうHackしたのか、合同会社Altirckの三浦 光樹さんのガチIoTセッションをレポートしよう。

合同会社Altirck 三浦 光樹さん

酒好きな技術者が酒好きな友人を助けたいがために取り組む居酒屋Hack

 合同会社Altirckの三浦 光樹さんは、かつて大手電機メーカーでテレビの設計開発に携わっていた。4Kテレビの開発などで先端技術に触れ、広く多くの人を幸せにする製品を送り出していたが、自分の身の回りの人の幸せをアップデートできる仕事をしたいと2019年8月に独立、起業したという。自分で起業したAltrickの理念は「自由闊達にして愉快なる理想の共感 『目の前』からHACKする」というもの。 地域に根ざした小さい開発で、「いなかだから」を言い訳にせず目の前の課題をちゃんと解決し、身近な人を技術で幸せにしたいという思いが込められている。

 ところで三浦さんと言えば、「水曜どうでしょう祭 FESTIVAL in SAPPORO 2019」のライブ配信システムを1ヵ月で構築して見せたHTBの三浦 一樹さんのセッションレポートは読んでいただけただろうか。実はこのふたりの三浦さん、一樹さんが兄で光樹さんが弟、実の兄弟なのだ。なお、この情報はセッション内容にはまったく関係しない。前日に聴講セッションを調整しているときに「あ、それ弟っす」と言われてびっくりしたので、誰かに言っておきたかっただけだ。

 さて、居酒屋IoTである。なにゆえに居酒屋をHackする必要があるのか。それはAltrickの理念で紹介した通り、身近な人を技術で幸せにしたいという思いが結実したがゆえである。

「飲み仲間だった友達が、酒好きが高じて居酒屋を始めました。そうしたら忙しくなって、一緒に飲みに行ってくれなくなりました。その友達を助けたい、居酒屋経営を効率化して遊ぶ時間を持てるようにして、また一緒に飲みに行きたい。それが目的です」(三浦さん)

 対象とする聴講者以前に、三浦さんが酒好きということである。酒好きが、酒好きを助けたい。もうこれだけで美談である。あふれるその想いで胸いっぱいになり、日本酒3合いける。

AWS Loftのハンズオンを経てほぼ一晩でバックエンドを構築してしまった

 そもそも居酒屋経営における課題とは何か。それは個人商店にありがちな課題でありつつ、居酒屋という特殊性も併せ持つ特殊なものだった。たとえば、店主がいないとわからない、対応できない業務が多かったり、店内でしかできない事務業務が多かったりというのは、小規模な個人商店共通の課題と言えるだろう。一方で居酒屋ならではの課題はというと、日本酒の在庫管理が大変ということだ。

「日本酒のほとんどは瓶単位で管理しています。何本あるかというだけではなく、在庫している瓶数と口が開いている瓶の残量までわからないと在庫管理ができません」(三浦さん)

 個人経営の居酒屋である程度ラインナップを揃えようとすれば、あれもこれも何本も在庫しておく訳にはいかない。高価な酒や希少な酒は「何本」ではなく「何本と、何合」という細かい単位で管理せざるを得ない。一方で、商店向けのシステムは「何個」「何本」という単位でしか在庫を管理できず、粒度が合うものがないのだ。なければ作るのが、モノづくりに携わるもののサガである。

「瓶内残量測定デバイスのPoCを作ってみることにしました。重量センサーで残量を量って、zigbeeで飛ばす方法でアプローチしてみました。重量センサーを組み込まれた装置を瓶の底に取り付けておき、残量を量ってzigbeeで送信します。親機はRaspberry Piで組みました。残量センサーごとにバーコードを付けてあり、酒瓶と残量センサー双方のバーコードを読み取れば親機側で銘柄と残量を紐付けられる仕組みです」(三浦さん)

 熱い。量るのは冷蔵庫内の酒だが、アプローチは熱い。いきなりハードウェアのPoCからというのはJAWS-UGではなかなか聞けない話である。AUTODESK社のFUSION360を使えば、構造設計からCAD図面出力までできるうえ、学生、教育機関、スタートアップ企業なら無償利用できる。さらに3Dプリンタも低価格化と高精度化が進んでいる。自宅である程度のPoCが作れるというのは理屈ではわかるが、実際にカタチにできるかどうかはまた別の話だ。

 なお通信にZigbeeを選んだ理由は、WiFiでは消費電力が高すぎ、Bluetoothでは同時接続ノード数が少なすぎるためだという。Zigbeeなら同時接続ノード数は65535。日本中の日本酒を集める規模でもなければ、十分なノード数だ。

「瓶内の残量計測はできるようになりましたが、そのデータをどう処理すればいいのかというところでつまずきました。バックエンドのシステム構築をできるメンバーがAltrickにはいなかったのです」(三浦さん)

 バックエンドをどう構築するか悩んでいたときに、地元を離れ北の地で働く兄が悪魔のように囁いた。「AWSはすごいぞ。これなら誰でもシステム組める」と。もちろん、そう吹き込んだのはAWSに心酔して自らもシステム構築に向かおうとしていた三浦 一樹さんだ。

「兄からAWSの話を聞き、ネットで検索してみると、ちょうどAWS LoftでIoTハンズオンが開催されるところでした。早速申し込んでハンズオンに参加、言われるままにハンズオンをこなして、忘れないうちにと参加したメンバーみんなでAWSをいじっていたら、一晩でバックエンドがほとんど完成していました」(三浦さん)

 こうしてバックエンド構築の課題もブレイクスルーした。

フィールドテストがスタート、酒好きの友人と飲みに行ける日まで挑戦は終わらない

 バックエンドの課題をクリアしたところから、またハードウェアへと話題は戻る。3Dプリンタで試作はできるが、しっかりしたものを作るためには金型を起こし、樹脂加工を発注する必要がある。ここでは樹脂部品外注サービスのPROTOLABSや、Alibabaのビジネスマッチングを活用した。

「PROTOLABSでは1個から1万個くらいまでの樹脂部品を日本の10分の1くらいの価格で発注できます。使う金型はAlibabaのビジネスマッチングで紹介された企業に依頼しました。RFQを投稿すると審査を経て、マッチングされた企業から見積が来るのですが、これも日本より格段に安く早く対応してもらえます」(三浦さん)

ものづくりで役だったPROTOLABやAlibabaのサービス

 こうして作った樹脂部品に重量センサー、zigbee通信基盤などを組み込んで瓶内残量センサーのテスト版が完成した。構想から金型製作を経て試作品が完成するまでにかかった期間は約1ヵ月とのこと。三浦兄弟の手にかかれば、たいていのものは1ヵ月でできてしまうのだろうか。魔法使いのような兄弟だ。

「瓶内の残量を墓って管理できる仕組みはできたので、これから実際に友人の居酒屋でフィールドテストを行ないます。ゆくゆくは、日本酒の在庫からメニューを提案できるような仕組みも組み込んでいきたいと考えています」(三浦さん)

 個人経営の居酒屋では、日々のメニューを考えるのも大変なのだそうだ。日本酒、食材の在庫から、その日のお勧めメニューを考えなければならない。しかし、ある程度定番メニューが決まってくれば、在庫管理システムからメニュー提案も可能になる。そうすれば経営者である三浦さんの友人も準備作業にかかる時間を削減でき、また三浦さんと飲みに行けるようになることだろう。

「独学でもできないことはなかったと思いますが、AWS Loftのハンズオンがなかったらこのスピード感ではここまでくることはできなかったでしょう。日本酒に関わる人を助けたい。もっとおいしい日本酒を全国で飲みたい。同じように考える人がいたら、協力してください!」(三浦さん)

 そういって最後に友人の居酒屋とAWS Loftの宣伝をした。友人の居酒屋は秋田県秋田市にあるという。IoTテストフィールドの実地調査のためにぜひ訪れたいものだ。できれば編集部の経費で。

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