クラウド化によってネットワークが仮想化されるといっても、物理的なケーブルがまったくなくなる訳ではない。クラウドとオフィスを結ぶのは従来通り光通信網であり、インターネットをメッシュ状に結んでいるのも、世界中に敷き詰められたメタルや光ケーブルだ。それらのネットワークがどのように結ばれているのか、また今後どのように変わっていこうとしているのか。NW-JAWSに登壇したNTTコミュニケーションズのエバンジェリストふたりが、解きほぐして説明してくれた。
世界のマーケットで通信事業者がAWSと協力、ネットワークを拡大している
NTTコミュニケーションズから登壇したのは、林 雅之さんと飛岡 良明さん。クラウドサービスのエバンジェリストとして活動するふたりだ。「世界のネットワーク事業社の最新AWSサービス動向と今後の予想」というタイトルで前半を受け持ったのは林さん。書籍の執筆や講演も多い林さんは全産業を横断するテクノロジーロードマップの作成にも携わっており、2019年から2028年までの10年間に起きる変化を予想している。こちらは書籍で60万円で販売されているとのことなので、軽い興味で手にするものではなく、テクノロジーこそコアコンピタンスと考える企業向けに網羅的に構成されたもののようだ。
さて本題は、世界のネットワーク事業社がAWSとどのように協力体制を築き、ネットワークを構築しているかという点だ。「NTTコミュニケーションズは、ソフトバンク、Facebook、Amazon、PLDT、PCCW Globalの6社からなるコンソーシアムを設立して、アジア・米国間に大容量光ケーブル『JUPITER』を敷設しています。世界の通信の99%は海底ケーブルを通っており、トラフィックは増加の一途です」と林さんは説明。また、アジア圏以外でも、アメリカではAT&Tやベライゾン、ヨーロッパではブリティッシュテレコムがAWSと協業してネットワークの増強を進めており、世界のマーケットでAWSと通信事業者の戦略的な連携が広がっていると林さんは語った。
「クラウド、データセンター、エッジ、そしてネットワーク。それぞれの境界線がわかりにくくなってきているとも感じています。Data Drivenのインフラをシームレスに提供するイメージが強くなっており、呼称にもゆらぎが見られます。一番簡単に言うならIaaSでしょうが、Self-Driving Infrastructure、Intelligent Infrastructure、Autonomous Infrastructureなどの各社がさまざまに呼んでいます」(林さん)
いずれのネーミングにも共通するのは、Networkという単語ではなく、Infrastructureとしてより広いレイヤーをカバーする単語が使われていることだ。林さんはそれに触れて、「ネットワークよりも、もっと広くInfrastructureが存在感を示していく時代がきたのでは」と語って、飛岡さんにバトンタッチした。
ネットワークの普遍的な価値である「安く、早く、旨い」をキャリアは追求
飛岡さんは「ネットワーク事業社のAWS接続サービス動向」と題して、ユーザーを取り巻くIT環境の変化や、そもそもネットワークが普遍的に提供しなければならないものについて語った。ちなみに自己紹介ページ「興味分野:ネットワークとソフトウェアの融合」と書いておきつつ、一番下段に「好きな言葉:結局物理」と書いてあったのが印象的だった。レイヤー1が正常でなければ、どんな高機能なITも役に立たないのだから、共感しかなかった。
「エンタープライズユーザーのネットワークはどんどん複雑になっています。しかし、ネットワークへの普遍的な要求に変化はありません。安く、早く、旨く。この3点です」(飛岡さん)
安く、早く、旨くという3点は飲食店に求められる要望だ。これをネットワークに当てはめると、「旨く」の部分は品質に当たると飛岡さんは説明した。安く、早く簡単につなげられるだけではなく、品質はやはり重視されていると言う。
「クラウドに接続するだけなら、簡単でシンプルになっています。その中でどこに時間とお金がかかるのかと言えば、物理回線の引き込み、キャリアへのオーダー、帯域の確保、ルーターの設定などです」(飛岡さん)
物理的な装置や、現場での作業を伴うものは人間の能力を超えて飛躍的に短時間化できない。また、クラウドになりそれぞれのエンジニアが見なければならない範囲が広がっていることも課題だという。
「クラウドではサーバーエンジニアがネットワーク設定まで見なければならないことが増えました。ネットワークの設定ではBGPというプロトコルを使うのですが、これがネットワーク屋にはなじみ深いけれど、サーバー屋にはわかりにくいのです」(飛岡さん)
そうした現状で、キャリアとして何ができるのか。ネットワークが提供すべき普遍的価値をどう高めていけるのか。飛岡さんは「物理設備を最適な場所に事前配備しておくこと、物理設備をユーザー同士で共用することで費用削減していくこと」と述べた。事前に回線が近くまで来ていれば開通までの時間は短縮できる。またAWS Direct Connect PartnerになることでAWSに接続したいユーザー同士でNTTコミュニケーションズの設備を共用してもらい、コストを低く抑えられる。
「安く、早く」はこうした努力で解決できるが、「旨く」の部分はなかなか難しい。なぜなら、全員が「高くてもいいから旨いものが欲しい」ユーザーとは限らないからだ。クラウドへの接続方法はインターネット経由、インターネットVPN、IP-VPN、Direct Connectといろいろな方法がある。インターネットを使う接続方法でも最近は速度を確保できるようになっているが、遅延のばらつぎがありミッションクリティカルな用途には向かない。一方で閉域網として使えるIP-VPNやDirect Connectは高速で低遅延の通信を安定的に提供できるが、概して高価だ。ここらへんの選択はクラウド時代になっても変わらない。
「安くてそれなりでいいシステムもあるし、高くてもいいから品質を追求しなければならないシステムもあります。どちらも年々品質が向上していますが、違うものであることを理解して、自社に適したものを選ぶ必要があります」(飛岡さん)
ネットワーク事業者としてより早く、より安く、より旨くつながるネットワークを求めてチャレンジは続けるが、利用者側も自社のビジネス要件をしっかり理解した上で最適なシステムをつくってほしいと語って、飛岡さんはセッションを締めくくった。