経費管理のデジタル化で「450億円相当の生産性向上」可能、国内公共機関向けビジネスを強化へ
官公庁や大学の“紙とハンコ”経費処理を改革、コンカーが支援策
2019年04月22日 07時00分更新
経費精算/管理SaaSのコンカーは2019年4月19日、国内公共機関における経費管理プロセス改革を支援するため、同社のソリューションを利用した実証実験(POC)環境を、先着10団体に対して無償で提供することを発表した。請求書管理クラウド、経費精算/管理クラウド、出張管理クラウドを提供し、経費管理の効率化/ペーパーレス化推進を支援するもの。
同日の記者説明会ではコンカー代表取締役社長の三村真宗氏らが出席し、これまでの民間企業を中心としたビジネス展開に加えて、新たに公共機関向けビジネスも強化していく方針を示した。コンカーの試算によると、国内公共機関における経費管理のデジタル化と高度化を通じて「年間450億円相当の生産性向上」が可能になるという。
「紙と目検、押印、人的依存」の公共機関を改革せよ
今回発表された公共機関向け実証実験プログラムの対象となるのは、学校法人、中央省庁、地方自治体、独立行政法人、病院など。請求書管理クラウドの「Concur Invoice」、経費精算・管理クラウドの「Concur Expense」、出張管理クラウドの「Concur Travel」を提供し、経費管理の効率化やペーパーレス化を推進する。三村氏によると、すでに大分市が同実証実験への参加を検討しているほか、私立大学が5月以降、コンカーを利用した研究費管理の高度化に向けた実証実験を開始する予定だ。
コンカーの経費管理ソリューションは現在、国内で905の企業グループに導入されている。SaaS型経費精算ツールの国内市場においては50.5%のシェアを獲得しており、国内大手企業では4割でコンカーが利用されている。現在は中小企業向けビジネスにも注力している。
さらにコンカーでは、2019年度のビジネス戦略の新たな軸として公共機関向けビジネスを強化する方針。すでに今年1月には公共機関を専門とする組織を新設しており、今回の無償トライアル提供を通じて公共機関での採用を促進し、公共機関における間接業務のデジタル化に弾みを付ける。
「これまで公共機関向けの体制を作ることができなかったが、今後は力を入れていく。コンカーは米国防総省をはじめとする政府機関でも採用されており、公共機関においても高い実績を持つ。こうしたノウハウを活用したい」(三村氏)
米国防総省では、出張管理システム(Defense Travel System)の刷新にあたって、プロトタイプ開発にコンカーを導入。低価格航空券の利用を徹底することでコストを削減したほか、担当者が出張予約などに費やす時間を1000万時間削減したうえで、監査条件にも合致した作業が実現している。また、オーストラリア統計局ではコンプライアンス遵守率を99%以上に改善したほか、ANSTO(オーストラリア原子力科学技術機構)においても経費の可視化とコンプライアンスの向上を実現したという。
同社 インダストリー営業本部 本部長の橋本祥生氏は、実証実験環境を提供する理由について、「公共機関の間接業務をデジタル化できるのか、どれくらいの生産性向上が図れるのかを検証したいという声が多いため」だと説明した。
「民間企業と比較すると、公共機関には紙(書類)や目検(目視検査)、押印に基づく業務プロセスが数多く残っており、オペレーションは人的作業に依存している。経費支出のガバナンスを重視しているが、その適正性を担保する仕組みも人であり、そこに人的作業が増える原因がある」(橋本氏)
コンカーのConcur InvoiceやConcur Expenseでは、複合機やスキャナー、スマートフォンカメラ(モバイルアプリ)で電子化した請求書/領収書データを集中管理することでペーパーレス化が進むほか、一連の承認フローはすべてクラウド上で管理できる。また規程チェックを自動化することで、承認者や経理担当者の管理業務が削減され、業務効率化が進む。「手入力を削減することで、外出の多い教職員や研究員、医師などの生産性向上が期待できる」(橋本氏)。
さらにConcur Invoice上で請求書/領収書データを保管し、検索可能にすることで、監査対応の負担も大幅に削減すると同時に、大量の紙証憑を保管するコストもなくすことができる。Concur Travelを組み合わせることで、出張規程に適合した出張手配が徹底できるため、出張コストの削減とガバナンス強化も両立できるという。
間接業務のデジタル化は「経営層の問題意識に大きな格差」あり
三村氏は、直接業務のデジタル化が「待ったなしで進んでいる」一方で、間接業務のデジタル化に対しては「(各企業で)経営層の問題意識に大きな差が開いている」と指摘した。「間接業務のデジタル化が進まないために、経営の足を引っ張っている例もある。ある証券会社では、領収書などの書類9000箱を7年間保管するために、年間5億円の費用をかけている」(三村氏)。
コンカーのソリューションによって、これまでの紙の領収書/請求書をすべて手作業で処理する「A2A(アナログ トゥ アナログ)」を、紙を使いながら作業をデジタル化する「A2D(アナログ トゥ デジタル)」へ、そしてすべてをデジタル化する「D2D(デジタル トゥ デジタル)」へ進化させたいと三村氏は語る。すでにコンカーユーザーの70社では「D2D」段階が実現しており、導入開始企業/検討中企業をあわせると520社に達する。D2Dによって「請求書処理の工数は最大79%が削減できる」と三村氏は説明した。
A2DからD2Dへ進化するためには、領収書や請求書をデジタルデータで取得する必要がある。コンカーではJR東日本と協業し、「Suica」のデータサーバーとSAP Concurサーバーを自動連携する計画を進めている。これにより、Suicaで改札を通過したり、タクシー料金をSuicaで支払ったりするだけで経費精算が完了するようになる。三村氏は「2020年を目標にサービスを開始したい」と目標を語った。
さらにAI技術の適用も計画しているという。親会社であるSAPが持つ「SAP Leonardo」を組み込み、レシート画像から金額や種別、日付、取引先、通貨の経費明細データを自動生成する機能、「Office 365」連携によりメール受信した領収証/請求書などを自動取り込みする機能、「Slack」上の自然言語によるコマンド入力でリアルタイムに経費情報を取り込める機能などが可能になるという。さらに不正検知、リスク管理、出張計画支援などにもAI技術が活用できる可能性がある。