このページの本文へ

前へ 1 2 次へ

「大根」が「鯛とコーン」になってしまうAlexaとの対話を乗り越えて

Alexaと呼ばれた男が語るクックパッドのスキル開発

2019年04月19日 07時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

 神戸で開催された「Alexa Day 2019」にはスマートスピーカーのスキル開発を続けてきたクックパッドの山田良明さんが登壇。VUIや音声アシスタントのメリット・デメリット、スキル開発の苦労や楽しさをぎゅっと凝縮したセッションだった。

クックパッド 研究開発部 山田良明さん

スマートスピーカーはキッチンで使われる

 2016年にクックパッドに入社して以来、同社の研究開発部でスマートスピーカー向けのサービス開発を担当している山田良明さん。まずはクックパッドが現在提供しているスマートスピーカー向けスキルについて説明する。

 クックパッドのAlexaスキルは使いたい料理や材料を検索し、作り方の手順をステップバイステップで解説してくれるというもの。「豚肉とキャベツのレシピを教えて」と聞くと、いろいろな料理を提示してくれ、作りたいモノを選ぶと、レシピを読み上げたり、動画を再生してくれる。昨年末にはスペイン語のAlexaスキルをリリースしたほか、3月にはLINE Clova向けにもスキルを提供。Alexaだけではなく、Google Assistant、LINE Clovaのすべての音声アシスタントにサービスを提供しているのがクックパッドの特徴だ。

現在のクックパッドのスキル

 クックパッドがここまでVUI(Voice User Interface)に本気なのは、料理との親和性が高いからにほかならない。使いたい瞬間に操作が実行できる「情報の入出力の早さ」、キッチンで両手がふさがっていても使いやすい「ハンズフリー」といったメリットのほか、キーボードやボタンも不要で、手の届くところもデバイスがなくても済む「物理的な制約をいろいろ気にしなくてもいい」というメリットが強みだ。

 山田さんは、「高機能なレンジは調理モードが何個もあるが、表示領域が小さいので、数字だけではなんのモードかわからない。インプットも、さまざまなボタンを駆使しなければ操作できない」と指摘する。これに対してVUIであれば、こういった制約を取っ払い、「お肉を解凍して」や「蒸し焼きにして」と語りかければ済む。料理はもちろん、運動中、車の運転中、化粧中や着替え中でも、音声であればストレスなく操作することが可能だ。こうした自由な使い方ができるのが、VUIや音声アシスタントの強みと言うわけだ。

 逆にVUIには「一覧性に乏しい」「情報のフィルタリングが難しい」といった弱みもある。視覚的な情報と比較して、音声はインプットできる情報が少なく、流し読みも難しいため、必要なものをフィルタリングするのも難しい。「情報が読み上げられても、頭に入ってこないため、複数の選択肢から1つを選ぶ操作が難しい」(山田さん)。また、『全体のインタクションはそこまで早くない」というのも課題。「アプリを起動して、操作するのに比べて、確かに情報の入出力は早くなるが、全体のインタラクションを見た場合は相当工夫しないとは早くならない」とは山田さんの弁だ。

重要なのは「忘れ去られないサービス」を作ること

 機能面とは別の角度から見ても、料理とスマートスピーカーは親和性が高い。VOICEBOT.AIというメディアの調査では、スマートスピーカーが置かれる場所の上位は、キッチン、リビング、ベッドルームという順位になるという。これがクックパッドはスマートスピーカーにフォーカスしている理由だ。

スマートスピーカーが置かれる場所の上位はキッチン、リビング、ベッドルーム

 一方で、使われる機能は「定番の質問」「天気を聞く」「音楽を聴く」「タイマー」が上位。「キッチンにスマートスピーカーが置かれていても、多くの人は音楽を聴くか、タイマーをかけるくらいがほとんどだと思う。実際、僕自身も台所で一番使うのはAmazon Prime Videoの再生。1週間の作り置きするときに、ビデオを流すと楽しい(笑)」(山田さん)。ちなみにスマートホームでの音声操作は現時点では低いが、利用頻度だけは上位とほぼ同じだという。「チャレンジする人は少ないけど、定着は高いと思う」と山田さんは持論を披露する。

 登場当初からスマートスピーカーに向き合ってきたクックパッドだが、やり続けるのはけっこう大変だ。生まれたばかりの市場で、機能面でも発展途上とはいえ、現時点でのスマートスピーカー向けのサービスのリテンション率は3%。モバイルアプリが一般的に10~12%なので、かなり低いと言わざるをえない。

 山田さんは「スマホと違ってサービスがビジュアルで見えないので、一度存在を忘れられると、使ってもらえない可能性が高い」と分析する。だから、日常的に使い続けてもらうサービスを作る必要がある。「忘れられたらダメなのであれば、忘れられないサービスを作るという。まあ、それができたら苦労しないのですが(笑)」(山田さん)。

前へ 1 2 次へ

カテゴリートップへ