ザ・Azureワールド!Microsoft Tech Summit 2018レポート 第4回
日本ユニシス、ALIS、コンセンサス・ベイスが事例紹介
国内でもビジネス活用が広がるAzure×ブロックチェーン
2018年11月19日 07時30分更新
日本マイクロソフトは2018年11月5日~7日、ザ・プリンスパークタワー東京でインフラエンジニア向け年次イベント「Tech Summit 2018」を開催。今年は170を超える技術セッションが用意された。その中から、本稿では、Microsoft Azure×ブロックチェーンの国内事例を紹介するセッション「Azure Blockchain as a Serviceの動向と活用」の概要を紹介する。
Azure上ではブロックチェーンテンプレートを提供
改めてブロックチェーンとは、「電子署名」技術と「分散/P2P」ネットワーク内で、「コンセンサス」(合意形成)により確定されたデータを共有することで、改ざんが事実上不可能で一意な「台帳」を作る技術。この、「電子署名」「分散/P2P」「コンセンサスとデータの共有」「台帳」の4つが特徴である。
日本マイクロソフト インテリジェントクラウド事業本部 Azure Tech Solutions Professionalの廣瀬一海氏は、ブロックチェーンこれを従来の4枚つづりの契約書に例えて、「カーボン用紙の契約書があるとして、カーボン用紙の1枚目は自分、2枚目は相手が所有する。3枚目は銀行、4枚目は火災保険などの申請書に用いられるとする。ここで、4者は1枚のデータを皆で共有している。これと同様に、ブロックチェーンはP2Pと電子鍵で同一の内容を共有し、データは書き換え不可能というもの」と説明した。
マイクロソフトは、パブリッククラウドのAzure上にブロックチェーンを展開するための豊富なテンプレートを用意している。Azure Marleplaceをのぞくと、Azureマーケットプレースをのぞくとシングルノード用やマルチノード用、ツール群など多岐にわたる。直近3カ月では、「Ethereum Proof-of-Authority」や「R3 Corda Enterprise 3.1」、「GoChain Single Node Blockchain - Developer Edition/Enterprise Edition」、「Hyperledger Fabric Consortium」などが加わった。さらにブロックチェーンの展開を容易にする「Blockchain Workbench」(関連記事)も、現時点ではプレビューではあるが、展開の高速化やモニタリング機能を強化しつつ、着々とバージョンを重ねている。
廣瀬氏は、「Azure×ブロックチェーンは熟成期を迎え、次のフェーズへ進んでいる。国内でもブロックチェーンを活用したプロジェクトの多くがAzure上で稼働中だ。個人の肌感覚だが、エンタープライズ領域にはブロックチェーンの波が到来しており、我々は気づかないうちに利用している」と述べ、ブロックチェーンが技術フェーズからビジネスフェーズに移り変わっていることを強調した。「マイクロソフトは様々な台帳をサポートすると同時に、台帳へ依存しないブロックチェーン機能の構築を進めている」(廣瀬氏)。
海外事例に目を向けると、2018年10月にはSWIFT(国際銀行間通信協会)の基盤をAzureでホスティングし、クラウドベースで支払いを行うPoC(概念実証)の事例が発表されている。今後、マイクロソフトとSWIFTは、銀行やペイメントサービス提供企業などエコシステムの展開を促進するとしている。またNASDAQも、NFF(Nasdaq Financial Framework)をAzure上のブロックチェーンと統合したことを発表している。
増えつつある日本のブロックチェーン事例
同セッションでは、日本国内でのAzure×ブロックチェーンの事例が紹介された。
早期からブロックチェーンに取り組んできた日本ユニシスは、2017年6月に、鹿児島銀行 事務センター内の行員食堂・売店におけるキャッシュレス決済、および資金移動のPoCに参画。2018年3月には金融機関10社と共に、海外の機関投資家向けに有価証券投資の情報共有でリードラインの短縮を図る実証を実施した。さらに2018年10月には関西電力、東京大学、三菱UFJ銀行と共にブロックチェーンを用いて電力売買の直接取引を行うPoCを行った。また2018年11月には会津大学と地域商店街でのブロックチェーン実証にも参加している(関連記事)。
ALISの「投げ銭API」
個人が投稿した記事を参加者が評価するスタイルのソーシャルメディア「ALIS」を運営するALISは、記事で「いいね!」を獲得した投稿者と、「いいね!」をつけた読者にALISトークンを配布する仕組みを構築した。ALIS CEO 安昌浩氏は、「アウトプットを続けることは難しい。信頼できる“いいね!”のトークン報償とユーザーフィードバックでモチベーションを高める報酬体系だ」と説明する。
ALISは現在クローズドベータ中だが、2018年4月下旬から9月中旬までの集計結果を見ると、アクティブユーザー数は2500人程度ながらも、1万7千件の記事投稿に対して65万件の「いいね!」を集めた。
同社は現在、Azure上に展開したEthereumのProof-of-Authority(権限)を用いた「投げ銭API MVP実装」を展開中だ。利用時の手数料ゼロでメインネットと同様に動作し、トークンの一括管理や送受金、発行を簡易化するERC20トークンの採用といった特徴を持つ。「ALISは15人程度のベンチャー企業のため、セキュリティや保守をAzureに任せられるのは大きい。投げ銭APIを使えば既存のWebサイトにボタンを挿入するだけで、ALISや他のトークンに対応できる。既存サービスとは異なるサイト運営費用の算段や分析データの取得が可能だ」(安氏)。同社では現在、投げ銭APIの実験を行うパートナーを募集している。
コンセンサス・ベイスの「ICO Launchdesk」
ブロックチェーン専門のコンサルティングや開発事業を行うコンセンサス・ベイスは、ICOパッケージ「ICO Launchdesk」を2018年11月から提供している。ICO(Initial Coin Offering)は、トークンを新規発行して資金を調達する方法であり、クラウドファンディング的な性質を持つ。ICO情報サイトCoinScheduleによれば、2016年代には数件だったICO実施件数が、2018年に入り一気に3桁まで伸び上がり、以降も増加傾向にある。「ビットコイン価格の下落や、各国における規制の先行き不透明さから幾分落ち着きを見せているが、ICOは海外で大きな注目を集めている」(コンセンサス・ベイス 代表取締役/CEO 志茂博氏)。
ICOのメリットについて、志茂氏は、「資金が集まるか否か、その過程で投資家の反応を見ることで、事業モデルの精査ができる。また、トークン投資家は初期顧客の獲得につながり、トークンエコノミーの構築で顧客のサービス参加とトークン価値の向上といった好循環を生む」と説明した。その一方で、ICOの開発には数カ月を要し、計画策定からサービスローンチまでは数年に至るケースもあるという。これらの課題を解決するために、同社が用意したのが、トークン発行や売買を簡単に行うことができるICO Launchdeskだ。
ICO Launchdeskは、Azure上のAKS(Azure Kubernetes Service)上で動作し、Go実装のEthereumクライアントであるGeth経由でEthereumとやり取りしながら、トークン管理を行う。デモンストレーションでは、送金先アドレスやロックアップ終了日、売り出し比率や価格・期間などを登録するだけで準備が完了し、売買状況などもダッシュボードを通じて把握できる様子を紹介した。
コンセンサス・ベイスの今後の展開として、志茂氏は、「(証券の要件に合致する)STO(Security Token Offering)やトレーディングカード、ゲーム内アイテムなどデジタルアセットのトークン発行プラットフォームを目指す」と述べた。
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このように、国内でもAzure×ブロックチェーンの事例が増えつつある。日本マイクロソフト 廣瀬氏は、「当社はスタートアップやSIerと共に数々のブロックチェーンプロジェクトを成功させてきた。スタートアップは一緒に活動を、エンタープライズはブロックチェーン活用を一緒に思案しよう」とセッションを締めくくった。尚、2018年11月19日~20日に都内で開催される国際ブロックチェーンカンファレンス「NodeTokyo2018」でも、日本マイクロソフトのブロックチェーン事例が紹介される予定だ(開発者、学生は無料)。
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