eスポーツ世界大会や海外リーグでの活躍、ゲーム配信を行なうストリーマー部門の人気ぶりなど、eスポーツシーンで大きな存在感を発揮し続けているプロゲーミングチーム「DeToNator」(デトネーター)。ASUS JAPAN株式会社とのスポンサー契約を締結しており、自作PCに関わるイベントなどの取り組みにも積極的だ(参考記事)。
そんなDeToNator所属メンバーの中でも本格派の自作PCユーザーとして知られるのが、FPSタイトルでの世界大会出場経験を持つsiorin(シオリン)氏。以前、ASCII.jpのインタビューでも「自作PCの魅力を伝えたい」という思いを語っていただいたが(参考記事)、このたび自作PCの魅力を広める活動の一環として、ASUS協力のもと自作PC教室を実施することになったという。さっそく取材してきた。
siorin氏の指導のもと、未経験者がPC自作に挑戦!
今回の自作PC教室はsiorin氏が教師役を務め、生徒役として同じくDeToNator所属のストリーマーStylishNoob(スタイリッシュヌーブ)氏と、漫画家として活躍するミツコさんの2人を招いて実施された。ミツコさんは日頃からDeToNatorメンバーの配信を視聴しているディープなファンガールとのことで、5月に実施された国内最大級のLANパーティーイベント「C4LAN」にも参戦してレポート漫画を描くなどしており、その縁でこの企画に参加することになったそうだ。
現役ストリーマーであるStylishNoob氏は「グラボや電源の付け替えだけなら」経験があるものの、2人とも完全な自作PC組み立ては初めて。「自作PC」というと、やたらとハードルの高いイメージがつきものだが、siorin氏は「まったくの初心者でも、組み立て方さえ分かれば難しい作業は多くないので、今日の自作を通してそのことを伝えたい」と、さっそく先生らしいコメントをしてくれた。以下に組み立ての経緯をレポートしていくが、自作PCを組んでみたいという方の参考になれば幸いだ。
なお、自作PCの手順に「これが正解」という手順はないが、今回はsiorin氏の自作手順を参考に進行している。これからPCを組みたいという人も参考にしてみてほしい。
手順① CPUの取り付け
CPUの取り付けは、自作PCを組み上げる際にもっとも慎重さが求められる部分となる。まずはマザーボードとCPUを箱から取り出し、マザーボード上のCPU固定フックを上げ、CPUをソケットピン上に乗せる。CPUには向きがあるので、切り欠きをよく確認してから設置する必要がある。CPUを配置できたら、固定フックを元の位置にひっかける。これでCPUの取り付けは完了だ。
最初の作業ということもあり、生徒役の2人はかなり慎重になっていたが、「大丈夫ですか? マザーが静電気で爆発しませんか?」と怯えつつもStylishNoob氏が無事にCPUをセット。CPUの固定フックをひっかけるところで力加減にやや戸惑ったものの、きっちりCPUを固定できた。ミツコさんは「こういうの、半田ごてとか必要なのかと思ってました……」と感心していたが、PC自作は基本的にはパーツと配線の抜き差し、ネジ止めで完結する。「僕も最初はパーツ自体を作るのかと思ってました(siorin氏)」という言葉の通り、自作と言えばやたらと難しく聞こえがちだが、実際はプラモデルのような感覚で組み上げることができるのだ。
手順② メモリーの取り付け
CPUを取り付けたら、次はメモリーを取り付ける。メモリーを挿し込む位置は、今回のようにメモリーを2枚1組で運用する場合、スロットA1(DIMM_A1)とスロットB1(DIMM_B1)に挿し込むのがベターなので、適当に挿してしまわないよう気をつける必要がある。取り付けは、メモリースロット横のロックを外し、メモリーの方向がスロット端子部分の切り欠きに合うよう挿し込む。方向を間違っているとそもそも挿し込めないので、このあたりはあまり考えすぎる必要はない。しっかりと奥まで差し込めばスロット横のロックが自動で元に戻り、挿し込み完了だ。
ミツコさんは慎重になるあまり、上手くメモリーをスロットに挿し込めずにいたが、メモリーをしっかり挿し込むためにそれなりに力が必要となる。「グッと押し込んでください」というsiorin氏のアドバイスのもと、メモリーの両端を両手の親指できっちり押し込み、無事に装着できた。
手順③ マザーボードをPCケースに取り付ける
当初の手順ではマザーボードにCPUクーラーを先に取り付ける予定だったが、「ネジ止めが難しくなりそう」というsiorin氏の判断により、先にPCケースにマザーボードをネジ止めすることに。
まずはPCケースのサイドパネルを外し、作業しやすいように横に寝かせる。その後、マザーボードに付属するバックパネル(I/Oパネル)をPCケースの背面にしっかりとはめ、マザーボードをネジ穴に沿って配置する(今回はバックパネルがマザーボードに一体化していたため、手順を省略)。ネジはまずゆるめに仮止めをし、対角線上に少しずつ締めていくといい。最初に一ヵ所だけを締め過ぎると、他のネジ穴とボードの穴が合わなくなったりもするので気を付ける必要がある。
ここはStylishNoob氏がネジ止めを担当したが、鮮やかなドライバーさばきを見せるだけにとどまらず、誰に言われるまでもなく対角線のネジ止めを実践。「昔ぼく電工(電気工事士)やってたんで」と意外な特技を披露し、スムーズに取り付けを完了していた。
手順④ CPUクーラーの取り付け
CPUクーラーはCPUに付属する場合もあるが、今回は別売のCPUクーラーを用意している。細かい取り付け方はメーカーによって異なるため、説明書をしっかり読むのが基本だ。今回はマザーボードの背面にバックプレートを装着し、CPUにグリスを塗ってから前面にCPUクーラーを装着してCPUを挟み込む、という手順で取り付けを行った。上手く取り付けられたら、ファンのコネクターをマザーボード上の『CPU FAN』と書かれたピンに挿し込んでおこう。これを差さないとファンが回らず、PCが起動しない場合があるので注意だ。
「空冷クーラーの取り付けは手を切りやすいので気を付けてください。僕も一回切りました」というsiorin氏のアドバイスのもと、StylishNoob氏が取り付けに挑戦。「これ(ファン)パソコンの中で回ってるやつだわ~」と言いながらネジ類を取り付けていくが、PCケースの中で何度もネジを落としてしまうというハプニングに遭遇。よくあることだが、いったん落としてしまうとネジを取り出すのは結構大変なので、なるべく慎重に作業したいところだ。
CPUとクーラーの間で熱を伝えやすくするCPUグリスだが、これも塗り方は人によってまちまち。siorin氏は「CPUの四隅と真ん中に少し塗って広げる」塗り方をしているそうで、生徒2人もそれにならうことに。CPUにグリスを塗り広げるミツコさんは、日頃のベタ塗り(編注:漫画原稿の影などを黒で塗りつぶす作業)を思い出したのか、「この作業好きかもしれません、得意分野です」と一言。
その後、「AIMが合わない」とネジ締めに苦しみながらも、なんとか説明書通りにCPUクーラーを取り付けたStylishNoob氏。「これ大変だな」と感想を漏らすと、siorin氏も「ここが一番大変。いつも汗だくになる」と同意。ケガをすることもあるので、焦らず慎重に取り付けていくのがいいだろう。
手順⑤ 電源ユニットの取り付け
電源ユニットはPCケースに入れ、背面部分にネジ止めを行なうだけだ。今回はケーブルを取り外せるモジュラー方式を採用した電源ユニットを使ったため、メイン電源を供給するATX24ピン端子、CPU補助電源の8ピン(4+4ピン)端子、グラボの補助電源の8ピン(6+2ピン)、SSDの電源用のSATA電源ケーブル、計4本のケーブルを装着している。
ここまでくると生徒役の2人も慣れてきたのか、かなりスムーズに作業をこなせるように。電源ユニットの位置はPCケースによって異なるが、今回はケース上部への配置なので、ミツコさんがケースのネジ穴に合わせてしっかりとユニットを挿し込み、ネジ止めした。
手順⑥ SSDの取り付け
SSDやHDDは、ケース内の該当するトレイやベイ部分などにネジで固定する。今回用意したPCケースの場合、マザーボード横のトレイ、あるいは背面のシャドウベイにネジ止めする方式だった。手順としてはいったんトレイを外してSSDをネジ止めし、元の位置に戻すだけと簡単だ。あとの配線を気にする場合、端子の差し込み口をケース奥側に回しておくと、後でケーブルをすっきりまとめられるだろう。
SSDの取り付け位置は明確な正解がないものの、ミツコさんの「どっちがいいと思います?」という質問を皮切りに、全員が相談する展開に。結局、StylishNoob氏の「スペースに余裕があるし、裏につけないともったいない気がする」という意見が採用され、背面シャドウベイにSSDを固定することとなった。
手順⑦ 配線
ここまで来たらあと一息、配線だ。付属のケーブルを使い、各パーツを接続していく。とにかくケーブルの種類が多く、見た目には分かりづらいものもあるので、落ち着いて取り組もう。
マザーボードと電源ユニットは、ATX電源コネクター(24ピン)、CPUの補助電源となるEPS12V(4+4ピン)の2つを接続。どこに挿し込めばいいかはマザーボードのマニュアルに書いてあるので、参照してほしい。また、挿し込む方向が決まっているので、うまく挿さらないと思ったら端子部分をひっくり返して再度挑戦してみるといい。ストレージは電源ケーブルのほか、マザーボードに付属するSATAケーブルを差し、マザーボードと接続する必要がある。コネクター部分がL字になっているので、向きなども分かりやすいはず。また、ケースから伸びているフロントパネルコネクター(電源ボタン、電源LEDなどのコネクター)の接続まわりは多少ややこしいので、よく説明書を確認しよう。
「複雑そうに見えますけど、どう挿すかは見てるとなんとなく分かりますね。親切です」とコメントしたのはStylishNoob氏だ。siorin氏は「できれば配線のきれいさにもこだわって欲しい。センスが必要だけど見栄えや冷却もよくなる」とアドバイスした。配線がゴチャゴチャしすぎるとPCケース内のエアフロー(空気の通り道)にも影響が出るため、ケーブルをまとめる、配線をケース裏側に通す裏配線を駆使するなど、自分で試す場合はいろいろとやり方を検討してみてほしい。
ここでケーブルをまとめたのはミツコさん。整った配線を見たStylishNoob氏は、「しっかりしたショップで買うとこんな感じのやつが来ますよね。売れますねコレ」と太鼓判を押した。
⑧グラフィックスボードの取り付け
最後はグラフィックスボードの取り付けだ。この工程を最後にもってきたsiorin氏は、「グラボを先に入れてしまうと配線が面倒になることが多い」とこだわりを見せる。取り付けマザーボードのPCI Expressスロットに向きを合わせて挿し込み、ネジで固定するだけだ。PCケース背面のスロットカバーのネジを外す必要があるが、単純に上から外すとマザーの取り付け位置と合わなかったりするので、確認してから取り外そう。
こちらもメモリー同様、しっかりとスロットに挿しこむ必要がある。最後にグラボをケースにネジ止めし、残った補助電源ピンを挿しこんで、無事に組み立てが完了した。
無事完成!!!PUBGも動いた!!!
完成したPCは、特に何事もなく無事に起動。OSをインストールし、実際に『PUBG』をプレイしたが、GTX 1060を搭載したミドルクラスのゲーミングPCということで、非常に快適に動作していたようだ。
最後に生徒役のお2人に感想をうかがった。StylishNoob氏は、「イチからのPC自作は初めてでしたが、これなら1人でもできるかもしれない、という気持ちになれて、非常にいい経験でした。最初は触るのが怖いんですが、一度慣れるとどんどん挑戦してみたくなりますね。自分で組むなら、とにかくめちゃくちゃ光っているPCを作ってみたいです」と展望を聞かせてくれた。ミツコさんは、「これまではPCやゲームも“見る専”だったのですが、実際に『C4LAN』に参加してみて自作PCに惹かれました。実際にやってみると、ブロックのように組んでいけるので、思ったより難しくないのかなという印象です。バリエーションが無限にあるし、奥深い世界なので、パーツを選んだりとか、自分でもやってみたくなりました」とコメント。
冒頭で述べた通り、未経験者にとってのPC自作が、とにかくハードルが高そうに見えるのは間違いないだろう。実際、一昔前までは今よりもパーツの相性問題が起きたり、情報を集めにくかったりしていたが、それはすでに過去の話だ。今は自作に関する情報が豊富に入手できるうえ、パーツ類の進化もあり、格段にPCを組みやすくなっている。興味のある方は、この機会にトライしてみてはいかがだろうか?