くまモン、女将、ランカと個性豊かな装いで登場した3人のクラウド女子が揃ったJAWS DAYS 2018の「未来のコンピューターおばあちゃんを目指すための第一歩 presented by AWS-UG Women Group」。初めてAWSに触れる人たちに向けて、自らが超えてきた壁やコミュニティの価値についての知見が惜しげなく披露された。
Communitiry Hero、クラウドコミュニティの母、コスプレエンジニア
まずはパネラーの自己紹介。AWSがグローバルで発表する「Community Hero」にも選ばれた多田歩美さんは、くまモンのかぶり物でおなじみ。2006年に本田技術研究所でインフラの導入や運用などを行なった後、研究開発で利用されるシミュレーション(HPC/CAE)システムの担当としてAWSと出会う。2年前から上流のIT戦略メインで携わり始め、AWSから遠ざかっていたが、この4月からは再度AWSを活用する立場に戻ってきたという。
高級旅館の女将風な着物でキメてきた小室文さんは、クラウド女子会の設立にも関わってきたクラウドエンジニア。2009年からAWSに触れていた小室さんは、おそらくオオタニがJAWS-UG関係者でもっとも最初に会ったエンジニアである。いわゆるクラウドコミュニティの母みたいな存在で、現在はサーバーワークスのエンジニアとして福岡支社を切り盛りしている。
鮮やかなランカコスで登壇したアールスリーインスティテュートのどりぃ(池上緑さん)は長らくインフラ部門での経験を積んできた、コスプレが通常スタイルのクラウドエンジニア。最近はkintoneや自社サービスのgusukuの広報・マーケティング活動も担当している。コミュニティにも数多く参加しているほか、JAWS-UGやkintoneなどのイベントを運営する側でもある。
勉強会に行けば、誰かが教えてくれた
こうした濃い3人のコメントを仕切るのはサーバーワークスのクリエイターである松本幸祐さん。最初の質問は「AWSを使い始めて、絶望的な気持ちになった経験はあるか?」というものだ。
多田さんは「AWSがわからなくて絶望したことしたことはないが、クラウドに対する周囲の理解がまったく得られなかったことには絶望したことはあった」とコメント。続いて小室さんは「AWSかRackspaceかという選択で、当時の会社がRackspaceを選んだこと」、どりぃさんは「2016年のCloud on the Beachで、70くらいあったAWSの全サービス紹介しろと言われたこと。めちゃ、しんどかった」とそれぞれコメントした。
続いて、クラウドやAWSに対して、どうやって一歩を踏み出したのか? 多田さんは、「とにかく触る、情報を探す、わからなかったらAWSのエンジニアに聞くという感じだった」と語る。JAWS-UGへの参加も勧められたが、「情シスなので、いわゆるプロフェッショナルとはやや違う。最初はエンジニアの勉強会に参加するのはやや抵抗感があった」と振り返る。
先達にあたる小室さんは、「2009年にAWSを触る以前、2006年くらいからDebian勉強会に参加していた。そこにはまさかり飛ばしてくる人も、教えてくれる人もいた。だから勉強会行けば、誰かが教えてくれるという体験がベースにあった」とコメント。とはいえ、コミュニティに行けば必ず勉強できるわけではないというのが、小室さんの持論。基本はドキュメントを読むことが重要で、コミュニティはあくまできっかけだという。
AWS独自の壁、周りの無理解の壁、フリーランスの壁
どりぃさんは元々AWSではないクラウドを使ってきたが、インフラの知識や勘所が得られたので、意外とスッと入れたという。一方で、AWSには独自の概念や用語があるので、そこらへんはドキュメントを読んだり、勉強会が必要だったという。松本さんは、「なまじインフラの知識を持っていると、とっつきにくい概念や用語があるので、そこで苦労している人も多いと思う」とコメント。「kintoneとAWS LambdaをつなぐときのNATゲートウェイの設定は必ずはまる。いい加減、学習しろって感じ(笑)」(どりぃさん)とのことで、苦労は絶えないようだ。
同じくクラウドの壁について聞かれた小室さん。「そもそも小室さんって壁にぶち当たることあるんですか?(笑)」という松本さんのコメントに対して、「確かに、ぶつかれば壁を壊すみたいな感じですからねー」とまったりレスポンス。とはいえ、クラウドに期待してフリーランスになったときは、「企業は一人のフリーランスに業務システムやネットワークを任せない」(小室さん)という気づきはあったという。アプリケーションはともかく、少なくともインフラに関しては、企業が個人に委託するマインドはまだまだ醸成されていないという感想だ。
クラウド一直線だった多田さんは、先ほどの絶望した話の具体例として、「周りの人が仮想マシンとクラウドの違いをまったく理解してくれなかった」という話を披露。では、どうやってこの壁を乗り超えたのか? 「理解を得られない人ばかりだとフラストレーションが溜まると思ったので、とにかく仲間を増やそうと思った。それが私にとってはJAWS-UGという場所。理解が得られないことを理解してくれ、いっしょにがんばろうという人たちに出会えたのが大きかった」というコミュニティLOVEなコメントには、なにより松本さんが満足そうだった。
コミュニティではアウトプットする側に回って欲しい
多田さんにとって、JAWS-UGで得られたのはやはり仲間。「AWS Samuraiとか、Community Heroとかありがたい称号をいただいてますが、たまたま当時エンタープライズの情シスでJAWS-UGに参加していた人が少なくて、目立っていただけだと思う」と謙遜しつつ、「もはや自分のような存在が珍しくないコミュニティに成長しつつある」と現在のJAWS-UGについて語った。
小室さんはコミュニティに参加するのにあたって、「エンジニアとしてのセルフブランディングをどうすればいいか、すごく気をつけた」とコメント。「女だから目立ってるだけでしょと言われないよう、相当勉強した。一人のエンジニアとして突き抜けるために、どう立ち振る舞うべきか、考えるチャンスを得ることができた」と小室さんは語る。当日、着物で登場してきたのもセルフブランディングの一環だという。
どりぃさんが得たのは、アウトプットする機会だ。「以前はインフラエンジニアだったのでマシンと正対して作業することが多く、知見をアウトプットする機会はほとんどなかった。でも、転職してクラウドエンジニアになり、コミュニティに参加することで、アウトプットの機会は圧倒的に増えた」(どりぃさん)。最近エバンジェリストや広報・マーケティング寄りの仕事が増えるにつれ、こうした経験やスキルが役立っているという。
最後、聴衆に向けたコメントを求められた多田さんは、「ぜひアウトプットする側に回ってほしい」と訴える。「私自身も小室さんに声をかけてもらって、初めて人まで話したのが、2014年のクラウド女子会。たいしたこと知らないんだよなと思いながら自分のことしゃべったら、思いのほか反響が大きかった。自分が他の人の役に立てたのがうれしかったし、なにより勉強になった」(多田さん)。
小室さんは、「クラウドはAWSだけではありません! でも、現時点ではAWSが一番いいと思っているので、ドキュメントを読みましょう」とエンジニアらしいコメント。どりぃさんは「考えるより、まずは行動しましょう。みなさんはこの会場に来るくらい行動力があるのだから、まずは触ってみて、それから悩めばいいと思います」とそれぞれコメントし、含蓄だらけの25分が終了した。