5月10日に東京ビックサイトで開催された「IoT/M2M展【春】」において、ソニーは4月末に発表されたばかりの独自のLPWA(低消費電力広域)ネットワークモジュールを初展示した。富士山5合目から奈良県の日出ヶ岳まで274kmという未曾有の長距離通信を実現する技術について聞いてきた。
100km以上という通信距離は控えめな数字らしい
LPWAはIoTでの用途が期待されている低消費電力広域の通信技術で、免許不要な帯域を用いるLoRaWANやSigfox、LTE版のLPWAであるNB-IoTとLTE Cat.M1など、さまざまな技術が花盛りとなっている。そんな中、4月末に発表されたソニー(ソニーセミコンダクタソリューションズ)のLPWAは、障害物のない状態で100km以上の長距離通信を実現するという新しい無線技術だ。
まだ名前すらないソニーのLPWAのスペックを見ると、利用する周波数帯はLoRaWANやSigfoxと同じ920MHz帯で、転送レートは80bpsときわめて低速。しかも、現状は片方向のみの通信にとどまる。しかし、伝送距離は前述の通り100km以上で、消費電力も1日1回の位置データの送信の場合、コイン電池で10年動作可能だという。
ただ、IoT/M2M展での展示を見ると、100km以上という伝送距離は実は相当控えめの数字のようだ。パネルを見ると、「ザックのポケットに送信機を入れて登山。150kmの遠距離から連続して安定通信を実現(栃木県日光市の男体山→神奈川県厚木市)」「最高時速100kmの高速移動中に安定通信を実現(車載送信機→神奈川県厚木市)」「超高感度により見通し274kmの長距離通信を実現(奈良県日出ヶ岳→富士山五合目)」などにわかに信じがたい実測データが表示されている。
通信距離が長ければ、それだけ設置する基地局が少なくて済むということであり、サービスモデルを大きく変えることが可能になるはず。既存のLPWA技術が数10km範囲にとどまっているのに比べると、今回披露されたソニーのLPWAのスペックはきわめて魅力的だ。
コンシューマーエレクトロニクス技術を総動員で安定した通信を実現
このソニーのLPWAネットワークは、光ディスクの誤り訂正などデジタル信号処理技術やテレビチューナーに搭載された高周波アナログ回路技術・低消費電力のLSI回路技術など、さまざまなコンシューマエレクトロニクスの技術が総動員されているという。
具体的には、0.4秒という短時間に、誤り訂正符号と伝送路を推定するためのパイロット信号を埋め込んだパケットを複数回送信。受信側は複数のパケットを受け取り、誤り訂正信号処理を施すことで、データを復元し、通信の成功率を高めているという。短時間に一気に送りつけたデータを、受け側でつかんでしまえば、とりあえずかなり確実に復元できるわけだ。また、他の電波の干渉やマルチパスなどの通信障害に強い耐性を誇る相互変調歪みに強いチューナーLSIを採用し、混信などの起こりやすい都市部でも良好な通信が可能だ。さらに送信モジュールと受信機はGPSを標準搭載しており、両者で高精度な時刻情報を受信し、タイミングを補正することができる。
現状、送信機・受信機を開発中というステータスで、PoC(Proof of Concept)キットも用意。ビジネスパートナーも幅広く募集している。長距離で移動にも強い特徴を活かし、業務車両の運行管理やライドシェアの管理、広域での見守り、山や海上での安否確認など、さまざまな用途が想定される。実際、ソニーでも登山者やスキー場の見守りを長野県の八ヶ岳で実施したり、北海道十勝平野ナイタイ高原牧場で放牧された牛を管理するといった実験を繰り返しているようだ。
IoT/M2M展のソニーブースでは「実用化はいつくらいなのか?」という質問があちこちで飛び交っており、多くの人が興味を持っているようだ。ビジネスパートナーも意外とスピーディに決まるかもしれない。