ブロックチェーンでコンテナ輸送の書類仕事を簡素にできないか、世界最大の海運企業マースクがIBMと協業で実証している。IBMはさまざまな業種でブロックチェーンの導入を進めており、ブロックチェーンのビットコイン以外の活用例が広がっている。
世界中で数百万個の巨大コンテナを移動させるのは大変な仕事だが、関連する書類を回覧させるのはもっと大変だ。そこで、世界最大の海運企業A.P. モラー・マースクはビットコイン(有名なだけで影響力は大したことの無い暗号通貨)を支えるデジタル・テクノロジーを活用して、書類作成に関わる業務を簡素化できないか試している。
ビットコインの基礎はデジタル取引台帳の「ブロックチェーン」だ。台帳に記録される各取引は、前回の取引を基に暗号化して記録されるため、ある取引を事後に改変することはほぼ不可能だ。ブロックチェーンは中央コンピュータに保存されるのではなく、複数のユーザーが個々の取引データである「ブロック」が正確だと合意することで、世界中に分散して保存される。したがって、ブロックチェーンの正確さを保つことは、全てのユーザーの利益になる。つまりブロックチェーンは金融取引の記録にふさわしく、他の多くのことの記録にも適合する。
マースクは、海上を移動する貨物の追跡にブロックチェーンを活用できないか、IBMと協力して実証中だと発表した。ただし、マースクが追跡するのは金属製のコンテナそのものではく、中味のほうだ。マースクによると、ひとつのコンテナを東アフリカからヨーロッパに輸送するには、立場の異なる30人が書類作成に関わる必要があり、200回も書類をやり取りすることになるという。
そこでマースクは、IBMとブロックチェーンに基づくツールを開発し、サプライチェーン各所の関係者が、貨物の現在位置や記録状況など、輸送の進行状況を確認できるようにした。目標は、荷主による書類作成の負担軽減と、税関職員や顧客が貨物の現在位置を常に把握できるようにすることだ。すでに、ロッテルダム港(オランダ)に出荷されるケニアの花、カリフォルニア州から出荷されるマンダリン・オレンジ(ミカンの一種)、コロンビアから出荷されるパイナップルが、このツールで追跡されている。
貨物の追跡にブロックチェーンを使うのはマースクだけではない。IBMのブロックチェーン事業を紹介するニューヨークタイムズ紙の長い記事によれば、同社はブロックチェーンをさまざまな状況に適用するため、400社と協業している。ウォルマートもその一社で、安全衛生基準を向上させるため、農産物の産地情報の表示と記録にブロックチェーンを使っていると昨年発表した。
IBMは明らかに、ブロックチェーンの一大勢力としての支配力を誇示したがっているが、他社も負けていない。実際、マイクロソフトもブロックチェーンに関わっているし、ブロックチェーンのオープンな性質により、企業金融向けの暗号通貨システムの構築からプライバシーを重視したインターネットの創設まで、ブロックチェーンを使ったより小規模な実証実験がすでに多く実施されている。ブロックチェーンはビットコイン用に作られたテクノロジーだが、その応用範囲はビットコイン以外に拡大しているのは明らかだ。
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