Amazonが日本でも開始した小型端末「Amazon Dash Button」(ADB)は、端末のボタン押すだけで商品が注文できる便利な端末として、さまざまな新聞やテレビなどでも報道された。ADBは、さまざまな物にインターネットを接続するIoT(Internet of Things)の先駆けとなるサービスだ。
ADRにより「先回りEC」を実現
ADBを利用すれば、洗濯用洗剤、飲料、トイレットペーパーなど、日用品の備蓄がなくなりそうになった時、ボタンを押すだけですぐ注文ができるため、買い忘れが防止できる。また、定期販売よくある「余っているのに次の商品が届く」という煩わしさも解消できる。
AIとともにIoTが注目を集め、多くのメーカーが開発費を投じている。ただ、IoTの現場で研究が進められているのは、ADBのように注文にボタンを押すのではなく、なくなってきた時点で自動的に注文できる技術だ。例えば、ウォーターサーバーに残量をチェックするセンサーを取り付ければ、水の残量が少なくなった時点で、自動的に水を届けるとこができる。
ADBはセンサーによる自動注文ではなく、目視による確認でボタンを押す行為が必要となる。センサーがない分、最先端のIoTとは言えないかもしれないが、小型端末なのでどこにでも設置でき、どんな商品にも対応ができるため、通販向けのサービスと言えるだろう。通販の人気は「まとめ買い」だ。500mlの飲料を24本まとめて購入することで、定価150円の飲料が約半額の値段で購入できる。店舗で購入するのは重くて大変だが、通販なら物流会社が自宅まで届けてくれる。日用品分野ではまとめ買いが人気だ。まとめ買いにADBをプラスすれば、注文を忘れすることなく、利便性も向上する。
ADBにセンサーはないため自動注文はできないが、これを可能にしたのがADBの販売と同時に開始した機器メーカー向けのクラウドサービス「Amazon Dash Replenishment(アマゾン ダッシュ リプレニッシュメント)」(ADR)だ。ADRによって、各端末の消費情報からAmazon経由で自動的にリピート通販ができるようになる。まさに次世代の「先回りEC」と言える。
先ほどの例で言えば、ウォーターサーバーにADBを取り付け、何度かリピート注文を繰り返せば、その端末の注文情報を学習し、水がなくなってきた時期に自動で水を届けることができる。これができれば、IoTでのセンサーがいらなくなり、リピート注文ではどんな商品にも対応できるようになる可能性がある。
ビッグデータの活用で広がるEC未来
ただ、ADB・ADRはまだ新しいIoTのサービスで、まだ発展途上の段階だ。この技術を活用すれば、さまざまなサービスの展開が予測できる。これは想像の世界だが、ADBを一体化させた冷蔵庫を開発したとする。その冷蔵庫には野菜やビール、牛乳、水、豚バラ肉、キャベツ、チーズなど、食品のボタンがたくさんあり、冷蔵庫を見ながらその場で食品のボタンを押せば、自動的に注文ができるようになる。冷蔵庫を見ながら注文ができるため、スーパーで「〇〇を買い忘れた」がなくなるのだ。ちなみに、Amazonは日本では生鮮食品を取り扱っていないが、米国では生鮮食品の通販サービスを行っている。
また、ADRで得られるビッグデータは、マーケティングにも活用できる。例えば、単発である日用品を購入したユーザーに、その商品がなくなる少し前のベストなタイミングでレコメンドの案内ができるようになるだろう。他のADBで得られたデータから、その商品がどのくらいの時期でなくなるのかAmazon側で把握できるからだ。これらのビッグデータにより、ECサイト側がより精度の高い情報を得られ、さまざまなサービスに活用できる。ADB・ADRで広がるECの未来に期待したい。
(山本剛資)