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「KT-NETフェスタ2016秋」のパネルディスカッションレポート

課題だらけの地方都市をIoTで救えるか?横須賀をモデルに考える

2016年12月08日 07時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp

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10月20日、開催された「KT-NETフェスタ2016秋」で「人口流出都市はIoTで救えるのか?」というパネルディスカッションが行われた。人口流出都市からの脱却を目指す横須賀の有志コミュニティ「ヨコスカバレー」のメンバーとアスキーのオオタニが地方都市とIoTの関係について討議をかわした。

パネルのテーマ「地方創生とIoT」はこうして生まれた

 KT-NETは、KDDI総合研究所と東京システムハウスが主催するIT企業のビジネスコラボレーション組織で、100社以上の会員が製品やサービスの共同開発・共同販売を進めている。最近はIoTでの新ビジネス創出を目指しており、会員以外の参加者も多く集まった今回のKT-NETフェスタ2016秋では、地方創生とIoTをテーマにした「人口流出都市はloTで救えるのか?」というオープニングパネルディスカッションが行なわれた。

 実は今回の「地方創生とIoT」というテーマは、KT-NET事務局とオオタニとのディスカッションで決まったもの。ディスカッションの冒頭、オオタニは今回のテーマ設定について「IoTで解決したい課題を与えるため」と説明する。

モデレーターを務めたKADOKAWA アスキーのオオタニ

 半年前のKT-NETフェスタ2016春の際に登壇したオオタニは、現在のIoTの現状について「上司からIoTをやれと言われたため、目的がない」「作りたいものは明確なのに、技術がない」「IoTで解決すべき課題がない」「そもそも流行に乗って作っているので、モチベーションがない」という4つの「IoT不在症」について言及した。特にIoTで解決すべき課題がないというのは深刻な症状で、技術や経験を持つエンジニアでも、そもそもどんな課題を解決したらよいのかわからなければ、社会インパクトのないIoTに陥ってしまう。これを解消するには、IoTを必要としている課題に真正面から向かうべきと言うのが、オオタニの自論だ。

 一方、少子高齢化や地域産業の崩壊といった事態に直面している地方都市は、課題の宝庫でもある。今回はそのうち日本一の人口流出として名指しされて以降、自治体や企業、市民などが協力して街の復興に取り組んでいる神奈川県横須賀市のヨコスカバレーのメンバーに集まってもらった。課題先進都市である横須賀の抱える問題は、他の地方としても当てはまるはず。ここでIoTがどのように活きるかを考えれば、多くの地方としても同じような手法が使えるはずだと考えたのだ。「IoTをなぜ作るのかというモチベーションに対して、地方は課題がいっぱいある。こうした課題にITもしくはIoTがうまくからめられないかと思い、今回のパネルを考えた」とオオタニは語る。

再生を目指すヨコスカバレーの「よそ者」「若者」

 自己紹介を促されたのは、ヨコスカバレーのボードメンバーである相澤謙一郎さんだ。相澤さんが率いるタイムカプセルは、人気アプリの「あべぴょん」や横浜Fマリノス、楽天イーグルズ、阪神タイガーズなどの公式スマホアプリの開発を手がける。

タイムカプセルの相澤謙一郎さん

 横須賀生まれ・横須賀育ちの相澤さんはこの10年地元を離れていたが、人口流出都市として名指しされた地元をなんとかできないかという使命感にかられたという。「10~20人程度の小さい会社だけど、事務所を横須賀に構え、ITで町おこしできないかと思って、2013年に横須賀に戻った」(相澤さん)。地元に戻った相澤さんは、40歳代の若い吉田市長と意気投合し、「10年間で100社の企業誘致、100億円の経済効果を生み出す」というコンセプトを掲げたヨコスカバレーを2015年7月に立ち上げる。このあたりの経緯は2月に記事化したので、ぜひこちらもお読みいただきたい。

 続いて相澤さんは観音崎の灯台、横須賀美術館から浦賀水道、軍艦三笠などの写真を元に風光明媚・地味豊かな横須賀を紹介。一方で、流入よりも流出の多い人口流出都市として2014年に1位、2015年に2位に名指しされている。「多摩丘陵の先に位置するので、山にへばりつくように家が並んでいる。坂を上っていかないと家にたどり着けない」(相澤さん)という高齢者に厳しい住環境。さらに造船や自動車の工場が撤退したことで、人口の転出が加速化しており、「駅近に限界集落が発生している状態」(相澤さん)になっている。

 相澤さん率いるタイムカプセルは、こうした横須賀で目立つ空き屋の1つを借り上げ、社宅兼オフィスとして利用している。「一軒家110㎡で家賃は月6万9000円。都内だったら、1DK行けるか、行けないかのコスト」という。

 相澤さんの次に自己紹介したのは、ビーマップ 担当部長で、無線LANビジネス推進連絡会(Wi-Biz)運用構築委員会の副委員長である中井 大さん。中井さんは横須賀に縁もゆかりもないいわゆる「よそ者」の立場だが、相澤さんと仕事のつながりがあり、ヨコスカバレーに参画している。過去には同じく地方創生に積極的な福岡市に在住したいたこともあり、地方創生の文脈でどのようなビジネスができるかを模索している立場だ。

 若者代表として登壇したのは、地元企業ステップの水野高志さん。水野さんは地元企業を知ってもらいたいというモチベーションからヨコスカバレーに参画し、ドローンユニットで活動中だ。

 もう1人の若者代表である竹田さんは藤沢出身で、横浜の高校に進学しているため、横須賀とはもともと縁がなかった。しかし、高校の時に参加した神奈川県議会の体験会で、当時の松沢知事に「これからの神奈川を担うのは君たちだ」という声をかけられ、すっかり感化されたという。しかし、その後高校生としていろいろ活動しようとしたものの、「大人が助けてくれなかったり、そもそも機会がなかったという憤りが原体験としてあった」(竹田さん)という。今は神奈川県の高校生や若者が自然と地域と触れあって、地域の課題解決能力を磨いて行ける場所を作るべく、社団法人ウィルドアを設立している。

仕事がない、事業を立ち上げる力がないなど横須賀の課題とは?

 自己紹介の後に、さっそく現状認識とディスカッション。まず相澤さんは横須賀の課題として「仕事がない」と挙げる。「私もかつて地元の大学を出た時に、横須賀で働くというイメージがなかったけど、今はそれがさらに加速しているんじゃないかと」と相澤さんは語る。地元で働くのをあきらめ、都内で就職するという横須賀の若者も多いという。地元で働くとなると、どうしても店舗勤務やペンキ屋、漁師、農家などになり、ホワイトカラーの仕事が少ない。YRP(Yokosuka Reserach Park)を抱える横須賀にはキャリアの研究所も多いが、地元の企業と新しいものを生み出すという例はなかった。

 これに対して、水野さんは「大学までは横須賀から通っても、都内の会社に就職する際に人口転出が起こる。その1つの背景は、横須賀の若者が地元の会社を知らないことにある。実際、高校生に聞いてもまったく知らなかった」と語る。竹田さんはもう少し踏み込み「そもそも横須賀にいたいという気持ちがないのではないと思う。横須賀愛はあるけど、横須賀にずっと住んでいたいという思いが若者に足りてない気がする」と語る。

地元企業ステップの水野高志さん

 福岡に在住した経験を持ち、自身も北海道出身という中井さんは、課題について「事業を興していく力が欠けているのかもしれない」と指摘する。「事業を興した経験がない人が多いと、地元に元々あった事業に感化されてしまう。故郷の北海道を見れば、炭坑業が衰退し、農業にシフトした街もあれば、そのまま廃れていった町もあった」と語る。こうした課題感もあり、中井さんが住んでいた福岡は10年かけてスタートアップやITの領域にフォーカスして、企業誘致や新事業育成を進めており、このケースは1つ注目すべきだ。

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