「コンテンツブロッカー」は、Webアクセスをスピーディにする
この「コンテンツブロッカー」の機能はiOS 9の世代のSafariで初めて導入されたもので、すでにOS X版Safariでは提供されている「Content Blocking Safari Extensions」を拡張したものだ。Content Blocking Safari Extensionsを利用して「コンテンツブロッカー」機能を提供するアプリは、Safariに適切なJSONファイルを渡しておくことで、SafariのWebコンテンツ表示に関する機能の一部を引き受けることができる。
JSONファイルは、「コンテンツAがWebページに記述されていた場合に、行動Bをとる」といった、「トリガー」(trigger)と「アクション」(action)を規定したもので、広告を含むコンテンツ表示ルール(フィルタ)の記述書となっている。基本的に、Webページを表示するたびに「Peace」などのアプリに処理を戻すわけではなく、Safariがコンテンツブロッカーの機能を備えるアプリ側から渡されたJSONファイルをバイトコードに変換して一括処理する形態となっている。そのため、どれだけ使いやすいフィルタを出力できるかがアプリごとの差別化ポイントとなる。
コンテンツブロッカーが提供する機能は多彩で、TechCrunchが「1Blocker」というアプリで紹介しているように、広告ブロックにとどまらず、ユーザー行動の追跡防止機能や各種コメントやウィジェットの無効化、アダルトサイト排除、ブロック対象のURLのカスタマイズなどが可能だ。
本来の目的としては「ユーザーが意図しない、あるいは望まないコンテンツの表示を無効化することでWebアクセスをスピーディにする」ことにあり、そのための手段としてContent Blocking Safari Extensionsの解放と、同機能を利用するアプリのApp Storeへの登録を可能にしたのだと考えられる。
これらコンテンツブロッカーを利用する最大のメリットは、モバイル端末でのコンテンツへのアクセスをスピーディにすることだ。前述のように、もともとOS X版Safariには導入されていた機能であり、その意味ではiOSにもようやく導入が進められた状態だ。
ただ、モバイルにはPCと違う事情が2点ほどある。ひとつは、もともと広告ブロック機能がない世界を前提にコンテンツ配信ビジネスが構築されていたこともあり、iOS 9の登場によりこれが崩れてしまうということ。
ふたつ目は、PCが屋内外でも比較的パフォーマンスの安定したネットワーク経由でインターネットに接続するのに対し、モバイル利用では電波状況が一定せず、データ容量制限があるネットワークや従量制ネットワークを主に利用するため、ユーザー体験が大きく異なる点が挙げられる。
コンテンツブロッカーを利用することで、Safariは広告などメインのコンテンツ以外をサーバへと読みにいかなくなるため、結果として表示速度が速くなり、さらに読み込むデータが減るため消費するデータ容量を削減できる。
なお、Appleの説明によれば、パフォーマンス上の問題からContent Blocking Safari Extensionsは“64bit限定”の機能となっている。そのため、iOS 9対応ながら32bitプロセッサしか搭載しないiPhone 4SやiPad 2など、旧世代のiOSデバイスでは利用できない。
コンテンツフィルタの有効範囲
もう1点、気になるのはコンテンツフィルタの有効範囲だ。例えば前述の「Peace」の例でいえば、ソーシャルウィジェットのブロック機能で「Twitter」や「Facebook」は除外できているものの、日本固有(というと語弊があるが……)のサービスである「Line」や「はてなブックマーク」はそのまま残っている。つまり、フィルタを最大限に有効化するには地域特性を考慮したカスタマイズが必要だ。
また、広告についても今回はうまく排除できているようだが、一般的な広告配信ネットワークを経由しないケースなど、URLによるフィルタリングが難しいケースも考えられる。例えば違法コンテンツを扱うサイトやアダルトサイトなど、広告の多くがフィルタを通り抜けて表示されてしまうことも十分考えられるだろう。さらに前述のように、現在App Storeで配信されているコンテンツブロッカーの多くが海外ベースのものであり、日本や米国外で運営されるサイトに対してどこまで有効かは難しいところだ。
対応すべきアクションを増やすとフィルタが肥大化し、結果としてWebアクセスを損ねるだけの結果にもなりかねず、悩ましい問題だ。このあたりは、今後日本向けのアプリも多数登場し、だんだん機能が洗練されてくるだろう。